米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


テクノロジーはクライアントの行動促進に役立つのか?

【原文】Can Technology Help Shrink the Intention-Action Gap?
テクノロジーはクライアントの行動促進に役立つのか?
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意思と行動の間のギャップに注目するスタートアップ企業

IOCの科学諮問委員会のメンバーであるジークフリート・グライフ(Siegfried Greif)氏は、2019年5月のコーチング研究所(Institute of Coaching:IOC)のウェビナーで自身の研究を紹介し、意思と行動の間のギャップの解消を助ける重要なコーチング手法について説明した。

(IOCの共同創設者および共同責任者である)マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏がウェビナー後すぐに公開した記事で述べているとおり、コーチは行動計画、対応策、継続の強化など、意思を行動に移す活動をサポートする。クライアントとのコーチング期間の最終段階(目的地に到達するまでの最後の1マイル)においても、コーチには果たすべき明確な役割がある。

デジタルツールでコーチング市場に破壊的革新をもたらしているスタートアップ企業も、意思と行動の間のギャップに注目している。この記事では、「LeaderAmp」と「Saberr」という2つのオンラインツールを紹介する。どちらも意思を行動に移そうとしている個人やチームをサポートするツールだ。以前投稿したテクノロジー系の記事と同じく、この記事で取り上げることでこれらのベンダーを勧めているわけではない。このような新しいテクノロジーを紹介するのは、私たちコーチの間で以下の問題に関する議論を促すためである。

  • 現時点で、コーチングのどのステップが自動化可能か?
    自動化した場合、コーチングは改善されるか?
  • 現時点でテクノロジーよりも人間のコーチのほうが得意なことは何か?

セッションとセッションの合間を支援するツール

「リーダーアンプ(LeaderAmp)」というツールは、クライアントの実践を成功させるためには、ステークホルダーのサポートに加えて、別の手段が必要だという考えに基づいている。通常、コーチング・セッションの間隔は長いことが多いため、コーチはクライアントの進捗状況を把握できないことが多い。

「リーダーアンプ」は、セッションとセッションの期間をフル活用してコーチの協力のもとクライアントの実践を促している。そして、「コーチングは指示を与えない」という常識に挑戦している。このツールは独自のアセスメントとAIを組み合わせることで、クライアントのレベルに適した課題にそって、プッシュ型の提案を提供している。

アセスメントおよび目標とリンクしたエビデンスに基づいた行動提案により、クライアントは自分に適した形で能力を開発し続けることができる。「リーダーアンプ」はテレサ・アマビール(Teresa Amabile)氏の「進捗の法則」の影響を受けている。同社が勧めるのは、難しすぎも簡単すぎもしない、ほどよい難易度の課題にコツコツ取り組むことだ。

クライアントが提案を受けるとき、人間のコーチは何をしているのだろうか。IOCのメンバーであるエグゼクティブコーチのガブリエル・オストログニ(Gabrielle Ostrognay)氏は、「リーダーアンプ」を利用して、それぞれのクライアントの居場所、活動内容、コーチングを受ける目的、振り返りを行った回数、振り返りの内容と質を確認している。彼女によると、このシステムでは励ましメッセージを簡単に送ったり、練習や振り返りが順調なクライアントや遅れているクライアントをすばやく確認できるという。システムが提案する「一口サイズ」のアクションは、適切なレベルでクライアントに与えられ、セッションとセッションの間でも達成できるものだという。

また、ステークホルダーのサポートがクライアントの実践を後押しすることもある。「リーダーアンプ」の使用者のステークホルダーには、AIが選択した「Nurture Notes(育成メモ)」が送信される。ステークホルダーは事前にクライアントを皆でサポートするよう依頼を受けているため、クライアントがどのような変化を作りだそうとしているのかを理解している。「リーダーアンプ」のリマインダーには、継続的な行動の強化や知識を応用する機会を作り出すことなど、ステークホルダーとしてクライアントの実践をサポートする方法に関する実践的な提案が含まれている。

チームメンバー間の連携強化の為のツール

一方、チームメンバー間の連携を強化するには、どのような意識や行動計画が必要だろうか。テクノロジーは孤立を助長し、表面的なつながりしか生み出さないのではないかという懸念もあるが、セイバー(Saberr)社の「コーチボット(CoachBot)」には、自分たちがチームとしてどれだけうまく機能しているかを頻繁に話し合うよう促す機能がある。このツールは、チームの目標や、連携方法に関する行動面での約束事の土台をチームで決める際に役立つ。

コーチボットを使用したコミュニケーションのイメージ

しかし、ジークフリート氏が説明したように、目標を明確化するだけでは、目標達成に向けた行動を継続的に実行することはできない。目標の明確化と行動の約束も、行動計画とサポートがなければあまり効果はない。「コーチボット」では、2種類の会話を定期的に行うよう促すことで、目標や行動の実践をサポートしている。

