コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


「つい、」からはじまる物語

「つい、」からはじまる物語
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「カチャ、カチャ、カチャ、パンッ!カチャカチャカチャ、パンッッ!!」

パソコンを叩く大きな音がフロア中に鳴り響き、不調和なリズムを刻む。

背中を丸め、鬼のような形相でパソコンを睨むように叩く姿。

普段は笑顔が多く、「優しい人」と評判のそのリーダーは、ひとたびパソコンを打ち始めると人が変わったように近寄りがたく、「話しかけられない人」へと変身しました。

パソコンのキーボードが大きな音を立て始めた瞬間、「いつでも相談に乗るからな」という言葉は宙に浮いたかのように、誰もがそのリーダーに近づけなくなるのでした。

「つい、」が与える影響

そのリーダーは、パソコンで仕事をしていると、集中するあまり、「つい、つい」自分の世界に入りこみ、周りが見えなくなってしまうようでした。

「つい、」目つきが鋭くなり、「つい、」何かに怒ったような表情になってしまいます。

本人は、全く悪気はありません。ただただ、目の前の仕事に集中して、真摯に向き合っているだけでした。

では、そのリーダーが悪気なく、「つい、」怖い表情で、パソコンを打ち続けた結果、どんな結末を生んだのでしょうか?

  • 早急に共有されるべき情報がメンバーから共有されず、スピードが遅れる
  • 顧客への対応に悩んでいるメンバーがその場で相談できず、トラブルに発展する
  • メールのみでの伝達になり細かなニュアンスが伝わらず、相互の理解に乖離ができる

これらはすべて、そのリーダーの「つい、」から生まれたものです。

いわずもがな、組織にとって、マイナスの影響を及ぼしていました。

人は自分を「客観的」に見ることが困難

私がコーチしたクライアントAさんも、「つい、」によって、予期せぬ結果をもたらしてしまった一人です。

Aさんは、「部下を後進として育て上げたい」という目標をもっていました。

部下を成長させたいという想いがあまりにも強かったのでしょうか。Aさんは、「つい、」説教染みた関わり方をしてしまっていました。

「自分が若いころは、○○するのは当たり前だった。君もそうしたほうがいいのではないか」

と、「つい、」自分の若かりし頃の自慢話をし、同様の行動を求めてしまう。

あるいは、「君と同期の彼は、リーダーとして活躍しているではないか。君ももっと頑張らないとな」と、「つい、」他の人と比較をしてしまう。

そんな具合でした。

もちろん、Aさんには悪気がありませんでした。むしろ、部下をモチベートするために、一生懸命伝えていただけ、のつもりでした。

しかし、Aさんの部下は、Aさんのそのような関わりがストレスとなり、のちに退職することになってしまいました。

Aさんは部下の退職理由を、人事部から初めて知らされたとき、目の前が真っ白になったそうです。

ノースウェスタン大学 ビジネススクールのCarter Caset教授は、「ブラインドスポット(※)は起こるものだ。私たちのほとんどが、自分に"客観的に"なることは難しい」と言っています。(※1)

※ブラインドスポット...周囲は知っている(見えている)のに、自分自身は知らない(見えていない)領域のこと。

また、ハーバード・ビジネスレビューに、ゼンガー・フォークマンらは「全リーダーのおよそ30%が、最低でも1つ"致命的欠点"を持っている」と述べています。(※2)

この論文の結果からも、リーダーにとって、自分自身が見えていないこと、「つい、」やってしまっていることを知ることが非常に大切なことだと分かります。

自分を知るために、取るべき大切な行動とは?

では、どうやって、自分自身が見えていないことが見えるようになるのでしょうか?

それは、他者から「正直なフィードバック」を求めること、そして、それを受け入れることからはじまります。

あなた自身に真実を伝えてくれる人から、正直に、本気で、見えていることや感じていることを伝えてもらう。そして、どんなに耳の痛い情報でも、積極的に受け入れ、真摯に向き合うことが必要となります。

先ほどのクライアントAさんは、自分の部下が突然辞めてしまうというショッキングな経験をした後、上司や同僚に自分自身がどのように見えているのか、見えていることがあれば、遠慮せずに何でも伝えて欲しい、とお願いしたそうです。

どんなに言いづらくても、自分の成長のために、そして、後進を育成し若手が活き活きと働く環境を作りたいという目標のために、フィードバックを求めました。

Aさんの本気が伝わり、上司と同僚から、多くのフィードバックをもらえたそうです。

私とのセッションで、そのことについて「自分で『つい、つい』してしまっていることなどを聞くのはきつかったけど、知ることができて、良かったです」と嬉しそうに話すAさんがいました。

また、Aさんがフィードバックを求める行動に影響を受けた、上司や同僚は、同じようにフィードバックを求めてくるようになったとのことです。

私は、Aさんのお話を聞き、正直なフィードバックをしてくれる「関係性」を自ら築き上げていくことの大切さを学びました。

そして、その行動が周りに影響を与え、フィードバックの輪が生まれ、組織として、見えていないものが見えるようになっていくことを教えていただきました。

自分の「つい、」を知り、成長の機会にする

高い成果を上げているリーダーや、人からの信頼が厚いリーダーに共通しているのは、意図をもって、丁寧に、コミュニケーションをしようと努力されていることです。

リーダー自身が周りに与える影響に対して、アンテナが立ち、クセや弱みがないかのフィードバックを定期的に求めていらっしゃいます。

その結果、無意識のうちにやってしまっている「つい、」に気付き、予期せぬ不幸な結果を招くことを防げているのです。

「つい、」を完全になくすことは難しいかもしれませんが、致命的な欠点にならないように修正し、人として常に成長されているのです。

あなたは、「つい、」やってしまっていることがありませんか?

その「つい、」が不幸な結末を生んでしまう前に、誰と、正直なフィードバックをもらう関係性を築きたいですか?

【参考資料】
※1
How to Recognize Your Blind Spots Before They Derail Your Career
10.16.2017 By Stephanie Vozza
Fast Company & Inc © 2017 Mansueto Ventures, LLC

※2
Most Leaders Know Their Strengths -- but Are Oblivious to Their Weaknesses
Jack Zenger and Joseph Folkman
FEBRUARY 21, 2018
Harvard Business Review


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