米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


経営幹部は優秀なエグゼクティブコーチになれるのか

【原文】I want a coach who has done my exact job before – but bigger!
経営幹部は優秀なエグゼクティブコーチになれるのか
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私のビジネスのクライアントで、シリコンバレーのスタートアップでプロダクト開発を担当するある幹部はこのように語った。「私は、部下に厳しすぎると言われることがある。部下を統率することにおいて、もっとうまくやる必要があるということだろう」と。

「その点について、もう少し詳しく教えてもらえないでしょうか?」と私は促した。彼のコーチとなる候補者を、私が何人か推薦するために必要な情報を集めようとしたのだ。

エグゼクティブコーチに何を求めるのか?

数分経って、会話は私の得意とする(しかし時には厄介な)初回聞き取り面談の内容に入った。「では、あなたはエグゼクティブコーチに何を求めますか?」と私は質問した。

彼の以下の回答には私ですら戸惑った。少なくともその息もつかせぬスピードには。

「私が求めるコーチは、シリコンバレーでプロダクト開発部門を統率するエンジニアの経験があり、2億5,000万ドル以上の会社のシニア・バイスプレジデントレベルで、チームの人員は25人以上。その人が所属する会社は、8つ以上のタイムゾーンにまたがり、5か国以上に展開、なおかつ、製品を立ち上げから18か月未満で市場に出した実績がある人です。そうそう、中国語が流ちょうならなおいいです。」

要するに、「私と全く同じ仕事を経験したコーチを求めている-しかも、さらに大きな規模で!」ということだろう。

私は、1,000人を超えるコーチを抱えているので、干し草の中から針を探すような作業が得意である。しかし、このケースでは疑問を感じずにはいられなかった。「部下に厳しく当たる」問題を解決するために、干し草の中の針が本当に必要なのだろうか?(このケースでは、針が役に立つかもしれないが)

別の言い方をすれば、コーチとして成果をあげるために、コーチはクライアントであるリーダーと同じ仕事をした経験が必要なのだろうか?もし必要でないならば、どのようにしたら幹部や人事部の認識を変えられるのだろうか?

コーチに「ビジネス経験」を求めるクライアント

私たちの調査では、幹部およびコーチを雇っている組織がコーチにビジネス経験を求めていることが繰り返し明らかになっている。2012年の調査では、85%の幹部がコーチ選定プロセスにおいて「ビジネス経験」を重視している(コーチを雇っている組織では92%)。

コーチを選ぶ時に以下のどの基準が重要だと思いますか?

  コーチを
雇っている
組織
リーダー 社内
コーチ
社外
コーチ
コーチとしての経験とスキル 99% 96% 97% 98%
親しみやすさ、信頼感および
心地よさを共有できる能力
96% 100% 100% 99%
難しい人間関係など、
特定のリーダーシップ上の
課題を解決した経験
96% 85% 90% 93%
自社の企業文化との相性 95% 76% 86% 82%
ビジネス経験 92% 85% 89% 89%
コーチとしての専門分野 88% 60% 65% 74%
価格 84% 55% 47% 65%
同僚からの推薦 82% 72% 82% 93%
距離の近さ 74% 64% 51% 52%
自社が所属する業界での経験 55% 47% 68% 64%
上級学位(修士または博士) 54% 38% 36% 49%
コーチ資格 53% 40% 78% 36%
特定の手法/ツール 29% 28% 44% 28%

図25:コーチ選定基準

そして、この傾向はコーチを求める我々のクライアントとの面談で頻繁に見られるものだ。

先週のことだが、あるクライアントは全米上位500企業でのCレベル(経営幹部)の経歴がないコーチ候補者をすべて断ってきた。また別のクライアントは「求めているのはセールスの現場にいて、セールスの経験のある人です。かつてカバンを下げていた人です」と言って、セールス部門の幹部からコーチに転身した人を求めていた。私たちの「新規申込用紙」には「幹部経験のあるコーチを求める」という選択項目があり、それがチェックされる回数は非常に多い。

しかし、正直なところ、ベテランのエグゼクティブコーチはCレベル/ラインの管理職を経験していない。彼らは、心理学、人事、リーダーシップ開発、産業・組織心理学、組織開発、コンサルティング、トレーニング、教育...といった分野/専門の出身である。察しがつくであろう。

つまり、市場の供給は需要に直接的には合致してないのである。例えば、アポロ宇宙飛行士ならこう言うだろう。「ヒューストン、ミスマッチが起こった。」(このミスマッチはヒューストンでも解決できない。)

2つの主要な基準

私は1,000人を超えるコーチのスクリーニングを行う仕事をしているが、それにあたっては、次の2つの要素を重要視している。

  • このコーチはどんな種類のビジネス経験があるのか?
  • 彼らがコーチとして優れているかどうかを、どのように確かめるのか?

