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思いやりと勇気のあるエンパシーでコーチングする
2024年09月03日
エンパシー(empathy:共感)という言葉があるが、それは、あなた自身が他人の感情や物語に巻き込まれることを意味してはいない。エンパシーとシンパシー(sympathy:同情)のあいだには違いがある。シンパシーは他者の感情を吸い上げることである。誰かにシンパシーを抱くとき、自分と相手が同時に感じている不快感を和らげるために、あなた自身が何かしらの行動で対処しようとすることがよくある。一方で思いやり(compassionate)と勇気のあるエンパシーを抱くとき、相手は自分が大切にされていて安心感を感じると同時に、自分自身の能力を肯定されていると感じることができる。
エンパシーとは、理解することである。メリアム=ウェブスターの辞書によれば、「エンパシーを抱くとき、あなたは他人がどのように感じるかを想像し理解することができるが、必ずしも自分自身がその感情を持つ必要はない」とある。相手が感じていることを打ち明けた際に、それを判断したり分析したりすることなく、その場面にただ立ち会うとき、あなたはエンパシーを示しているといえる。あなたは、相手がそのように感じる理由を受け入れる。自分の経験について敬意を持って聞いてもらうことで安心して自己表現できるとき、人は、よりスピーディーにさらなる探索や行動に移っていけるだろう。
あなたが思いやりのある好奇心を持って相手の言葉や感情を受け入れることで、その場の心理的安全性を高めることができるのだ。
シンパシーはエンパシーを妨げることもある
時には、あなた自身が相手の心の痛みや不安を自分の身体で感覚的に感じるかもしれない。相手の面倒をみてあげなくてはならないと思うかもしれない。その場合は、自分自身でこれらの感覚に気づき、一息ついて、それを自分から解放しよう。相手を治したり癒したりすることは、あなたに求められている仕事ではない。あなたの仕事は、彼らがなぜそのように感じるのか、そしてそのことが、彼らが今後目指しているものとどう関係しているのかを、彼らがより深く理解できるように手助けすることにある。
もしあなたが、慰めの言葉やアドバイスを相手に与えて彼らを気遣ったり、また、相手の希望を尋ねることなく、(涙をふくための)ティッシュを取りに走ったりして、彼らにとって必要な探索のプロセスを阻害してしまうと、相手の力を弱めることになってしまう。それは、彼らの成長を阻害することにもなる。相手は、あなたを困らせてしまうことに罪悪感や申し訳なさを感じるかもしれず、あなたに気を遣わないといけないと感じるかもしれない。そうなると信頼の絆を壊してしまうことになる。
概して人は、自分が何を表現しようとも、だれかに見てもらい、聞いてもらい、大切にされていると感じることを切望している。相手は、あなたが一緒に悲しんだり、ストレスを感じたり、怒ったり、不安になったりしてくれることを必要とはしていないのである。
思いやりと勇気のあるエンパシーを実践する方法 (ブレイクスルー・コーチングより抜粋)
思いやりと勇気のあるエンパシーとは、相手が感じていることを認識し、理解しようと努め、尊重しようとしながらも、彼らの反応を一緒に感じることから離れることである。忍耐強く思いやりのある気持ちでいるとき、会話の焦点を自分ではなく相手に向けることができる。思いやりと勇気のあるエンパシーを実践すれば、あなたは相手の思考のパートナーであり続けることができるのだ。
以下の具体的な行動をとることで、思いやりと勇気のあるエンパシーをあらゆる会話の場で実践し、身につけよう。
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自分の身体に感情が沸き起こった時、それに気づくこと
自分の身体に緊張やざわめきの感覚を感じたら、それがクライアントの感じていることを自分が感じているのか、それとも起こっていることに対する自分の反応なのかを見極めるようにしよう。クライアントのエネルギーを正しくとらえているかどうかわからない場合は、クライアントに何を感じているのか尋ねてみよう。 -
あなたが抱いている感情を相手に共有する場合、あなたが気づいた相手の行動と結びつけてみる
たとえば、以下のように尋ねてみよう。「あなたが間をとり、目をそらしたとき、悲しみや混乱があるように見えました。あなたが今考えていること、感じていることを話していただけますか?」「今一緒に仕事をしているチームの話題になるたびに、あなたは動揺するようですね。彼らとの関係について、何か探索してみたいことはありますか?」 -
