コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
私たちの道のりを振り返る
コピーしました コピーに失敗しました今回はクライアントと「一緒に」成果を振り返ることの価値を考えてみたいと思います。
そもそも、クライアントの成果を一緒に振り返ることの価値は、どこにあるのでしょう。
クライアントの前進を祝福したいから?
コーチとしての自分が役に立ったと感じたいから?
価値を感じてもらって、コーチングの関係を継続したいから?
私自身はといえば、これまでそのスタンスが曖昧だったような気がします。しかし最近、とあるクライアントとの対話をきっかけに、振り返りセッションに対する見え方が変わった体験があります。
振り返る必要なんてない
クライアントのAさんは、ある企業のCxOを務める方です。Aさんとは一年ほどコーチングを続けてきましたが、コーチング契約が終わりに近づいたタイミングで、今後もコーチングを活用したいというご要望をいただきました。
そこで、いい機会だと思い、「Aさんがこれまでのコーチングで得たこと、前進してきたことを棚卸ししてみませんか?」とAさんに持ちかけてみました。
するとAさんからは、
「あまり気が進まないですね。過去のことに興味がないし、むしろ、次はどんなことを目標にしていけたらいいかを考えたいです。本当に目まぐるしくいろんなことに挑戦してきたから、あまり覚えてもいません」
という答えが返ってきました。
Aさんはタイプ分けでいうと「プロモーター」タイプで、アイディアがどんどん湧いてくる方なので、過ぎ去ったことに関心がないという発言には納得です。
しかし私には、成果を振り返りたい目的がもう一つありました。それは、スポンサーであるCEOへの報告です。そのことをAさんに伝えました。
「Aさんが今回の取り組みの価値を認識し、それをCEOに伝えてもらうことには、私たちが今後もコーチングに取り組む上で、すごく価値があるのではないかと思います。確かに "過ぎ去ったこと" ではありますが、一度簡単に振り返ってみませんか?」
するとAさんは、
「確かにそうですね...。じゃあ、サクッと完了させましょうか」
そんなAさんのリアクションとともに、私たちの振り返りがスタートしました。
ここで自分に変化があったのか!
最初に次の4つの問いをホワイトボードに書きました。
- スタート時点では、どのような状態だったか?
- この間、どんなことに挑戦してきたか?
- 周囲や組織にはどのような影響を与えたか?
- 自分はリーダーとして、どのように成長できたか? 前進できたか?
問いを眺めながら、「あぁ、ここから始まったのか...」と呟くAさん。
「何を思い出したんですか?」と聞くと、
- 自分が最初、何に憤っていたのか
- 周囲にはどんなリーダーとして見られていたのか
- あの時、〇〇さんには怖くて話せないと思っていたことは何だったのか
- 自分はどんな勘違いをしていたのか
など、Aさんの口からは、当時の感情や体験が湯水のように出てきました。
その発言を聞きながら、私自身も当時どんな風にコーチングを進めればよいか迷って、周囲のコーチに相談したり、思い切ってクライアントにフィードバックしたセリフを思い出したりと、様々なことが脳裏に浮かんできました。
「私たち、本当にいろんなことに向き合ってきましたね」
「本当にそうですね。この一年、いろいろなことをやってきました。こうやって振り返ると、ここで自分は本当に変われたんだな、と思う出来事が、たくさんあります」
その後もAさんはご自身のターニングポイントについて、たくさん話してくれました。
この振り返りの時間は、全体を通して、二人にとって、労いあい、讃えあうような空気が流れた瞬間でした。いつものAさんが醸し出す「いつも前に、先にとがむしゃらに走る、目まぐるしく進む」雰囲気とは違う、穏やかな空間が生まれたことがとても印象に残っています。
振り返ってみて、いかがでしたか?
「振り返ってみて、いかがでしたか?」
セッション終盤になり聞いてみると、
「すごく面白かった」
とAさん。
「今までは何かを成し遂げると、あたりまえのように、次にやるべきこと、目指すことを即座に置き続けてきました。でも、そういった次の目標の裏側には、これまで積み上げてきた成果や経緯がある。当然ですけど、この時間で、ここまでの道のりがあるから、今の私たちがいるんだということを体感しました。今までの歴史があるからこそ、今度はこの目標に挑みたいんだ! というエネルギーが増したと感じています」
そう話すAさんの表情は、自信と覚悟に溢れていました。
私自身も、ここまでどうやって歩いてきたのか、どこにたどり着くことができたのか、そういったことを自分で認識できることそのものが、更に前に進み続けるエネルギーになるということを体験できました。
今であれば一緒に振り返ることの意味を聞かれたら、次のように自信をもって伝えられると感じます。
振り返りとは「自分たちはどこに、どうやってたどり着くことができたのか。それを振り返ることで、その過程でパワーアップした自分を確認し、次の挑戦に進むんだという覚悟を決める儀式」なのだと。
最後にAさんはぽつりと言いました。
「このコーチングの道のりが、私を経営者にしてくれた。だからこそ、今度は組織のみんなに経営者としてすべきことを還元していきたい」
この言葉は、私の心に強く残っています。
みなさんは、これまでの自分の道のりを、誰とどのように振り返りたいですか?
(日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)
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