米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


行動を変える準備(IOCコーチング・レポート 2018年5月号より)

【原文】Our Readiness for Change
行動を変える準備(IOCコーチング・レポート 2018年5月号より)
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「学ぶ者の準備ができたとき、師は現れる」
―老子

この言葉をコーチングの場面に当てはめると、「クライアントの準備ができたとき、コーチは現れる」と言い換えられるだろう。

また、この先人の教えから、行動を変える準備ができていない人があまりに多い、ということにも気づかされる。

クライアントが行動を変える準備ができているかどうかを、どのように判断したらよいのだろうか?著名な心理学者であるジェイムス・プロチャスカ(James Prochaska)氏とロード・アイランド大学の共同研究者たちが行った調査、さらに1000を超える実験や研究によって行動変容ステージモデル(Transtheoretical Model(TTM))が提唱されたおかげで、私たちは、行動変容の5つのステージと2つの基本的な要因(決め手)をもとにして、クライアントの状況を判断することができるようになった。

その5つの変容ステージとは以下のとおりである。

  1. 無関心期―行動を変えることに自信がない、あるいは行動を変えることに抵抗する。
  2. 関心期―様子見。行動を変えられる可能性は五分五分。
  3. 準備期―準備中。行動を変えられる期待が持てそうな状態。
  4. 実行期―新しい行動や考え方に積極的に取り組むが、まだ不安定で横道にそれる恐れがある。
  5. 維持期―新しい行動と考え方が習慣化されている。

48種類の行動をメタ分析した結果に基づいて作成された下記のグラフから、行動を変える準備の要因を簡単に理解することができる。結論から言うと、行動を変えるかどうかは、意思決定のバランスによって判断できる。つまり、行動を変えることで予測されるメリット(動機づけ)とデメリットや障壁(自信をなくす)を比較するのだ。

このメタ分析から、48種類の健康に関する行動について変容のプロセスに一貫性があることが明らかになり、他の行動を容易に推定することができた。

<5つの行動変容ステージにおけるメリットとデメリット>

各ステージにおける動機づけと障壁のバランス

準備のステージをらせん状にステップアップするにつれて(直線的に進むのではない)、行動を変える基本的な要因も変わってくる。

無関心期―変化に対するメリットよりも変化に対するデメリットのほうがはるかに大きい。
関心期―メリットとデメリットが拮抗しているため、行き詰まりを感じたり態度を決めかねたりする。
準備期・実行期―デメリットが低くなり、メリットが強くなる。
維持期―デメリットが小さくなり変化に対する障壁が低くなる。また、強い自信が生まれ、変化に対するメリット(動機づけ)が大きくなり、その状態が維持される。

動機づけと自信

プロチャスカの研究チームの調査から、コーチにとって重要なもうひとつの結論を導くことができる。それは、行動の種類を問わず、無関心期と関心期が全体のほぼ8割を占めているということだ。

私は、動機づけと自信は「変化の双子のエンジン」だと考えている。前に進むためには、どちらのエンジンもパワーアップさせる必要があるからだ。

数年前、私は、動機づけに関して面談する際に、行動変容ステージを測る指標となるような、医師向けのツールを開発した。このツールを使うと、患者に行動を簡単に選んでもらい、行動を起こす準備を整えてもらうことができる。患者は、自信について1~10のスコアを付け、同様に動機づけについても1~10のスコアを付ける。

両方のスコアが少なくとも6か7に達したら、行動を選び、あと1ポイントか2ポイントアップできるように患者を支援する。このやり方によって、より実現可能な「新年の抱負」を立てることができ、必要な準備ができていないというリスクを避けることができる――行動を起こすには、動機づけも自信も後押しが必要なのだ。

行動変容のステージに合わせたコーチングの戦略とは

行動変容ステージモデルに関する新たな著書、『Changing to Thrive(行動を変えて元気に生きよう)』のなかで、ジェイムス・プロチャスカ氏とジャニス・プロチャスカ(Janice Prochaska)氏は、行動変容の各ステージに合わせた固有の戦略とコーチングのツールが必要だと述べている。それぞれのステージに適したコーチングのツールを使用し、前半のステージと後半のステージでは変化への取り組みが異なることを認識する必要があるのだ。

前半のステージでは、動機づけと自信を高めるなど、考え方を変えることに注目して意識を高めるアプローチをとる。

後半のステージでは、新たな習慣や慣習に対する関心を引き出してそれを支援することに注目して実践的なアプローチをとる。この取り組みは、コーチたちやコーチングのスキルを使う人たちにとってきわめて重要であり、米国コーチング研究所(IOC)は、優れた科学的なコーチング研究に贈られる2017 IOC Vision of Scientific Excellence in Coaching Awardを、ジェイムス・プロチャスカ氏とジャニス・プロチャスカ氏に授与した。

行動を変える準備ができていない人は、コーチングを受ける準備ができているのだろうか?

クライアントがアドバイスに耳を傾けて行動を起こす準備ができていないのに、コーチングの専門家は、準備ができていると思い込みがちだ。『The Expert's Dilemma(エキスパートが抱えるジレンマ)』というタイトルのIOCのブログでも述べているように、コーチや周囲の人たちの考えることが優先事項であるとは限らないのに、行動を変える準備ができている人が多いのが実情だ。つまり、コーチはクライアントに直接会い、変える準備ができていて、積極的に変えたいと思っていて、しかも変えることができる行動を見つけられるようにサポートする必要があるのだ。

では、クライアンが行動を変える準備ができるのは「いつ」なのだろうか?それは、クライアントが変えたいと考えている行動に、コーチが注目する準備ができているときだ。

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Our Readiness for Change 2018年5月3日にIOC「2018 May Coaching Report」に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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