コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
最高の卵スープを求めて~家庭内組織開発
2019年04月16日
「他部門連携は難しい」
これは経営者の方がよく口にされるテーマですが、最近我が家で起きた「鶏がらスープの素事件」は、それを痛感する出来事でした。
我が家では仕事から早く帰った人が夕飯を作ることになっています。先日夕飯担当だった主人は、卵とトマトのスープを作りました。それは、コンソメ味でした。
私は、極力味について口を出さないようにしているのですが、この日はおさえきれず、
「このスープ、鶏がらスープにしたほうが美味しいかもね」 と遠慮気味に感想を伝えました。
すると主人は珍しく素直に、「うん、俺もそう思う。でも鶏がらスープの素がなかったから、仕方なくコンソメにした」 と言いました。
私は驚いて、「あるよ。冷蔵庫の三段目の棚に」 と、スープの素が置いてある棚を見せました。
すると主人は、「ほう、知らなかったよ。あそこはあなたが買ってきたよくわからない調味料コーナーだから」 と諦めた口調で言いました。
私は反省しました。鶏がらスープの素の場所さえ共有しておけば、もっと美味しい卵スープが飲めたのに。
それと同時に、主人にほんの少しだけ苛立ちました。LINEで一言聞いてくれればよかったのに。
これは家庭内の出来事ですが、組織の中でも同じようなことが起きていると思いませんか。対話の手間をおろそかにしたことで、意図せず、大事な情報が共有されなかったり、他部署の領域を「よくわからない」と決めつけて協力することを諦めたりしていないでしょうか。その結果、協力関係が弱まり、「最高の卵スープ」を作る機会を失ってしまったことがあったのではないでしょうか。
関係はいつ、なぜ弱まるのか?
最も親密な関係であるはずの家族でさえサイロ化してしまうのですから、組織という多くの人が集まる集団における協力関係の維持は、非常に難しいチャレンジなのかもしれません。組織内の協力関係は、鶏がらスープ事件のようにちょっとした情報共有を怠ったり、知らず知らずのうちに他者や他部署にレッテルを貼ったりすることで、気づかないうちに弱まり始めることが往々にしてあるものです。そして、その原因の一つに、実は身近な人との関係性に影響を受けていることがあります。
実は身近な人との関係性が影響
先日クライアントだったMさんとお話ししていたときに、「提案を聞き入れてくれない上司にどうしても感情的になっていらいらしてしまう」ことが話題になりました。
Mさんは穏やかな雰囲気をもつ方で、半年間のセッションの中で、いらいらした様子を見せたことは一度もありませんでした。いろいろな方とやり取りする中で、身近な人との関わりが他者との関係性に少なからず影響していることが多いと感じていた私は、もしかしたらと思い聞いてみました。
「話が変わりますが、お父様とはどんな関係ですか?」
Mさんは少し驚いたようですが、落ち着いた口調で端的に言いました。 「父とは仲が悪いんですよ」
「お父様はどんな方ですか?」 と、私は続けて尋ねました。
Mさんは苦笑いしながら、「まさに、人の話を聞かない人なんです。」
よくよく話を聞いていくと、Mさんとお父様はもう何年もまともに会話を交わしていないようです。Mさんによると、お父様は全く話を聞かないので、少し喋るだけで嫌な気持ちになってしまい、お正月に家に帰っても、長居しないというのです。
お父様の生まれ育ちや仕事のこと、家庭内の関係性などについて、ざっくばらんにいろいろと話していくうちに、Mさんとお父様の関係が弱まった原因が少しずつ浮き彫りになっていきました。
「鹿児島の厳しい祖父の元で育った父親は、自分の子どもに優しく言葉をかける育て方を知らないんだろうな」 Mさんの目線が遠くなりました。
最後にMさんは、「今日はまさか父の話になるとは思いませんでした。会えるかどうかわからないけれど、今度実家に帰ったときには父の話を聞いてみようかな。」 と言いました。
弱まった関係を修復することは、決して簡単ではありません。しかし、相手の思いを受け止め、自分の思いを伝え、こまめにすり合わせをしていく以外に近道はありません。それでも、私たちが関係修復にチャレンジすると決めるのは、同じチームの仲間だからではないでしょうか。
組織の協力関係を強固にするためには?
私たち、コーチ・エィは、組織開発を手掛ける会社です。
組織開発の定義を調べると、このような定義があります。
「組織開発(英:Organization Development 略称OD)とは、組織の効果性と健全性を高めることを目指した計画的で長期的な変革の実践であり、組織文化や、やる気・満足度・コミュニケーション・人間関係・協働性・リーダーシップ・規範などのヒューマンプロセスに働きかけるための理論や手法の一群である。」
コーチ・エィでは、組織に属する個人の間で、互いの生産性を高める価値ある情報や刺激が行き交う「価値あるつながり」を創出することを通じて、組織開発を行っています。組織によって「価値あるつながり」の定義は異なるかもしれませんが、対話から生まれる協力関係は、常に根幹にある、なくてはならない関係性です。
では、そもそも、なぜ組織開発をする必要性があるのでしょうか。
残念ながら人間は都合の良い生き物のようです。組織に属するメリットを享受しようとしながらも、協力に必要な手順を怠ってしまいがちです。 組織のパフォーマンスを高く維持する十分な協力関係は、自然発生的に築けないこともあります。
協力関係を強化するプロセスとして、コーチ・エィのプログラムは、上司部下や他部門の関係者と、頻度高く、かつ建設的な対話を行うことによって、協力関係の強化を支援しています。
さらに、対話を重ねていくことにより、「価値あるつながり」が創出されていきます。必要な情報が常に共有されると、組織内の一人一人が協力しあって相手の目標達成を支援するような、「最高の卵スープ」を作れるチームに進化していくのです。
家庭内組織開発のすすめ
組織開発に取り組もうと考えるのであれば、家族を一つのチームとしてとらえ、まずは家庭内で組織開発を試してみてはいかがでしょうか。
- 自分が属している家族の一人一人は、どんな「スープ」を作ろうとしているのだろうか?
- 「最高の卵スープ」を作るためには、私にできることは何だろうか?
- パートナーとは鶏がらの素の場所を気軽に聞ける関係性でいるのだろうか?
- 彼/彼女のモチベーションを上げるためには私にできることは何だろうか?
- この関係性を改善するために、私にできることは何だろうか?
- 伝えるべきで、まだ伝えられていないことは何だろうか?
日常生活のほんの5%でも時間を使い、このようなことに目を向け、対話を重ねてみましょう。たとえ摩擦が起きたり、感情的になったりしたとしても、対話を諦めないように粘ってみましょう。
そうすることで、私たちはきっと「最高の卵スープ」を作ることができる「最高のチーム」になるのです。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。