米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


小さな変化が持つ大きな力

原文:Big Power of Small Tweaks in Coaching
小さな変化が持つ大きな力
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世界はなかなかひっくり返せない

人生が自分の期待どおりにいかないとき、私たちは生活を大きく変えることに考えが向かいがちである。仕事を辞めて山奥の僧院に入ることを空想する。ジャンクフードの食事を恥じて菜食主義者になろうかと考える。ニューヨークやパリ、あるいはタヒチに移り住み、人生をやり直そうかと考える人もいるだろう。

このような大きな変化は非常に手ごわそうなので、たいていの場合、クライアントは何もせず、不満を抱えたまま立ち止まってしまう。自分の世界をひっくり返したいという衝動に駆られて行動を起こしても、新しい環境が想像していたとおりにならないことが多い。人生の問題が一瞬にしてすべて解決することはないのである。

実際、自然は革命ではなく進化を好んでいる。単細胞生物は徐々に形を変えて環境に適応し、最終的に複雑な植物や動物に進化した。大陸は長い時間をかけて海を移動し、今の形になった。私たちやクライアントの人生も同じである。変化は過程であり出来事ではない。一度の決断で過去のしがらみを断つよりも、小さな変化を積み重ね、自分にとって価値のある方向に舵を取るほうが有効であることが多い。

小さな変化を起こすことのメリット

このような考え方こそが、私が「小さな変化の原則」と呼んでいるものの基礎である。この原則は、変化の過程でフラストレーションを感じているクライアントに、「意味のある微調整を少しずつ慎重に行っていくことで、自分の人生を大きく変えることができる」ということを思い出させることができる。

小さく考えることには、大きな利点がある。失敗のコストが比較的少なくて済む。失うものはほとんどないということにクライアントが気づけば、プレッシャーが減り自信が増す。控えめで現実的な目標の達成を目指すことで、成功に向けて着実に歩みを進めることができる。では、クライアントの日々の習慣にこの原則を当てはめてみると、どうなるだろうか?ここでは、小さな変化を積み重ねて大きな変化を生み出すための「4つの戦術」を紹介しよう。どれも皆さんのクライアントに対して使うことができる戦術である。

1. 簡単に行動できる環境をつくる

空腹、疲労、ストレス、忙しさを感じたときに、自分の価値観に最も合った選択を簡単に行えるように、クライアントに環境を変えさせるとよい。体重を何キロか落とすことを目指しているなら、クッキーではなく新鮮な果物を棚に入れておくことで、目標を達成しやすい状況を作ることができる。そうすれば、夜食に棚の中のどれを選んで食べても、翌朝後悔することはないだろう。

2. 便乗する

既存の習慣に新しい行動を付け加える方法である。先ほどの体重の例で言えば、日課の犬の散歩をジョギングに変えたり、夜のニュースを見るときにジャンピングジャックなどの体操を行ったりすることである。

3. 心の準備をする

「もし~なら、そのときは...」とクライアントに考えさせることで、起こりうる障害を予測させ、それに向けて準備させる方法である。「もし上司がドーナツを買ってきたら、休憩室の冷蔵庫の中に入っている果汁たっぷりの梨を食べることにしよう。」「もし朝のエアロバイクのクラスを寝過ごしそうになったとき、出席したらどれだけ気分が良くなるか想像することにしよう。」

4. 障害物を考える

成功には前向きなビジョンが欠かせないが、最も効果的なのは、前向きなビジョンを持つ際に、潜在的な課題も考えることである。楽観的に考えることは重要であるが、現実的な考えも併せて持つことで最も大きな効果が得られる。このプロセスは心的対比(Mental Contrasting)と呼ばれる。詳しくは、IOCの「注目の研究(Research You Want to Know)」で紹介しているガブリエル・エッティンゲン(Gabriele Oettingen)氏の研究を参照してほしい。

科学的根拠に基づくこれらの戦術は、健康だけでなく、あらゆる種類の変化に適用できる。

小さく舵を切った船の行先は

船長はどちらかの方向にほんの数度舵を切るだけで、針路を完全に変えられることを知っている。舵を切ってその方向に長い時間進み続ければ、舵を切らなかった場合と比べて、最終的に何百マイルも離れた所に行き着くだろう。

クライアントに変化をそのように考えさせることが、非常に効果的な場合がある。急に針路を変えると転覆する危険があるが、大事だと思う方向に徐々に向きを変えていけば、行きたい場所にたどり着くことができるだろう。

筆者について

スーザン・デービッド(Susan David)氏は、IOCの共同創設者でIOCを代表する人物の一人。国際的に活躍するソートリーダー(先進的な考えを主導するリーダー)として、ビジネスと心理学を融合させた活動に取り組んでいる。企業の経営陣に対するコーチ/コンサルタントとしての豊富な経験をもち、基調講演のスピーカーも数多くこなす。また、経営コンサルティング会社、Evidence Based PsychologyのCEOであるほか、ハーバード・メディカルスクールの精神医学科において、心理学の講師を務める。著書、雑誌への寄稿多数。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Big Power of Small Tweaks in Coaching (2018年11月6日に『November 2018 Coaching Report』に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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