多くの場合、コーチは次の2つのグループのいずれかに分類される。

エグゼクティブから転身したコーチ

数年前に非常に大きな会社の元社長から電話を受けたことがある。その会社は世界中の人が知っている会社である。彼は、私のメンターであるマーシャル・ゴールドスミス氏と面識があった。「私は引退すると言うと、マーシャルは、コーチになるべきだと言った。だから、私はコーチになるつもりだ」と彼は語った。

ビジネス経験のあるコーチを求める多くのクライアントは、彼の経歴の華麗さに驚いただろう(多額のコーチ料についても)。彼はコーチとしてのトレーニングを受けておらず、また人間行動、パーソナリティ、心理などに関する分野でいかなる学位も持っていない。彼は経営幹部だったころ、いつも部下をコーチすることが好きだったと述べている。しかしそれがコーチングの経験のすべてであった。

彼がコーチとして優れていると、どうやったらわかるのだろうか?実際にどのようなコーチングをするだろうか?ひょっとしてコーチではなくて、メンタリングやアドバイスをするつもりだろうか?アドバイスすることを期待されていると考えているのだろうか?

ただし、私はいつもコーチのビジネス上の経歴を元にスクリーニングしている。経験が多ければそれだけ良く、「ライン部門管理」の経験が多ければそれだけ良いということである。私たちはこれらをオンラインのデータベースに入力する。そこには、どの職務に最も経験があるかという情報も含まれる。

しかしながら、私は次に、実際に優れたコーチになれるかどうかに注目する。彼らはどんな種類のトレーニングを受けているのか?どんな学位や資格証明があるのか?どれくらいの期間コーチの経験があるのか?収入のうちコーチ関連はどれくらいか?そして彼らが考えているコーチングはどのようなものか?

コーチから転身したエグゼクティブ

我々が会うコーチは、通常はコーチングや、コンサルティング、心理学、人事、リーダーシップ育成などの関連分野に深い経験がある。多くの人が以前に組織の幹部のポジションに就いていた(つまり、人事のバイスプレジデント、組織開発トレーニングのディレクター、人材開発スペシャリストなど)。全員がコーチングで5年以上の経験があり、その分野の上級学位を持ち、多くの場合コーチングと手法についての認定資格を持っている。

しかし、過去のビジネスの経験についてたずねると、多くが社内スタッフとしての職務をあげる(悪くはない)。あるいは中小のコーチングまたはコンサルタント・ビジネスを経営した時の苦労した経験をあげる(感銘は受けない)。

彼らはコーチとしての適性がある。問題とされるのは幹部としての経験が乏しい、あるいはないということだけである(ここだけの話であるが、マーシャルも私自身も全米上位500企業の幹部の地位に就いたことがない)。

これらのコーチについて、私は彼らのビジネス経験、またエグゼクティブ・コーチングの経験を確認する。おもにどのレベルにコーチしていたのか?会社の規模は?期間は?エグゼクティブ・コーチングができるだけの信頼度があるのか?

答えは何であろうか?

我々のファームで最も評判の良いコーチは、誰もが知っている会社の元COOおよびCEOで、退職後、フィールディング大学の組織行動の博士号を取得した。彼は約10年前からコーチの仕事を始め、スケジュールがずっとほぼ一杯であった。一つの解決策は彼のクローンを作ることだが残念ながらそれはまだ実現せず、その上彼は引退している。

私たちがCレベルの幹部をもっと退職させ、コーチとして採用し、素晴らしいコーチングの世界にいざなうべきであろうか?そして彼らを大学院に戻して卒業させ、訓練し、彼らにコーチングの経験を数百時間積ませるまで待つべきであろうか?これは現実的な解決策ではない。

それではその解決策とは何だろうか?

コーチとしての専門性は幹部としての経験を凌駕する

私たちの調査結果で回答が集中したいくつかの基準に注目して結論を出すことにしよう。

「親しみやすさ、信頼感および心地よさを共有できる能力」―100%のリーダーが選択している。

「コーチとしての経験とスキル」―96%

「特定のリーダーシップ上の課題を解決した経験」―85%

「ビジネス経験」―85%

そして、「コーチとしての専門分野」―これはコーチを雇っている組織の88%が選択している。

注意深く見ると、一つを除いてみなコーチングの特性、いわば優秀なコーチの証である。幹部レベルが直面する難問に専門性を持ち、幹部との間で関係を築き、信頼を得る、コーチとして深い経験がある人である。

最後に言いたいことは、コーチとしての専門性は幹部としての経験を凌駕するということである。幹部としての経験は関係を築き、共感を深めるのに役立つが、コーチングの専門性の代わりにはならない。クライアントが覚えておくべきことは、優秀なコーチはカバンを下げた経験がある必要はないということだ。優れたコーチであるために、コーチには幹部と同じ仕事を(さらに大きな規模で)した経験は必要ない。

忘れないでいただきたいのは、ベテランのコーチは異なった職務、会社、業種、国の数百人の幹部と働いてきて、その豊かな経験から得た深い智恵を幹部にもたらすことだ。これこそが私たちが探している経験である。

皆さんはどう思われるだろうか?

【筆者について】

ブライアン・O・アンダーヒル博士(Brian O. Underhill, Ph.D)は、世界最大規模のエグゼクティブ・コーチング・ファームであるコーチ・ソース(CoachSource)の創設者/CEO。マーシャル・ゴールドスミス(Marshall Goldsmith)のエグゼクティブ・コーチング事業に従事する経験を持ち、グローバル企業でのエグゼクティブコーチの他に講演活動なども世界各国で行っている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】I want a coach who has done my exact job before - but bigger!
(2019年3月11日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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