コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


「素朴な疑問」の持つ可能性

「素朴な疑問」の持つ可能性
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コーチとしてのスキルアップを目的としたメンターコーチングをすることがあります。今日はその体験の中から、私の学びをご紹介します。

メンターコーチングでは、自分自身が課題に感じていることをテーマに、クライアントから実際にコーチしてもらいます。その後、私からクライアントに対してコーチングに関するフィードバックを伝え、ともに振り返りをします。多くのクライアントにとって、プロのコーチをコーチするのは初めての体験となるため、クライアントの緊張と共にコーチングが始まります。

「今日は何をテーマにお話をしたいですか?」

コーチングはおおよそこの言葉で始まり、コーチングフローに沿って、理想の状態と現状を明確にし、ギャップの原因を明確化、そしてアクションの決定へと進みます。このような流れをベースに、クライアントによっては、視点を変える問いが入ったり、声のトーンの変化や感情の変化をキャッチしたフィードバックが入ってきたりします。クライアントからコーチを受ける時間は、私にとっていつも気づきがあり、とてもありがたい機会になっています。

「その人全体を扱う」とは

ところが、メンターコーチング序盤のセッションでは、クライアントのコーチングは目先の課題解決に焦点が当たりがちで、ICFによるコーチのコア・コンピテンシーでいう「その人全体(the who)」を扱う問いは、ほとんど出てきません。安定していて安心して話せるものの、意外性やインパクトという点では、やや物足りなさを感じるのも事実です。「その人全体を扱う」という、このやや抽象的な概念は、クライアントにとってイメージを持ちにくいようで、このことをフィードバックとして伝えても、ピンとこないという反応をされることもしばしばです。

そんなとき、私は、「コーチングはいったん脇に置いて、今こうして私と向き合っていて、私に対して浮かんでくる『素朴な疑問』を口に出してみてください」とリクエストします。

先日セッションをしたあるクライアントは、私のリクエストを半信半疑な様子で受け止め、しばらく考えたのち、いくつかの「素朴な疑問」を言葉にしました。

「そもそもどうしてコーチになろうと思ったのですか?」
「コーチとして、この先どんなキャリアを考えているのですか?」
「コーチの仕事に対して、どのくらいの情熱とエネルギーを注ごうと思っているのですか?」

出てきた素朴な疑問に、私は痺れてしまいました。いずれも見事に「その人全体」を扱い、しかも、心からの興味関心を伴った、とてもパワフルな問いです。その回で私が出したテーマは「私のコーチとしてのスキルアップ」でしたが、もしこれらの問いを、コーチングの中で投げかけられたとしたら、セッションはさらに豊かで、気づきの多い時間になったであろうことが想像できました。

このクライアントに限らず、これまで数名に同じ方法を試してきましたが、「素朴な疑問」を挙げてもらうと、十中八九、パワフルな問いが出てきます。

なぜ「素朴な疑問」が機能するのか

このことを体験したクライアントから、こんな疑問が出てくることもあります。

「相手が出してくるテーマを解決するのを優先させるべきではないか」
「コーチの興味関心で聞く問いは、相手のための問いではなくて、自分のための問いになってしまうのではないか」

確かに、このような「素朴な疑問」は、一見、コーチを受ける人が挙げたテーマとは断絶があるような、少し飛躍が感じられる問いです。投げかけることに躊躇するかもしれません。

しかし、コーチを受けている私の感覚では、テーマとの関連性においては想定外ではあるものの、さらに大きな次元で思考が進むという意味ではむしろ積極的に持ち込んでほしい問いですし、少なくともコーチの興味関心を満たすだけの問いとは感じないことが多いです。

これは私の仮説ですが、全くの見ず知らずの関係ならいざ知らず、コーチとクライアントとして、ビジョンやゴールを共有しあっている関係になると、相手と向き合った時に浮かぶ「素朴な疑問」も、単に個人的な興味関心を超えて、ビジョンやゴールに向かって一緒に取り組む中で、直観的に感じる違和感を反映したものが出てきやすいのではないでしょうか。そして、それは本質的な成長テーマと何かしら結びつく可能性が高いのではないかと思います。

さて、あなたもうまくいかせたいクライアントの顔を一人、思い浮かべてみてください。
どんな「素朴な疑問」が浮かんでくるでしょうか?


日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)


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