Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


企業の統合 (M&A) の成功から学ぶ、「メタ・コミュニケーション」のちから

企業の統合 (M&A) の成功から学ぶ、「メタ・コミュニケーション」のちから
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近年、経営状況の改善や事業拡大といった経営戦略として、日本でも経営統合(M&A)を選択する企業が増えてきました。

しかし、実態としては、当初の戦略目標を達成できるケースは10%~30%以下にとどまり、「PMI (Post Merger Integration)」と呼ばれる、合併や買収後の統合は、最も難しい経営課題のひとつであるといわれています。(※1)

一体、何が組織の統合を難しくするのでしょうか。

M&A本来の目的である、事業価値の向上を実現していく上で、何が鍵となるのでしょうか。

このコラムでは、M&Aを成功させている企業の特徴を切り口に、企業の統合の成功について考察します。

30%の従業員の心の声 「買収は、経営陣の "余計な判断"」

M&A案件2000社以上を対象としたマッキンゼーの調査によると、「PMI」の期間は、経営のマイルストーンに遅れが発生したり、文化的な対立が表面化し始めるゆえに、経営幹部にとって「最も苦しい時期の一つである」という。(※2)

事業改善や拡大といった、事業価値の向上に向けて行ったはずの「統合(M&A)」が、オペレーションのミスの多発、顧客離れや優秀な社員の離職、業績悪化など、ことごとく社員の「分離・分解」に発展してしまうケースは少なくない。

新しい会社の「組織文化・制度」といった経営方針の変化や、自身のポジションや待遇への不安などが代表的な理由として挙げられるが、ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、同じ業界のM&Aの後、平均して約30%の従業員が「統合は余計だった」と思っているという。(※3)

一方で、実際に従業員が「M&Aのプロセスを受け入れることを決め、内省と成長の機会として活用する」ことができている企業が存在することも事実である。(※4)

他社を統合し、確実にビジネスの可能性を広げていくことのできる組織とそうでない組織には、何の違いがあるのだろうか。

まずは、企業同士のメタ・コミュニケーションから

海外で企業買収を行ったインドの企業204社の財務実績から、M&Aの成功要因を分析した調査が興味深い。(※5)

M&A後に株主価値を高めている企業は、単に「経営戦略の遂行」だけでなく、初期段階から互いの「ビジョンとバリュー」に焦点を当てて、念入りに文化的な統合を進めていたことがわかった。

一般的に、従業員間で共有されている「文化」といったソフトな面は、「時間の経過とともに自然に統合されていくもの」と思われ、オペレーションの統合や新しい人事制度の導入といったハード面と比べて後回しにされる傾向がある。しかし成功した企業は、総じて二社間におけるバリューや倫理、経営の哲学等を組織の様々な階層において、最優先に話し合っていたそうだ。

つまり、単なるビジネスゴールのすり合わせだけでなく、

「日々、物事を前進させる上で何を最も大切にしているか」

「自分たちはどのような存在でありたいか」

という、日常レベルでの価値観のすり合わせが優先されていたのである。

このように、目の前の課題をクリアしていくためのコミュニケーションではなく、自分達の状況や、在り方、関わり方を俯瞰して見られるようなコミュニケーションを「メタ・コミュニケーション」と呼ぶ。

成功に導く主体者になれているか

M&Aを成功させた事例の多くには、本格的な業務課題が議題となる前に

  • 物事を前進させていく上で、互いが大切にしている価値観は何か
  • 社員同士は、日頃互いにどのような関係性を築こうとしているのか
  • それに対して、今(M&A後の)自分たちはどのような状態なのか

といった、メタ・コミュニケーションを頻繁に交わしていたことが推察される。

メタ・コミュニケーションは、M&Aという特殊な状況だけでなく、部下との面談や緊迫した経営会議、私たちの組織活動のあらゆる場面で重要であるといえる。

組織活動の難しい局面において、あなたは適切な「メタ・コミュニケーション」がとれているだろうか。

  • 目指したい組織の在り姿について、どれくらいお互いに心の扉を開けて対話ができているでしょう?
  • 相手について本当はどれくらい知っているでしょう?
  • 相手の何を知ることができると、共創に向けて前進することができるでしょう?

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【参考文献】
※1 Graham Kenny, Don’t Make This Common M&A Mistake, Harvard Business Publishing, 2020
※2 Brian Dinneen, Christine Johnson, Becky Kaetzler, and Alex Liu, In conversation: Four keys to merger integration success, McKinsey & Company, 2022
※3 Mitchell Lee Marks, Philip Mirvis, and Ron Ashkenas, Surviving M&A, Harvard Business Publishing, 2017
※4 Prashant Kale, Harbir Singh, and Anand Raman, Don’t Integrate Your Acquisitions, Partner with Them, Harvard Business Publishing, 2009
※5 同上

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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