米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


影響力は運を凌駕する(「コーチングと影響力」第一部)

【原文】Influence Has Nothing To Do With Luck
影響力は運を凌駕する(「コーチングと影響力」第一部)
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「コーチングと影響力」シリーズ 第一部

あるイベントの抽選会が始まったとき、同じテーブルにいた女性は「当たった試しがないわ」と言った。周囲に興奮したざわめきが広がる中、彼女は自分の抽選票にはほとんど目もくれず、自分は運が悪い人間だと固く信じていた。

少数の楽天家を除き、多くの人は過去の経験と運で将来の運が決まると考えている。それと同じように、私たちは多くの場合、これまでの成功や失敗の経験に基づいて行動や手法を選択している。

そのため、同じテーブルのその女性は、コーヒーメーカーの抽選に何度も外れたことは覚えていても、テーブル飾りを家に持ち帰ったことは忘れているのである。

自分が望むことを誰かにしてもらおうとするとき、私たちは特に、自分の働きかけに対してその人が以前どのように反応したかということに注意を払う。また、それが成功した場合は、「運」が良かったというふうに考える。

相手を理解することで影響力が変わる

しかし、影響力は運に左右されるものではない。相手に働きかけようとした過去の試みが成功または失敗した理由を考えれば、これまでの行動をもとに将来を予想することができる。経験豊富で影響力のあるリーダーは、同僚に影響を与えた経験から学び、得られた知見を新しい試みに取り入れている。そのようなリーダーは、相手に働きかけるとき、相手の嗜好、特徴、性格に特に注意を払っている。

ところが、私が調査したところ、私たちは過去に使用した手法に、より多く注意を払う傾向があり、影響を与えようとしている同僚の特徴は見落としがちであることが分かった。経験が浅く影響力の弱い人が同僚に働きかけようとするときによく失敗するのは、以前働きかけたときに得られた、その人についての知識を考慮に入れていないからである。つまり、相手にうまく影響を与えるには、その人に合わせて適切な方法を組み合わせて使う必要がある。1つの方法があらゆる相手に有効であるとは限らない。経験豊富で強い影響力を持つ人は、影響を与える各種の方法を巧みに使い、相手についての理解に基づき適切な手法を戦略的に用いている。

私のクライアントの1人であるミッシェルは、同僚のピーターへの働きかけで苦労していた。自分の言いたいことが相手に伝わっていないという。彼女はピーターに、変化がもたらす効果について訴え続けてきた。彼女のアプローチを詳しく検討してみたところ、ピーターについての知識や彼がどのように反応したかということを活かしていなかったことが分かった。変化を好むミッシェルとは異なり、ピーターは信頼性や実績、あるいは安定を重視する人であり、新しいものに対して懐疑的な態度を取る。ミッシェルは自分の価値観をもとに相手に影響を与えようとしていたことに気づき、ピーターの価値観や、相手が共感するものを考慮しながら頼み事をするように方針を変えた。また、メッセージを変えて、新しい方策が現在の方向性の延長線上にあること、変化はほとんど生じないこと、他の組織ではこの方策を採用することで2桁の売上成長を達成したことを強調した。喜ばしいことにこの方法が功を奏して、ピーターはミッシェルと積極的に関わるようになった。

影響を与えようとしている相手に注意を払い、その人の嗜好や特徴に目を向ければ、より良い結果が得られるのである。

相手に視点を向けるための質問

同僚によりうまく働きかけるために、自分のいつもの方法をとろうとする前に次の質問をするとよいだろう。

  • この同僚に対する今回と同じような働きかけは、これまではうまくいっているのか?
  • 過去の働きかけの経験を考慮すると、相手に何かを依頼することができるか?
  • 自分は同僚に対して影響を与えることができているか?
  • 似たような状況下で他の同僚に影響を与えることに、成功または失敗したことがあるか?
  • この相手は他人から頼まれたことをほとんど実行しない人なのか?

これらの質問の答えを出せれば、自分独自の影響戦略を作ることができる。そして、相手のコミットメントを引き出せるように、その戦略を相手に合わせて個別に調整することができるだろう。たとえば、過去に似たような状況でうまくいったことが分かっていれば、今回もうまくいくだろうと自信を持つことができる。しかし、似たような状況で影響を与えることに失敗した場合は、相手の嗜好、特徴、過去の経験をもとに、別の策を練る必要がある。

運良く相手に影響を与えることができているように見える人に注目し、会話の様子を確認することで、相手に応じてどのように手法を変えているか知ることができる。今後、十分な影響を相手に与えることができていないと感じたら、働きかけようとしている相手にフォーカスを絞り、その相手に効果のある手法を使って計画を練るとよいだろう。

(Forbesに掲載された記事を許可を得て転載。)

【筆者について】

トレーシー・コシヴェラ(Tracy Cocivera)博士は、ナショナル・コーチング・プラクティス・リード (National Coaching Practice Lead) のヴァイス・プレジデントであり、グローバル人材企業、リー・ヘクト・ハリソン・ナイトブリッジ (Lee Hecht Harrison Knightsbridge) のマスターコーチ。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Influence Has Nothing To Do With Luck

(2017年11月20日にIOC BLOG のIOCに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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