ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
個人の変革がもたらすチームの革新
2018年07月27日
新人の離職率が高いことは、どう考えても望ましいことではない。しかし、米国ケンタッキー大学の男子バスケットボールコーチであるジョン・カリパリ(John Calipari)氏にとっては、離職率の数字は人材開発者としての成功を測る1つの指標となっている。
カリパリ氏のバスケットボールチームは、NBAドラフトで指名を受けるための「足掛かり」とみなされている。新人選手は、ケンタッキー大学で1シーズンプレーすれば、自分のスキルを売り出して、NBAに入るチャンスを最大限に高めることができると考えている。そして実際に、選手たちのそのような望みは実現している。2015年には、6人の選手がドラフト指名された。そのうち1人は1位指名を受けたが、これはカリパリ氏の在任中4度目のことであった。2016年には、資格を満たしている選手全員が、ドラフトへの参加を表明した。
個人の変革が周囲に与える影響
リーダーであり人材開発者でもあるカリパリ氏は、このことをどのように受け止めただろうか?「私たちの選手の夢がかなう夜が、一年で一番嬉しい夜だ。」2015年に投稿されたこのツイッターでのツイートが示すとおり、カリパリ氏は最高に幸せだったようだ。
選手たちがチームを離れていくことを、カリパリ氏は自分のプログラムの短所ではなく、長所であると考えている。優秀な新人選手を採用し、チームが高いレベルで競うことによって、周りの選手たちが次シーズン以降もチームに留まりたいと思うようになる。そのような周りの選手は、チームのスター選手のレベルには到底及ばないが、それでも素晴らしい選手であり、チームの継続的な成功には欠かせない。カリパリ氏はトップ選手と同様にこのような選手を育成し、高い評判を獲得して、有望なトップ選手が常に入れ替わり続けるチームを作っている。
マネージャーはそれぞれ、個人の変革を後押しする独自の力を持っている。個人の変革を助けることで、チームや企業レベルでの革新が促進される。自分が手間をかけて指導し育成してきた人材が離れていってしまうことは、残念なことに思えるかもしれない。しかし、人材開発者としての評判を獲得すれば、積極的に挑戦して自らを変革し、自分だけでなく周囲のチームメンバーのレベルも高める優秀な人材が寄って来るだろう。
学習のS字曲線上のどこにいるか
コーチそして講演者として、私はさまざまな職業の人々と出会う機会があるが、どの人も皆、「学習のS字曲線」の上にいると私は考えている。この曲線の一番低い所にいる人々は、未知に対する不安と期待を感じている。まだ学習を始めたばかりであり、何をすればいいかを模索している段階にある。曲線の一番高い所にいる人々は、その分野に精通し自分に自信を持っているものの、退屈さを感じている。挑戦することがなくなれば、活力もなくなるからだ。一番幸せなのは、中間の「スイートスポット」にいる人々である。これは学習がスムーズに進み、物事に深く関われるようになる段階だ。
私の理解では、企業や組織はこのようなS字曲線の上にいる人々で構成されており、その構成によって革新的な企業になるか停滞する企業になるかが決まってくるのである。
革新的なチームを管理するとき、時として不安を感じることもあるだろう。しかし、変革に伴う混乱をうまく制御して、人々がS字の波に乗れるように助けることは可能である。曲線の頂点に達したときにどうすべきかなどを含め、各個人の学習を最適化することで、精鋭部隊を作り出すことができる。従業員をS字の波に乗せることができれば(そしてそうする必要があるだろうが)、混乱に強くなれるだけでなく、大きな功績を挙げ、メンバーに慕われる上司になれるだろう。
挑戦が作り出す文化
選手たちがカリパリ氏のチームに引き寄せられるのは、コーチであるカリパリ氏が選手の背中を押して才能を引き出してくれるからであり、さらに選手のためになるのであれば、新しいことにも挑戦させてくれるからである。
カリパリ氏が一流の選手が次々と入れ替わることを受け入れたように、私たちも現実を受け入れ、業績優秀者を新しいS字曲線に挑戦させる必要があるかもしれない。残された社員は、そのような挑戦が作り出す文化に勇気づけられ、自信を持つことができるだろう。自由に飛び立つことができるとわかれば、チーム全体が自らの努力で一段と成長を遂げるだろう。
【筆者について】
ホィットニー・ジョンソン (Whitney Johnson)氏は、ウォールストリートの株式アナリストとして受賞の経験があり、破壊的な変革や個人の変革に関する専門家。また、その分野の著作も複数ある。「ハーバード・ビジネス・レビュー」「フォーブス」のライターでもあり、リンクトインで100万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーである。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Driving Disruption While Facilitating Innovation
(2018年3月6日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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