米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


自分をさらけ出すことへの恐れにどう立ち向かうか

【原文】Showing up: Courage, Presence, and Power in Coaching Relationships
自分をさらけ出すことへの恐れにどう立ち向かうか
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先週の金曜日、19回目の結婚記念日の夜に、私は妻に自分がどれだけ妻を愛しているかを伝えた。妻のことをとても大切に思っていること、私たちの精神的なつながりの深さや強さについて、そして、深い感謝の気持ちを伝えた。既に何杯かワインを飲んでいたが、酔った勢いで出た言葉ではなく、本当の気持ちだった。私は妻に自分をさらけ出し、偽りのない気持ちを言葉で情熱的に伝えた。

数時間後の土曜日の朝、私は自分をオープンにさらけ出し、深い愛情を相手に伝え続ける努力をしようとしていた。そして、私は少し緊張したり守りに入っていたりしていた。そのとき私は、「無防備さの悪酔い」、つまり、無防備になることからくる不安を感じていたのである。

自分をさらけ出すことで、私たちは警戒心を解き、自分の存在と輝きを示して、他者と有意義な関係を築くことができる。リーダー、恋人、コーチとしてなど、何らかの形で自分をさらけ出すことは、相手を力づけることでもあるが、同時に無防備になることでもある。人が自分の姿をあまり見せようとしないのは、恐れがあるからである。

「恐れ」とは何か

恐れに関してまず1つ目に理解すべきことは、恐れは避けられないものだということである。恐れは自我の基本的な感情である。私たちは反射的に警戒心を抱く傾向がある。それは生まれつきのものだ。生物的、社会的、進化論的、認知的に、私たちは自ら自分を定義し、自我を内側に形成する傾向を持っている。また、私たちを定義する自我の境界は、他者と他者の体験や観念から自分を区別たり防御したりする役割を持っている。

2つ目に理解すべきことは、恐れを感じないことはできないことである。正常な機能を持つ人間なら、誰でも恐れを抱くのである。恐れを感じない方法を教えるという人がいたら、財布を持って逃げたほうがいい。ただし、生まれつき恐れを感じるのと同様に、生まれつき勇気を持つこともできる。私たちの自我は、さまざまな恐れを含有しているが、境界は定まっているわけではない。なぜなら、私たちは時間、経験、学習とともに成長するからである。コーチングは、基本的にものの見方や行動の変化に焦点をあてて進められる。コーチングという職業は、不変性ではなく成長という観念を基礎としているのである。

そして3つ目に、勇気は不快だという考えに行きつく。普通の人は、コンフォートゾーンを離れて成長の領域に入ると、恐れや不安を感じる。実際に、胃のむかつき、心拍数の増加、顔の紅潮、発汗、疲労、緊張などの不快な兆候が身体に現れる。勇気が心地よいものだったならば、私たちはずっと頻繁にそれを発揮する練習をしていたことだろう。あらゆる人間の能力は練習とフィードバックで向上する。勇気も同じで、それを発揮するには練習が必要である。

ここで言っている勇気は、スカイダイビングや揚げたサソリを食べることとは関係がない。勇気とは、コーチとして自らをさらけ出し、クライアントの模範となることである。それは、逃げ出したいことに敢えて歩み寄っていくことである。ばかげた虚勢や恐れが無い夢のような状態は忘れて、歓迎しないものでも関わったり、受け入れられないものを受け入れたりすることが大事である。私は勇気を持って自分をさらけ出すことを長期的に無理なく練習するにはどうすればよいか考えた。それは、「感じること」「向き合うこと」「受け入れること」である。

感じること

勇気を養うための第一歩は、知的な作業ではない。結局のところ、不安を吐き出せるかどうかは気持ちの問題である。解決策を合理的に考え、論理的に理解して、不安と恐れを和らげようとする努力は、長い間続けられるものではない。私たちは、勇気を持つ方法を頭で考えるのは不可能である。なぜなら、危険を認識すると、脳が自動的に闘争・逃走反応(fight-or-flight reactions)を引き起こすからである。思考と認識が「恐れ」の影響を受けると、身体的な反応が現れる。

