Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
第1回 コーチングにまつわる迷信その1:コーチングに熟練するには長い時間がかかる
2023年08月23日
2023年6月23日に、世界トップコーチ30の一人にして、組織心理学博士でもあるマーシャ・レイノルズ博士の『Coach the Person, Not the Problem』の日本語版、『変革的コーチングー 5つの基本手法と3つの脳内習慣』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。
レイノルズ博士は、これまで41カ国において、企業幹部のコーチングを行いながら、指導者や学生たちにコーチングを教え、また、ハーバード大学ケネディスクールやコーネル大学のほか、ヨーロッパやアジアの大学でも講演を行っています。
そうした取り組みを通してレイノルズ博士が懸念するのは、コーチングを学び実践する人々が抱きがちな"誤解"。それらを解き、コーチングの真価を伝えるべく、より高い効果をもたらす〈内省的探求〉のコーチングを行うための5つの基本手法と3つの脳内習慣を解説したのが本書です。
今回、Hello,Coaching! では、「コーチングにまつわる迷信」(本書 第2章)を全5回でご紹介します。
第1回 | 迷信その1:コーチングに熟練するには長い時間がかかる |
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第2回 | 迷信その2:質問なくしてブレークスルーや気づきは生まれない |
第3回 | 迷信その3:コーチは「閉じた質問」ではなく「開かれた質問」をすべきだ |
第4回 | 迷信その4:内省を促す言葉は、挑発的だ |
第5回 | 迷信その5:明確なゴールまたは将来像を必ず設定すべきだ |
世の中にはコーチングに対する根拠のない批判や決めつけ、思い込みが広まっている
コーチングの価値を損なう迷信は、少なくとも5つあります。それらは正しいときもありますが、原理原則のように扱うとコーチングの効果をかえって薄めます。
それぞれの迷信について説明しながら、代わりにどう考えればクライアントと良い関係を築けるかを述べたいと思います。
第1回 迷信その1:コーチングに熟練するには長い時間がかかる
迷信の出どころ
コーチになりたての人は、ベテランコーチのデモンストレーションを見るのが好きです。 デモンストレーションを終えたベテランコーチが、どのようにコーチングを進めたか─どんな手がかりを見つけたか、相手のどんな矛盾や感情の変化、繰り返される言葉に気づいたか、相手のどんな考えが重大な障害になっていたか─ をいくらかみ砕いて解説しても、新米コーチたちは、今見たセッションを魔法のようだと言います。
何千時間も練習を積んできたコーチのお手並みを拝見すると、おじけづいたり心配になったりします。コーチングの技能の高さに萎縮し、同じレベルに達することは到底できないと不安になるからです。
特に先輩コーチが見学者のレベルを考慮に入れていないと、デモンストレーションは学習の機会というより、コーチの技を誇示するだけになりがちです。見学者はすっかり気後れして、「上手なコーチ」になれるまで自分はコーチングができないと思い込んでしまいます。
コーチングの資格取得を目指している人は、デモンストレーションの見学のほかに、先輩のメンタリングを受けなければいけません。メンタリングはグループでも一対一でも、フィードバックを伴います。
前の章で述べたように、フィードバックは受ける側にとってはストレスになり、自信喪失につながるときがあります。メンタリングは本来、新米コーチの助けになるものですが、学習の道のりは長いと気落ちさせてしまう場合もあります。
迷信の中の真実
クライアントの考え方を解きほぐしていくのは、時間がかかる作業です。コーチは新米でもベテランでも自分が役に立っていると実感したいので、クライアントのバックグラウンドや障害をじっくり探るよりも、解決法を早く見つけようとしがちです。けれども、コーチには落ち着きと忍耐が必要で、安易な選択肢に飛びつこうとするクライアントをなだめる側にいなければなりません。答えが見えない居心地の悪さを進んで引き受けられれば、相手への好奇心を持っているだけで平静でいられます。
資格取得には何百時間ものコーチングが必要です。いきなりコーチングを修得できる魔法の薬は今のところありません。場数を踏むしかないのです。コーチングを極めるには、とにかくコーチングを続け、メンターをつけて成長をあと押ししてもらうほかに方法はありません。
私自身、コーチングを始めて以来、今でも毎年腕が上がっていると思います。数年前も良いコーチだったかもしれませんが、それ以降もコーチングを重ね、生徒たちに教えたりメンタリングしたりすることで、さらに良くなっています。技を磨くのにゴールはありません。
迷信による勘違い、迷信がつくる障害
しかし、「コーチングの訓練を終えて自信を持てるようになるまではコーチングをしてはいけない」という考えは、頭から追い出してください。
私がコーチングを人に教え始めたとき、教える立場にありながら自分の足りない点を嫌というほど痛感したものです。それでも、私の初期の不完全なコーチングを受けたクライアントからは、たくさんの感謝の言葉をいただきました。私を信頼して会話を深め、自分の決断と計画に自信を持てるようになったのです。私のつたないコーチングでも、クライアントは自分の価値観や障害をより明確にできました。
いつまでも準備を続ける必要はありません。新米コーチでも、クライアントが決めつけを押しつけられたと感じずに安心して会話できているのなら、十分その人のためになっています。
家族やコーチング仲間以外の人に自信を持ってコーチングできるまで待たないでください。ともに考えるパートナーになれれば、どんなクライアントのお役にも立てるのです。
代わりの考え方
完璧なコーチなどどこにもいません。まずコーチングを始めてみてください。そして練習を積み、良いメンタリングを受け、学習をし続けるうちに、上手なコーチングが持つパワーを実感できるようになります。コーチングを続けてこそ、スキルは向上します。
上達したい人は、できれば定評のあるコーチング学校か学習プログラムを通じて、しっかりしたトレーニングを受けるべきだと私は思います。コーチに向いていると家族や友人に言われたとしても、生まれつきスキルを持っている人はいません。ただ、人の話を共感して聞けるのなら、それはすばらしい素質です。この本にある5つの基本的手法が参考になると思いますが、資格のある指導者から学べば、スキルが最もよく身につきます。
基本を学習したら、コーチを始めてください。相手に助言しない限り、迷惑をかけることはないでしょう。私のメンターは言ったものです。「コーチングを受けて、死んだ人はいない」
クライアントとの良好な関係性こそが、コーチングに力を与えます。このため、この本では3つの脳内習慣を取り上げ、それによって5つの基本的手法の効果を高めることを狙っています。
コーチのスキルが多少足りなくても、クライアントが安心してコーチングを受けていれば、 学びを得られる環境は整っています。クライアントが困難の中にあっても粘り強く自己考察できる人だと信じ、自身の決めつけや不安を排除して、辛抱強さと相手に対する関心、心からの気遣いを持ち続けられれば、クライアントはコーチングの価値を実感できるでしょう。
(続きはこちら)
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