ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
あなたはコーチングでどんな言葉を選ぶのか
2017年12月01日
「コーチングが役に立つとどうやって知ったのですか? 」
私は、コーチングのクラスの最初に、よくこの質問をする。すると多くの人が目をキラキラさせて手を挙げ、こう答える。「奮闘している社員、混乱している若者、もしくは悩んでいる役員らの能力、やる気、そして自信を、コーチングがどう高めるのかについて書かれた最近の研究を読みました」と。コーチングの成果の指標として想定しているものを聞くと、彼らが、何を本業にしているのかをほぼ推測することができる。たとえば、ROI、従業員エンゲージメント、より幸福な子どもたち、より健全な家族といったものだ。ほかにもまだいろいろある。
あなただったら、この質問にどう答えるだろう? 自分で説明できる研究結果の一例を挙げるかもしれない。コーチングは過去20年間をかけて実を結んできており、コーチングに関連する文献は説得力のあるエビデンスにあふれているのではないか、と言うかもしれない。
誰が一番最近のエビデンスを手に入れたかという白熱した論議の後で、私はよく次のような質問をする。
「コーチングは何を通じて効果を発揮するのだろうか?」
この質問を投げると、私が大好きな「沈黙」が訪れる。それは「考える時間 (thinking break)」だ。彼らが、質問の内容を理解し、心の引出しの中を調べ、関連情報や見識を探し出そうとしているのがよくわかる。「共感」と答える人もいれば、「効果的な質問」と言う人もいる。また「安心感」であるという意見にうなずく人もいる。すると間もなく、彼らの会話は、心理的な安全、ラポール(親密さ)の構築、目標設定、その他多くの関連するアイディアの重要性についての話に発展していく。
あなただったら、この質問にどう答えるだろうか? 「コーチングはどのように役立つのか」「あなたのコーチングはどのように役立つのか」 私は、この問いかけに対して人々がどう答えるかに、とても興味がある。彼らは自らの体験から、とても興味深い視点を持ち込んでくるからだ。時には、この質問によって、いわゆる「コーチのコンピテンシー」をリストアップする必要性も出てくる。クライアントが「なるほど!」という瞬間にたどり着くために、コーチはどうあるべきか、また何をすべきなのだろうか。この問いによって、自然と新たな質問が生まれてくる。質問のテーマとしてここでは「効果的な質問」について取り上げてみよう。
- どうやってそれが「効果的な質問」だと知ることができるのか?
- コーチングの対話の中で、「効果的な質問」はどのように聞こえ、またどのように見えるか?
- 「効果的な質問」が投げかけられた時、コーチとクライアントの間では、実際に何が起こっているのか?
ことわざの「群盲象を評す」という言葉をご存知だろうか。象という動物がどう見えてどんな音を発するのかを、視覚障害者らが説明しようしていると想像してほしい。それぞれの人の説明から、彼ら一人ひとりが、ふだんどんなアンテナを立ててものを感じているかをうかがうことができるかもしれない。つまり、全体を描写しようとするよりも、むしろ具体的なことを説明する方が簡単だということがわかる。「効果的な質問」を、「共感」や「安心感」、「ラポール(親密さ)」といった別の言葉で表現できるか、考えてみてほしい。そうすると、コーチングの効果を説明するよりも、その瞬間の「感じ」をつかむことができるのではないだろうか。
なぜこれが重要なのか?
