ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
自己変革から始まるコーチング型リーダーシップ
2018年10月19日
エグゼクティブ・コーチングやリーダーシップ・コーチングは、多くのリーダーにとって日常生活の一部になっており、変化を促すエキスパートの助けがなくても会社の能力を伸ばせるようリーダーたちを支援している。リーダーがコーチングを学ぶことは今や一般的なこととなり、コーチングスキルの学習に対する関心はますます広がり続けている。
この分野は、20年前に『Leader as Coach』を出版したヒックス(Hicks)氏とピーターソン(Peterson)氏によって開拓され、さらに最近になって、バンゲイ・スタニエ(Bungay Stanier)氏の『リーダーが覚えるコーチングメソッド(Coaching Habit)』によって広く知られるようになった。
革新は自己変革から始まる
コーチング技術の普及やコーチング文化は、近年になって顕在化してきた。コーチング文化は、特に医療業界との関係が深い。全ての人の健康は、持続的に変化に持続的に取り組み、自己管理と健康的なライフスタイルの確立に向けて積極的に取り組むことによって実現する。医療業界のリーダーには、革新的な変化へ向けてリードしたり、革新を自ら生み出したりすることが求められており、そのためにはまず自己変革から始めなければならない場合も多い。
追いつけないほどの速度で変化する現代社会においても、このような変革に取り組むのに遅すぎるということはない。今こそ、リーダーはもちろんすべての人が、「燃え尽き」を避けるために成長を加速し、環境の変化に追いつき追い越すことを目指すべき時期である。これはつまり、優れたコーチング・セッションで起こることのように、壁を乗り越えて成長するということである。
パフォーマンスの発揮と成長
ハーバード大学の心理学者であるロバート・キーガン(Bob Kegan)氏とリサ・ラスコウ(Lisa Lahey)氏は、近年、数名の同僚とともに、『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか―すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる(An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization)』という本を出版した。その本によると、コーチング文化が育つのは、次の取り組みの両方にバランスよく投資を行っている場合だという。
- 優れた成果を生み出すために高いレベルのパフォーマンスを発揮すること
- 将来、より優れた成果を出すための能力開発に向けて成長すること
成長とパフォーマンスの発揮を同等に扱うのは難しい。成長するには時間がかかる。新しい考え方や行動を試すことになるため、うまくいかないこともあるだろう。また、成長は直線的に進むものでもないため、予測することが困難である。最高のコーチでも、大変革をもたらす知見や変化が生じるタイミングや、小さな変化や大きな変化を生む条件を予測することはできない。
リーダーとしてコーチする
私はこれまでの仕事人生で、コーチング(コーチとトレーナー)と指導(3つの組織と1つの業界)両方の現場に従事してきた。コーチになる前はバイオテクノロジー業界に勤めていたが、現在は、リーダーとしてコーチング技術を活用している。私は、困難ないくつもの段階を経て、次のような変革から始めた。
- 専門家/上司として指示や主張を行うのではなく、他者の自己決定を促す
- 「運転席」ではなく、安心して「助手席」に座れるようになる
- 専門家/上司としての立場にこだわるのを止め、まず他者に尽くす
- 自分ですべてを担当するのでなく、身を引いて見守り静観する
- 欠点を探すのではなく、強みを認める
- 批判を止め、受け入れる
コーチとなった他のリーダーたちと同様、意識の高いリーダーや資本主義の新しい動きに同調して、私は次の事柄をより強く意識するように成長してきている。
- 混乱を起こした人(自分を含む)を責める代わりに、失敗や混乱を成長の機会としてすぐに受け入れる
- 管理することや確実であることを追求する代わりに、変革の兆候として混沌とした状況を楽しむ
- 願望、目標、課題へのこだわりを緩め、予測不可能で非直線的な成長を可能にする
- 仮定や推測が結果として覆されて何をすべきかわからないときでも、落ち着きを保つ
- 自分の周りの世界が混乱した状態であっても、分別と品位を保つ
これらの実践を通じて、私は変革型リーダーシップの長期的モデル(バーナード・ベース:Bernard Bass)をもとに、自己変革型のリーダーシップ、コーチング力、自己コーチング力を取り入れたモデルを新たに考えた。コーチングを取り入れた4つの「変革型リーダーシップ」を簡単に紹介しよう。
- 理想となるような影響力を与える -- 自己変革のモデルとなる
- 刺激的な動機付けをする -- 他者に刺激を与え、明確なビジョンを持たせる
- 個別対応する -- すべての人をコーチングして成長させる
- 知的な刺激を与える -- オープンでリスクを厭わず、創造力を発揮して進化を続ける
コーチングこそ新たなリーダーシップの形である。状況に応じて他者を導いたり、コーチすることをやってみて欲しい。
成長の鍵は、指導とコーチングを両方学び、何をいつ行うべきかを知ることである。
筆者について
マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Coaching Is the New Leadership (2018年6月6日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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