コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
「カリスマ的仲介者」への第一歩
2018年09月11日
キーパーソン全員と対話する。
これは、私のクライアントであるAさんが、セッションの中で最初に宣言した行動です。
Aさんは、本社からの出向者として、その出向先企業の立て直しを行うことをミッションに、私とコーチングを始めました。出向先企業には、Aさんと同じような本社からの出向社員もいれば、子会社で採用された社員もいます。
Aさんの出向当初、本社と出向先企業との間には、大きな溝がありました。出向社員は、
「子会社の社員は、使えない」
と揶揄していましたし、出向先企業を管轄する本社側の責任者も、
「本社のナレッジやアセットを使ってほしくない」
と、出向先企業に制限を加えていました。そのような状況の中、Aさんは、出向先企業の立て直しを行わなければなりませんでした。
Aさんに
「このミッションを実現する上でのポイントは、何か?」
と質問すると、Aさんは即座に
「出向先企業の立て直しに必要なキーパーソン全員と対話する」
と答えました。「人に喜んでもらうこと」を大事にするAさんにとって、子会社の立て直しをすることはその社員に喜んでもらうことにつながりました。そのためには子会社のキーパーソンと話すことが必要だと考えたのでしょう。すぐにキーパーソンである本社の責任者、出向先企業の出向社員、子会社の社員と対話を始めました。
「カリスマ的仲介者」
Aさんのセッションを続けている最中、私は、マサチューセッツ工科大学教授のアレックス・ペントランド博士の研究を思い出しました。ペントランド博士らは、経営者向け集中講義に参加した人々に対し、最初の晩に行われた交流会での行動と、講義での最終課題との関係性を調べました。すると、交流会にて人々の間を熱心に歩き回り、短時間でも熱意に満ちあふれた会話を通じてエンゲージメント(仲間同士のグループ内で、経験や観察を通じて新しい考え方を学ぶこと)を行っている人が多いチームほど、最終課題のビジネスプランコンテストで高い評価を受けていました。ペントランド博士は、そのような人を「カリスマ的仲介者」と呼んでいます。常に好奇心を持って質問を行うことで、アイディアを拡散させ、組織内の全員が輪に加わるようにする。そのような人は、組織の成功に欠かせないと伝えていました。(※1)
対話を始めたことで起こったこと
Aさんがキーパーソンと対話を始める際に、「いま何が起こっているのか?」「何に困っているのか?」「それにどう対処しているのか?」を相手に質問するようにしました。そして、その質問により得られた答えを他の関係者と話すときに伝えていきました。この取り組みを続けた結果、出向社員は子会社の社員が置かれている状況を把握できるようになっていきました。それにより、出向社員から子会社の社員へ権限委譲が施され、子会社の社員は、主体的に営業活動を行うようになったのです。出向先企業の立て直しというミッションに向けて、アイディアを拡散させる、組織内の全員が輪に加わる、その土台が組織に創られる一歩を、Aさんが踏み出したのだと私は感じています。Aさんは、これからもキーパーソンと対話を重ねていくことで、まさに、ペントランド博士の言う「カリスマ的仲介者」になっていくでしょう。
対話を始めるために
では、Aさんは、どうしてその一歩を踏み出せたのでしょうか。対話を始める際、Aさんには、相手が対話に応じてくれなかったらどうしよう、という不安がありました。Aさんが置かれていた状況のように、溝がある関係性で対話を始めるのであれば、不安になるのも当然だと思います。それでもAさんは、キーパーソン全員と対話を始めました。それができたのは、対話を続けるその先に、ミッションの実現があり、それが人に喜んでもらうことに繋がるのだと、信じていたからです。
組織の成功に欠かせない「カリスマ的仲介者」への第一歩は、対話を重ねたその先をイメージしてみることなのかもしれません。
あなたは、組織の成功に向けて、誰と対話を始めますか?
その人と対話を始めたその先には、何が見えますか?
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