コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
「何」をリスペクトするのか?
コピーしました コピーに失敗しました「積極的に改善提案をあげてもらいたい」
「新たなことにチャレンジしてもらいたい」
「主体的・自律的に行動してもらいたい」
リーダーの方から、「強い組織にするために、もっと社員の力を引き上げたい」というお話をよく聞きます。
「強い組織」とは、いかにして創られていくのでしょうか。
「新幹線劇場」はどのようにして生まれたのか
プラットフォームから見える、新幹線車内でのテキパキと鮮やかなプロの仕事ぶりが「新幹線劇場」と称され、名物風景にもなったJR東日本の新幹線清掃チーム。
「たかが掃除」
と、仕事になんの希望も持っていなかった清掃チームのスタッフが、「世界一の現場力」や「奇跡の職場」と称されるまでに至った8年間の軌跡は、本やテレビなどさまざまなメディアで紹介されています。
「たかが掃除」だったチームが、一般の旅行客からの拍手にとどまらず、ディズニーランドの関係者や海外メディア等も視察に足を運ぶほどまでに注目を集めたその変革の出発点は、どこにあったのでしょうか?
「すごい!」という感動がリスペクトに
書籍『新幹線 お掃除の天使たち』『奇跡の職場 新幹線清掃チームの"働く誇り"』には、さまざまな施策が紹介されていますが、私の印象に残っているのは、ある経営者の一言です。
「奇跡の職場」への変換点となったもの、それは、ある経営者の「すごい!」という言葉だったそうです。
その経営者は、3Kと言われる職場の中でも、明るい表情で働く一部のチームスタッフの仕事ぶりに感動したのでした。
・7分という制限時間の中で、床、椅子、テーブルなど、すべてを掃除していくスピード感
・ホームで困っている人を見つけたら、担当外にもかかわらず声をかける
・荷物を運ぶお年寄りがいれば、代わって運ぶ
そんなスタッフの様子に「すごい!」「こんなスタッフもいるんだ!」と感動した経営者は、チームスタッフの視点・意見等を尊重する経営方針へ切り替えました。
こうした社内からのリスペクトを起点に、社外からも寄せられ始めた「リスペクト」が、チームスタッフの誇りを刺激し、その仕事ぶりは今なお進化し続けていると言われています。
上司が喫茶店で話したこと
私の身近にも「社員の力の引き上げ」に成功しているリーダーがいました。前職時代の上司です。
今思うと、その上司も頻繁に私を「リスペクト」してくれていました。
私が、複数社から専門家が参画するプロジェクトのリーダーを務めた時のことです。プロジェクト立ち上げ当初、私にはプロジェクト遂行に必要な知識や経験が全くなく、時間ばかりが、刻一刻と進んでいくような毎日でした。
とにかく、前に進めるしかない。
エラーばかりが続き、穴に入りたくなるほどの日々。不安ばかりが膨らみ、心が休まらない日が続きました。
・なんの結果も出せていない
・プロジェクトは慢性的な遅延から脱していない
・リーダーとして、みんなをどこにリードすればいいのか?
・部下にも、他者のメンバーにも「格好悪い」と思われているのではないか?
上司は、そんな私を折に触れて私を喫茶店に連れ出してくれました。そして、繰り返し言いました。
「成果にむけた『行動量』が増えている」
「〇〇社のリーダーは、君の本気の『仕事ぶり』に刺激され動かされていると言っていた」
「チームメンバーの『成長スピード』は目覚ましい」
「ストレスのかかるプロジェクトなのに、投げ出さずに取り組んでくれていること自体が嬉しい」
そして、毎回「本当にありがとう」という言葉で終わるのでした。
エラーが続くなかで、立派な「成果」を上げられていたわけではありません。ですが、「このプロジェクトに全てを捧げている」という自負だけはありました。
そのため、「成果」を追い求め「行動」や「姿勢」、「成長」にリーダーが気づいてくれていたこと、自分という存在をリスペクトしてくれたことに少なからず心が充足され、
「やることはやっている。いつか状況は好転するはずだ」
という強い気持ちをもち続けることができました。また、暗闇を歩く孤独感から時々押し寄せる
「なんで俺がそもそもリーダーをやらなければならないんだ!」
「他社からのプロジェクト参加者は全然協力的じゃない!」
といった他責の雑念も、大幅に軽減されていきました。
そして、「あとは、成果を出すだけだ! もっとやろう!」の想いにつながり、行動が加速していきました。
私を動かしたものは、上司が醸し出す、混じり気のない「リスペクト」の気持ちでした。
その後、紆余曲折がありながらも、プロジェクトは約4年の歳月をかけ終わり、社内表彰をいただけるほどの結果を残すことができたのです。
「わかりづらいもの」の中にみつけるリスペクトの芽
リスペクトの対象は、立派な「成果」に限りません。「行動」・「姿勢」・「成長」といった「わかりづらいもの」も、十分対象になります。
定量化や可視化といった名のもとわかりやすい成果が求められる風潮の中、「わかりづらいもの」は、とかく見落とされがちです。また、「わかりづらいもの」は、わかろうとするために観察しないと、いつまでたっても見えないままです。
しかし、日々のコミュニケーションの中で観察を継続すれば、リスペクトのポイントは徐々に見えるようになってきます。
「すごい!」
「ありがとう!」
混じり気のない気持ちが生まれたら、まず、それを伝えてみてはどうでしょう。
強い組織づくりに向けて、あなたは何をリスペクトすることから始めますか?
「奇跡の職場 新幹線清掃チームの"働く誇り"」 矢部輝夫
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。