米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


複雑さの中で人を導くリーダーとは

原題:Leading Through Complexity
複雑さの中で人を導くリーダーとは
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

世界は少しもシンプルにはならない。私たちは、今日の環境が自分達のコントロールの範囲内で作り上げられたと信じている。しかし、私達が活動するマーケットや環境は、私たちの祖先が出現した自然環境と同じくらい複雑であるというのが真実だ。私達の仕事環境は、熱帯雨林などの自然体系と同じく、不安定さ、曖昧さ、多様性や相互依存性を有している。そしてこれらは全て、複雑さを導く主要な要素なのだ。

このような条件下では、複雑さを「簡素化」することよりも、複雑さをガイドしていく方が効果的である。いかなる複雑なチャレンジや状況にも必ず、単純な部分、込み入った部分、そして、とても複雑な部分が存在する。リーダーは、いかにして複雑さをガイドしていくための能力を開発し、身に着けていくのかということが問題である。

生まれながらにして持つ「意味づけ」の能力

複雑さをガイドすることは、おそらく想像するよりも簡単だ。私達は複雑さをコントロールし、その中で成功する能力を生まれつき有する複雑な生き物だ。まず最初に取り掛かり、育てていく能力は、「意味づけ」である。「意味づけ」とは私たちが赤ん坊や幼い子どもの頃に経験するものである。私たちはあることを試し、体験し、結果を得て、その時を思い返したり、反応したりする。歩いたり、話せるようになったり、あるいは、ものが「熱い」とはどういうことかが分かるようになる過程を思い出してみて欲しい。

このサイクルを何度も繰り返すことで、私たちは世界を発見する。成長の過程で、私たちは社会生活に適合してきた。また、分析というものに過剰に頼りながら、予測し、計画し、実行し、そしてその流れをモニターするという教育を受けてきた。そして大人、特にリーダーになると、私たちはこの生まれながら携えている「意味づけ」や発見する能力を活かすよりも、明確な戦略や動かない計画だけを通じて仕事をするようになるのだ。こうした能力は、人を導いていくためには今日でも非常に価値があり重要であるが、複雑さをガイドするには不十分で、時には非生産的となる。

「意味づけ」とは地形(現地)を知ること

複雑な状況では、リーダーは、繰り返し起きたり、新たに出現したり、集約されるようなプロセスを経ながら、仮説や代わりの戦略を立て、それを現場でテストし、体験し、進路を修正し、そして結果に到達することで、より多くのことを得ている。「意味づけ」とは、実際の地形を知ることであり、他人が作成した地図、あるいは徹底的な分析に基づいて作成された地図に頼るものではない。「意味づけ」とは地形、地勢そしてその中を突き進む手段に関して、多様な意見に耳を傾け受け入れることである。それは集約的、協働的かつ豊かにしていく行為である。

クライアントに景色を描かせる

リーダーシップとコーチングは、それ自体が複雑な環境を携えていると言えよう。クライアントと関わる中で、私は状況を感じとる能力を開発している。その際には、クライアントが完全で現実的な景色を描けるように、オープンなマインドと姿勢を保つように注意する。私は仮説を立てるが、その検証はできる限り簡単にし、クライアントが自身の仮説を選択したり、生み出したりできる余地を与えるようにしている。そうすれば、クライアントは試しても役に立たない仮説はランクを落とし、生産的な仮説は拡大したり強化したりするアプローチをとることができる。

内省的なトレーニングが自己認識を高める

複雑さの意味を理解するためには、リーダーは自身が意識レベルで成長し、精神的、知覚的な能力を伸ばしたいと考えるだろう。それは私達コーチと同じだ。そのための最善の方法とは、リーダーとしてのあなたの人生と仕事について熟考を重ねることだ。マインドフルネスを含む内省的なトレーニングをすることで、他人の意見に耳を傾け、他人の考えを統合する能力が向上するのだ。また、そうしたトレーニングによって、自分自身や他人の先入観を理解することもできる。その先入観は、重要な観点の探求、明確化や統合の妨げとなっている。

これらの行動が、挑戦や機会といったことに対して、違った見方やアプローチをとることにつながる。リーダーとして生まれながらにして持っているより高位な能力を使うことで、私達は、複雑な世界をガイドしていくための、より高い能力とより容易な方法を身につけるだろう。

筆者について

ナンシー・グリン(Nancy Glynn)氏は、約20年間にわたりエグゼクティブコーチ、チームコーチ、教育者として複数の業界の役員クラス、シニア・マネージャーを対象に、グローバルな活躍をしている。ロンドンに拠点を持つ、エグゼクティブコーチングなどを提供するアレグザンダー・パートナーシップ(The Alexander Partnership)のパートナー。


【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Leading Through Complexity
(2017年5月17日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事