コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
コーチングの守破離
コピーしました コピーに失敗しました「私は、コーチングがレベルアップしてMCC(※1)レベルに近づくほど、そのコーチとのコーチングセッションは"いかにもコーチングっぽいコーチング"ではなく、"普通の対話のように聞こえるコーチング"になっていくと思うわ」
数年前に、半年間ほどアメリカのMCCコーチであるトレーシー・スティーブンス氏のコーチングを受けていました。冒頭のセリフは、そのときに私が尋ねた「MCCのコーチングって、何が違うのですか?」という質問に対して、トレーシーから返ってきた言葉です。
とても印象に残っていて、数年経った今でも、大切にしている言葉の一つです。
「型」に縛られるリスク
コーチングを学び、実践し始めたとき、誰しもコーチングフローに則った流れや、テキストに載っている質問の例、あるいは、フィードバックのフレーズといったものを頼りにします。
どんなことであっても、新たに身に着ける、学ぶときは、まずはこうした基礎となる「型」の習得は重要です。最初に「型」の習得をさぼると、上達が遠のくこともよくあります。基本を疎かにせずに、自分のモノにしていくことはとても重要なことです。
一方で、私がなかなか難しいと感じるのは、型を頼りにしすぎて、逆に型に縛られることがあるという現実です。
たとえば、コーチングを始める際にお決まりのように使われる質問があります。
Q.今日のセッションでは何を話したいですか?
Q.なぜそのテーマを話したいのですか?
Q.30分後には何が明確になっていると良いですか?
この流れは基本にそったものですし、どの質問も機能します。テキストに載っている"コーチングセッションの同意を取る"ことを意識した、真面目なコーチングだということができます。
しかし、上記のような決まった流れやフレーズを使ったコーチングは、前述の"コーチングっぽいコーチング"に陥るリスクもはらんでいます。
たとえば、一つ目の問いに対して、クライアントが希望のテーマとともに、それを話したい理由も明確に伝えているにもかかわらず、決められたルーティンのように「なぜそのテーマを話したいのですか?」と問いが続いたとしたらどうでしょうか。
場合によっては、クライアントは違和感を感じるかもしれませんし、「コーチは自分の話を聞いていない」と感じることさえあるかもしれません。
コーチングの中心にあるもの
私は、メンターコーチとして様々なコーチの録音を聞くことがあります。その時しばしば出会うのが、パターン化された質問のフレーズを、決められた流れで進めているように感じさせるコーチングです。
上述した通り、型通りにやることは悪いことではないのですが、「クライアントを中心に据えた思考態度(※2)」ではなく、「型が中心」になっているケースがあると感じます。
「正しいコーチング」をしようと、型を意識しすぎるあまりにクライアントの話を聞けていなかったり、型に縛られて柔軟さがなくなり「クライアントと一緒にいる」という感覚が失われているとしたら、それは悪い意味での"コーチングっぽいコーチング"になっている可能性があります。
今一度、コーチングの型を自分自身がどのように取り入れることができているのか、そしてその型からどれくらい自由でいられているのか、ご自身のセッションの録音を聞いてみてはいかがでしょうか。
※1 国際コーチング連盟のマスター認定コーチ Master Certified Coach
※2 国際コーチング連盟の定めるコーチのコア・コンピテンシー 「2. コーチングマインドを体現している」に出てくる表現
(日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。