その人を救いたい、問題を解決したい、その人のケースと同じだと思う自分のストーリーを共有したい、という衝動を素早く自分で認識し、解放する
相手のことを気の毒に思ったり(同情)、相手の気持ちが正しいことを伝えたくなったりしたら(憐れみ)、それは相手に対しては黙っていよう。一呼吸して、気持ちを整え、相手への純粋な好奇心を再び感じ、あなたのコーチングで相手が前進できることを信じる気持ちに戻ろう。相手が自分の考えを整理している間は、黙っていよう。相手の感情が落ち着いたら、心に思っていることを共有してもらえるかどうか相手に聞いてみよう。 -
もし相手が今感じていることをうまく表現できない場合は、相手が今理解していることと、以前あなたに共有した問題や望ましい結果との関連性があるかどうかを尋ねる
たとえば、以下のように尋ねてみよう。「職場で起こっていることに傷ついたり、悲しんだりしているように感じます。今の状況から何か重要なものを得られていないと思いますか?」「何が起こっているのか説明しようとしている意思は聞こえてきますが、あなたの話の節々で『しかし』が頻繁に繰り返されるのを聞いていると、他人の判断を恐れて、それが足かせになっているのではないかと感じます。あなたがあげた次のステップに踏み出すことを妨げている本当の原因は何だと思いますか?」 相手が答えるまで静かに待ち、あなたの問いについて相手が考える時間を与えよう。 -
もし相手が、あなたの共有した反応や問いに困惑しているようであれば、別の方法であなたの考えを示す
自分の考えを説明するのではなく、もっと簡潔に言い換えてみよう。また、あなたが考えていたこととは違うことを相手が意味している場合は、それを受け入れよう。今この瞬間、相手にとって何が重要なのかを尋ねよう。相手の頭の中で起こっていることを、あなたが純粋に理解したいと思っていることを相手に伝えよう。
あなたがそこにいるのは、相手が自分の置かれた状況を考え、次に何をしたいかを見出す手助けをするためだということを忘れないでほしい。相手が自分のペースで反応をしていけるようにあなたが振る舞えば、彼らは気持ちよく前進ができる。思考に浮かび上がってくるものにぴったり合う言葉を見つけるには時間がかかるかもしれないが、新しい認識はやがて形になってくるだろう。
【筆者について】
マーシャ・レイノルズ博士(Dr. Marcia Reynolds)は、コーチングを通して世界各地の企業の幹部育成をサポートし、実績を上げている。クライアントは、多国籍企業、非営利団体、政府機関のエグゼクティブや将来の幹部候補生である。また、世界各地で開催されているコーチングやリーダーシップに関するカンファレンスで講演し、43カ国でリーダー向けの講座を担当し、コーチングを行っている。調査機関グローバル・グルス(Global Gurus)で世界5位のコーチに選ばれ、さらに国際コーチング連盟が選出している10名のThe Circle of Distinctionの一人でもある。
医療分野でのコーチング経験も豊富で、ヘルスケア・コーチング・インスティテュートのトレーニングディレクターを務め、総合病院、クリニック、大手製薬会社などで25年にわたり数多くのリーダーにコーチングを提供している。
また、彼女は国際コーチング連盟(ICF)の 歴代5番目のグローバル・チェアマンであり、世界で最初のICFマスター認定コーチ (MCC) になった25人のうちの1人である。組織心理学の博士号、および、教育とコミュニケーション分野における修士号を取得している。
著書に、"Coach The Person, Not the Problem"(邦訳:『変革的コーチング』), "Outsmart Your Brain", "The Discomfort Zone: How Leaders Turn Difficult Conversations into Breakthroughs"などがある。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Coaching with Compassionate and Courageous Empathy(レイノルズ博士のウェブサイトCONVISIONINGに掲載された、2023年11月12日の記事を許可を得て翻訳。)
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