すべての優れた論文のから導き出される重要な結論は、「So what?(それでどうする?)」という言葉につきる。
みなさんの中に教育者がどのくらいいるのかはわからないが、私は教育者である。だからこそ、「コーチングが何を通じて効果を発揮するのか?」という問いが私の研究の中心となっている。もし、コーチングがどのように役立つかを、自分で説明できないのであれば、一体どうやって人に教えられるだろうか? 研究者としての私は、参加者に単に「流れに身を任せなさい」とか「クライアントに従いなさい」と言うことはできないし、ファシリテーター(進行役)としての私は、人が何かを見い出したり経験したりするのを妨げたくはない。コーチとしての経験に照らし合わせ、私は、コーチングのプロセスとは「コーチとクライアントが協力し合って、クライアントが望んでいることの意味について合意していくことである」と説明する。そして合意していく際に用いるツールが、言葉なのだ。
コーチングのツールが言葉であるなら、その言葉は的確な方がよいし、どのように、そしていつ使うかについても知っておいた方がよいだろう。では、説明をするだけではなく、実際にご覧いただこう。
目に見えないものを可視化する
CoachXビデオ*の「効果的なコーチング(Powerful Coaching)」の中で、私は、「何か私にできることはありますか(How can I help you?)?」という、よく会話の切り口となる質問を例に挙げた。英語を話す多くのコーチにとって、この質問は口癖のようなものだ。コーチングのクラスやテキストでは、この質問はニュートラルで、会話を広げる質問として説明されてきた。しかし、このシンプルで気の利いた言い回しの中に、少なくとも4つの前提を確認することができる。
- あなたは、助けを必要としている。
- 私は手助けできる。
- あなたは、どのような助けが必要であるかがわかっている。
- あなたは、私にそれが何か教えられる。
あなたのクライアントは、上記1-4のコーチ側の前提を受け入れ、「ええ、決断するのを助けてほしいと思っていました。」と答えるかもしれない。もし、あなたがコーチだったら、この時点で何を言うだろうか? この場合、いくつか思いつく質問を書き留めることをお勧めする。そうすると、このブログが役に立つことがおわかりになるだろう。(私が教育者であることは既にお話ししたと思う。)
あなたは何を思いついただろうか? ここでよくある選択肢をご紹介しよう。
- 詳しく教えてほしい。
- 何が決断することを妨げているのか?
- あなたが考える選択肢のメリットとデメリットは何なのか?
私たちは、これらのフレーズに対して同じような言語解析ができるし、あなたは、自分の言葉をじっくり振り返った時に、驚くような思い込みを発見するだろう。このちょっとしたエクササイズの目的は、言葉を使いこなすことについて、あなたに改めて意識を向けてもらうことである。私たちの言葉づかいが、会話の方向性と内容を形成する。また、その言葉づかいを細かく分析すると、「コーチングは何を通じて効果を発揮するのか」という目に見えないプロセスが明らかになる。
自分自身の仕事を観察する
みなさんには、継続的に自分自身のコーチングを観察し、使っている言葉に注意してほしいと思う。自分のコーチング・セッションのログをとり、言葉に埋め込まれた思い込みについて分析してほしい。また、説明しようとするのではなく、あなたが感じたものについて「表現」してほしい。言葉の他の使い方についてみなさんからのご連絡をお待ちしている。最後に私のお気に入りの引用文をご紹介しよう。
「全ての質問は『意図のある質問』であり、コーチ(practitioner)は、クライアントの役に立つという前提をもった上で、質問にどのような意図を盛り込んでいくかという選択をするのである。」 (Healing & Bavelas, 2011)
*Coach Xとは:IOCが提供する、コーチングに関するプレゼンテーションの動画。
Healing, S., & Bavelas, J., 2011, Can Questions Lead to Change? An Analogue Experiment, Journal of Systemic Therapies, 30 (4), p.46)
著者について
ハイサン・ムン (Haesun Moon)
ハイサン・ムンは、トロント大学 ソリューション・フォーカス・ブリーフ・コーチング・プログラムのプログラム・ディレクターを務めており、サニーブルック・ヘルス・サイエンシズ・センターの組織開発&リーダーシップでも働いている。 ハイサンは、公共部門や非営利団体などの大規模な組織で、変革的な経営幹部教育の深い理解と経験をもっている。
【翻訳】 Hello, Coaching! 編集部
【原文】 Coaching: Watching Your Language
(2017年2月16日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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