コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


俺の背中は何を語っているだろうか

俺の背中は何を語っているだろうか
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仕事のパフォーマンスが、大きく上がるきっかけとなった体験を振返ってみてください。それはどんな体験だったでしょうか。

大きな失敗をしたとき
大きなことにチャレンジしたとき
抱えきれない仕事量に押しつぶされそうになったとき

自分のキャパシティを超える課題に直面してストレッチすると、成長スピードが加速し、パフォーマンスも大きく上がります。そのきっかけは、意外と身近なところにあるものです。

前職時代、思ったようにパフォーマンスが上がらない時期がありました。

「成長したい!」という意気込みが強かった私は、クライアントへの提供価値を少しでも高めようと、当時の上司に「●●をしましょう」と熱心に提案をしていました。しかし、上司には「そこまでやらなくていい。やってほしいと言われていないから」と却下されてしまう。そういったことが続くうち、だんだんと業務内容に面白みや意義を見出せなくなり、いつのまにかパフォーマンスも停滞気味になっていきました。

クリスマスイブの資料作り

そんな私に変化をもたらしたのは、新たな上司であるAさんとの出会いです。Aさんと一緒に取り組んだ資料作りの体験を、今でも鮮明に思い起こすことができます。

クリスマスの数日前に、あるお客様から企画の提案依頼がありました。提案書の提出期限はクリスマスの翌営業日。周辺の情報収集をすると、落札する業者は既に決まっている様子。その提案依頼は、お客様の社内調整のためのアクションであるということがわかってきました。

しかし、もちろんお客様からの依頼ですから、提案を出さないわけにはいきません。提案書の作成は、クリスマス返上で行われました。遅くとも、クリスマスイブの21時頃には資料を仕上げ、少しでもクリスマスを味わいたいと思っていたのですが、Aさんは資料のクオリティにこだわり、なかなか作業を終えようとしません。資料を作って、眺めて、作り直し、作って、眺めて、作り直しを続けます。

私には、Aさんの行動が理解できませんでした。

「受注業者はうちではないことはすでに確定しているのだし、そんなに資料の仕上がりにこだわっても意味はないだろう」

そう思いつつも、口に出す勇気はなく、Aさんの作業を見守っていました。Aさんは黙々と資料作りに取り組み、クリスマスイブの夜は更けていきました。

資料作りが終わるとAさんは、疲労感をにじませながらも清々しい顔をして「夜遅くまで、お疲れさま! こんな時間までつきあってくれてありがとうね」と声をかけてくれました。私はそんなAさんを直視できず、モヤモヤとした気持ちを抱えながらオフィスを出ました。

そして、その企画は事前の情報通り、別の会社が受注しました。

「手を抜くのって悔しくない?」

その日に感じたモヤモヤがいつまでも消えなかった私は、飲み会の席で、Aさんに資料にこだわった理由を聞きました。Aさんから返ってきた答えは、

「んー、なんとなく。だって、手を抜くのって悔しくない?」

その言葉を聞いて、私が感じたのは強烈な「恥ずかしさ」です。多くを語らないAさんでしたが、その一言から、Aさんの仕事に向き合う姿勢やプロとしてのこだわりが伝わってきました。Aさんが黙々と資料を作る姿を見てモヤモヤしたのは、どこかでそのプロ意識に圧倒される自分がいたからなのだろうと思います。クライアントへの提供価値にこだわっていない自分をうっすらと自覚しながらも、それを誤魔化そうとしていたのかもしれません。Aさんの一言を聞いて、ミッションをもたずに仕事をしている自分自身を振返り、まるで「魂のこもっていないマシーン」のようだと思いました。

それ以降、私は「ラストワンマイル(最終工程)」にこだわるようになりました。「こだわりたい」とか、「こだわらなければならない」とか、「こだわるべき」といったものとは異なり、「こだわらずにはいられない」に近い感覚です。頭で動くのではなく、魂に突き動かされるように仕事に取り組みました。そうするうちにいつの間にか、仕事に対する熱意が自分に戻ってきていることに気づきました。仕事においても、細部に「こだわり」が宿るようになり、結果として、私のパフォーマンスは大きく向上しました。

言葉の影響、振舞いの影響

私に強い影響を与えたのは、「Aさんが黙々と資料を作る姿」でした。Aさんは何も言いませんでしたが、その姿から、Aさんの仕事への熱い想いを感じとっていたのだと思います。「こだわりは細部に宿る」という言葉がありますが、同様に、仕事への想いや価値観も、些細な行動に散りばめられているものではないでしょうか。そして、周囲の人はそれを敏感に感じ取っているものです。

コーチとしてクライアントと接していると、「なかなか部下に想いが伝わらないんだ」と悩むリーダーの方が多くいらっしゃいます。それはもしかしたら、自身の仕事への向き合い方やふだんのあり方などから伝わる情報と、言葉で部下に伝えている内容に整合性が取れていないことが理由の一つかもしれません。かの有名なメラビアンの法則によると、人はコミュニケーションにおいて、相手の話す言葉よりも振る舞いや見た目などの視覚情報からもっとも影響を受けると言います。つまり、部下に想いを伝えるための鍵は、自分の振舞いや「あり方」にヒントがあるのかもしれません。

さて、クリスマスの提案活動からだいぶ時間は経ちました。この間、私は、「先輩」、「上司」、「リーダー」の立場を経験してきました。

「俺の背中は、後輩に何かを残せているだろうか」
「俺のあり方は、後輩にとって刺激のあるものになっているのだろうか」

これらは、折に触れて自分に投げかけている問いです。

みなさんの背中が発するメッセージは何ですか。


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