コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
あえて、ゴールを忘れる
コピーしました コピーに失敗しました人生5回目のフルマラソン
人生5回目のフルマラソンに挑戦したときのことです。
5回目ということで、いつもと違った「遊び心」を入れようと、スーツにネクタイ、革靴を履き、完全なサラリーマンの通勤スタイルという、全身仮装でレースに挑みました。
他の参加者や沿道の人たちから注目され、その声援が心地よく、スタートしてしばらくは意気揚々と足が前に進みました。
ところが、僅か13km地点という、レース序盤から、早くも足に強い疲労を感じるようになってしまったのです。
「まだ3分の1。この状態じゃあ、残り29kmの完走は絶対に無理だ・・・」
そんな台詞が浮かび始めました。
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皆さんも、ゴールまで前進してきたこれまでの道のりと、残りの道のりを天秤にかけて無力感に苛まれた経験はないでしょうか。
スーツに革靴姿という、普通に考えれば無謀な42キロ。予想以上の体力消耗の中、私がなぜ、完走できたのか・・・。
振り返ってみた結果、次の2つのことが良かったのだと考えています。
- ゆっくりでも、止まらずに歩き続けたこと。
- 小さな目標を設定し続けたこと。
13km地点の私には、2つの選択肢がありました。
- 限界が来るまでとにかく気合で走り続ける
- スピードを落としてゆっくり無理せず歩く。
仮装レースでもないのに、スーツ姿という注目を浴びる格好で参加している上、多くのランナーたちが軽快に走っているレース序盤に「歩き出す」という選択をすることは、私にとって勇気が要ることでした。
ただ、限界が来るまで気合で走り続けることを選択していたらきっと完走はしていなかったでしょう。
実際、途中、歩く私を勢いよく抜かして行ったランナーたちがコース終盤で何人も地べたに座り込み、うな垂れていました。
さて、「走る」のを止めた結果、身体は少し楽になりましたが、一方で、歩いても歩いても42.195kmのゴール地点に近づいているという実感がなくなってしまいました。
そこで「42.195km」のゴールについて考えるのを止めることにしました。
目先の、「小さな目標」を設定して、そのことだけに集中する
目先の、「小さな目標」を設定して、そのことだけに集中することにしたのです。
- とりあえず、5km先の地点まで到達する。
- 折り返し地点までは、早歩きで頑張る。
- 次の5km先に到達するまで20人に話しかける。
目先の「小さな目標」は、大目標である42.195kmを見据えていたときの辛さをかなり忘れさせてくれました。
なんとか35km地点に差し掛かり、残り7kmになったとき、ようやく、「これなら完走できる」 という気持ちが沸いてきました。
身体は相変わらず疲れていましたが、自然と走り始めていました。
「あえて、最終的なゴールを忘れる」
ともすると、わたしたちは、明確なゴールがあればあるほど、それに固執してしまう、ということがないでしょうか。
行動の指針となる「大きな目標」を手放すのは勇気がいることですが、意外と、その方がゴールに近づくこともあるのかもしれません。
クライアントが目標達成に向けた行動のスピードを緩めたとき自分はコーチとしてクライアントにどう関るのだろうか。
今なら、新しい選択肢を創造できるような気がしています。
(日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て一部修正のうえ転載)
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