ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
感情を言葉にすることの効果とは(要約)
2019年03月22日
ジャレッド・トーレ(Jared Torre)氏とマシュー・リーバーマン(Matthew D. Lieberman)氏執筆による論文について、米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であるマーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏による要約を以下にご紹介します。
序論
トーレ氏とリーバーマン氏はまず感情制御(Emotion Regulation)について紹介している。
感情をうまく制御するには、精神的あるいは肉体的な努力が必要だと思われがちである。困難な状況に対する見方を積極的に見直したり(再解釈)、感情が湧きにくくなるように自分と問題との間にゆとりをもたせたり(距離を置くこと)できるため、この方法は有効である。一方で、意外なものであるが、多くの研究機関が支持している考えがある。それは、「感情ラベリング(Affect Labeling)」、つまり感情を言葉にするというシンプルで簡単な方法が、感情を制御するうえで重要であるという考えである。
感情制御とは
著者は感情制御を次のように説明している。
人がある感情を覚えるとき、その感情と緩やかに結びついた経験的、生理的、行動的な反応が引き出される。感情制御は、感情の性質、持続する長さ、および強さを調節することであると定義される。そしてこの調節が、先ほどあげた反応のアウトプットを変化させる。
感情ラベリングとその効果
感情ラベリングとは何だろうか。
人は自分の感情を言語化できる(「私は怒っている」など)。
また、他者の感情を言語化できる(「あの人は怒っているようだ」など)。
感情ラベリングは自分の頭の中で実行できる。また、口に出したり、文章にしたり、与えられたラベルの中から選ぶことでも行える。
しかし、根本的には、感情ラベリングは感情を喚起する体験を言語的なシンボルに意識的に変換することである。
では、感情ラベリングの効果とは何だろうか。
感情ラベリングの効果として、神経活動の変化と生理的変化があげられる。たとえば、感情の発生に伴う脳の一部(扁桃体など)の活動の低下、感情制御に伴う脳の一部(前頭前皮質など)の活動の増加、自律神経系の活動(心拍数や心拍出量など)の低下があげられる。
心理的な変化としては、被験者は感情を喚起する体験が調節され、苦痛を感じることが少なくなったと報告している。
また、行動の変化としては、行動に関する多くの波及効果があったことが報告された。たとえば、試験に関する不安を試験前に文章化した学生は、試験の成績が向上した。
結論
感情ラベリングは、その具体的な形態にかかわらず、経験、自律、神経、行動の各領域において、他の感情制御方法で見られたものと同様の効果を及ぼすことが研究によって証明されたと著者は述べている。
なお、感情ラベリングの仕組みとその効果の理由を説明した図は、初期段階のものであると著者は注意している。
コーチングへの応用
言葉は重要である。コーチはクライアントを助け、医療提供者は患者を助け、リーダーはチームを助ける。私たちはみな、感情的体験を言葉に変えるという簡単な手順を踏むことで、感情による反応を自分で緩和することができるだろう。
論文原文:Putting Feelings Into Words: Affect Labeling as Implicit Emotion Regulation, Emotion Review, 10(2), 116-124.
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【要約原文】Putting Feelings Into Words: Affect Labeling as Implicit Emotion Regulation (2019年1月24日にIOC Resourcesに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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