まず行うべきことは、生理的反応、筋肉への影響、化学的反応などの感覚的データを探して集めることだ。恐れについて語ったり、恐れを抑えようとしたりする前に、少し客観性を身に着けて距離を取る必要がある。恐れに触れてそれと同居することは、恐れをよく見つめて、それがどのように見えて身体がどう感じることである。例えば、歯の食いしばり、首の緊張、胸のざわめき、手の汗などを観察することができる。自分の身体と感覚をよく見ることは、それだけで既に勇気ある行動であり、経験に影響を与える。自分とある人との関係を「分け隔てる」のかあるいは「つながる」のかによって左右されるように、自分と恐れとの関係も「遠ざける」のか「同居する」のかによって変わってくる。

向き合うこと

恐れと向き合うことは、恐れとの関係や関わりを深めることである。それは、他人に向き合ってよく見ることで、その人を知り理解することができるのと同じである。恐れと向き合うことによって、身体的に現れる現象を客観的に観察することから離れ、その代わりに、自分の思考に名前を付けることができるようになる。そうすることで、恐れの本性、性質、構成要素が明らかになるのである。

恐れの名前は「怒り」「不公平」「妨害」「愚か」「不機嫌」「時間の無駄」「フラストレーション」「ためらい」「不和」などのシンプルな言葉にすることもできるほか、「この報告書を締め切りまでに完成できるか不安だ」「自分がバカに見えないか心配だ」「自分のチームは彼の行動が原因で困ることになるだろう」「これは私の手に余る」「目標を達成できないと出世できない」など、ある懸案の状況にまで発展することもあるだろう。

最終的に、恐れと向き合うことは、演繹的な理解へとつながる。また、向き合うことは、馴染みのあるストーリー展開を認識する中で、頭の中で長年にわたり正しいと信じている考え、つまり信念となる。このような信念は、私たちの不安を加速させるエンジンの歯車として機能する。たとえば、「このままでは目標に届かない。」「チームの目標が達成できないなら、部下は私のビジョンと管理能力が不足していると思うだろう。」「報告書の提出が遅れて不完全だと、嘘をついたと言って責められるだろう。」「昇進できたのは偶然であり、これでそのことがばれてしまうだろう。」という具合である。

周到に準備され、心に深く根付いている信念に向き合い、それに名前を付けることで、自分の思考に対する締め付けを緩めることができる。信念が心の中で隠れたままの状態だと、意思決定のメカニズムが知らず知らずのうちに影響を受け、安全策を取り、自分をさらけ出すことを避けてしまうだろう。

受け入れること

受け入れるとは、「対象と接触して関係を維持し、親密な個人的関係を築くこと」である。人は心配や不安を感じると、萎縮して安全な所に逃げようとする。これと反対に、受け入れることは、手を伸ばして広がっていくことである。ここでもやはり、恐れを打ち砕いたり、不安の原因を取り除いたりすることが問題なのではない。恐れは力への入り口を守る門番である。恐れを前に萎縮すると、私たちはエネルギーや力を失ってしまう。コーチングは知見をもたらし行動へと導く方法であり、恐れという内なる怪物と向き合いそれを受け入れたコーチは、自分と同じ実践をクライアントに勧める際に、道徳的な信頼を示すことになるだろう。

実際のところ、恐れの受け入れには計画と行動の2つの側面がある。計画は細かく練ってもいいし、簡単なものをすばやく作るのでもよいだろう。恐れに5%か10%近づけるのであれば、自分のこれまでの思考様式や傾向に挑む計画としては十分である。

私と妻の絆や親密さは、天から与えられたものでもなければ偶然の産物でもない。勇気を持って自分をさらけ出し一緒にいたからこそ得られたものだ。コーチとして、皆さんは自分をさらけ出して勇気を養う機会を無限に持っている。「感じること」「向き合うこと」そして「受け入れること」を練習することで、古い信念や恐れによる反応を止める停止ボタンを作動させることができる。刺激と反応のあいだの隙間には、人間らしさ、つまり天賦の創造力と共感力がある。練習を積むことで、私たちは安心を求める自我の声を聞き分けて、自分をさらけ出すことを選び、自分の存在と輝きを示して有意義な関係を築くとともに、クライアントの輝きと情熱に貢献することができるだろう。

<筆者について>

エリック・カウフマン(Eric Kaufmann)は、作家、ファシリテーター、そしてエグゼクティブコーチとしてリーダーの成長に貢献している。また、リーダーやそのチームを対象としたリーダーシップ指導の会社、サガティカ(Sagatica)社の社長を務め、そのクライアントには大手IT企業、金融機関などが並ぶ。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Showing up: Courage, Presence, and Power in Coaching Relationships(2018年4月6日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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