チームの振り返りの会話では、何がうまくいっているか、より効果的なチームになるためには何にもっと注意を払うべきかを確認する。次の会話までの合間に、メンバーはチームの連携状況について、自分の意見やフィードバックをモバイル端末やウェブから投稿しながら、学んだこと、祝いたいこと、改善した点などを共有する。

そしてこの新しい情報を使い、次の振り返りの会話を始める。あなたがチームコーチングを担当していて、チームの振り返りを促したいのであれば、チームミーディングの前にこれらの情報を確認しておくとよいだろう。

チームの目標達成をサポート

「コーチボット」は、チームの目標達成が遅れていることを検出すると、自分たちの活動を見直し、活動が目標に沿っているかどうかを確認するよう、チームメンバーに通知を送信する。さらに、この問題について話し合う時間があるかどうかを各メンバーに尋ねる。次回のチームミーティングの際には、メンバーは「コーチボット」からサマリーを受信する。このサマリーには、チームからの情報に基づいて提案された、チームが話し合うべき最も重要なトピックが記載されている。

また、チームメンバーは他のメンバーやチームリーダーと一対一で会話する必要もある。「コーチボット」は、会話を開始して重要なトピックについて話し合えるように、二人と一緒に共通のアジェンダを作成する。一対一の会話の後にはリマインダーが送信される。場合によっては、「あなた(ともう1人のメンバー)は目標の再調整をどのように行っていますか?」など、一対一の会話後の行動についての質問が両者に送られる。

ツール利用者への資格認定も

どちらのデジタルコーチングプラットフォームも、個人やチームのコーチング・セッションの合間に課題に取り組むクライアントをサポートしている。行動の意思を確認させるパーソナライズ型のリマインダー、リーダーをサポートする関係者、チームメンバー間のグループ会話や一対一の会話といった新しい手法を採用することにより、クライアントが難しい課題に取り組む可能性を高めている。

この2つのプラットフォームのような多くのデジタル製品が、いま私たちの市場に参入してきている。この2社も、他のスタートアップ企業も、コーチングサービスの購入を決定する組織の購買担当者(学習・能力開発、人材管理、リーダーシップ開発の担当者など)を対象に、直接売り込みを行っている。

また、両社はツールを利用してコーチングを実践しているコーチの認定も行っている。このビジネスモデルは、私たちにとってはすでに馴染みのあるものだ。ホーガン・アセスメンツ(Hogan Assessments)社などの企業は、コーチを認定し、自社ツールをうまく活用できるように継続的なサポートを提供している。このようなサービスを使えば、コーチはそれぞれのクライアントやチームに合わせて、人間とテクノロジーの力を最適な形で組み合わせることが可能になる。

ツール導入にあたっての3つの手順

あなたのクライアントが属する組織のリーダーは、すでにこれらのツールのユーザーかもしれない。また、このようなツールを使用するコーチの数も増えている。私たちは、これらの新しいツールを競合製品と見なすことも、思い切って導入することもできる。その場合は、次の3つの手順を覚えておくとよいだろう。

  • 利用できるツールを調査する
  • 慎重に試して吟味する
  • 使用した感想を他のコーチと交換する

私は思い切ってあるチームをセイバー社に紹介したことがある。そのとき私は、そのチームのミーティングにセイバー社のUX(ユーザーエクスペリエンス)責任者を参加させることにした。これにより時間が余分にかかることになったが、実験を成功させ、設計に関する有益なフィードバックを提供しつつ、ツールを自然に使いながらメンバー同士で対話できる環境を確保するには、UX責任者の参加が不可欠であった。

今までとは違うタイプの参加者が同席しているのは、セッションの進行役としても最初は奇妙な感じがした。しかし、製品設計やユーザー体験にコーチング分野の知識を反映したいと思うのであれば、技術者と提携してユーザー調査を実施する必要がある。

コーチングの多様化に向けて

「ロボットによる自動化やAI化の波が押し寄せてくるぞ」という大げさな警告に驚いて、テクノロジーの探求や実験から逃げるべきではない。ロボットが人間のコーチにとって代わろうとしているわけではない。むしろいま起きているのは、新しいデジタルツールを使ったコーチングの多様化だ。

あなたの経験をぜひ聞かせてほしい。

リーダーやチームをクライアントに持ったとき、あなたはクライアントが自分の意思を行動に移すのをどのようにサポートしているだろうか? 実践の成功にさらに大きな影響を与えるものがあるとしたら、それはどのようなものだろうか? このような可能性について考えたとき、課題や課題の一部の達成をサポートするテクノロジーを利用することには、どのような潜在的価値があるだろうか?

詳細はこちらのサイトのWebiner(Using self-determination theory to predict turnover intentions and wellbeing)をご覧ください。

筆者について

キャロル・ブラディック(Carol Braddick)氏はグラハム・ブラディック・パートナーシップ(Graham Braddick Partnership)社の代表であり、世界中のエグゼクティブコーチやコンサルタントとコーチングや人材開発プログラムを開発している。近年、AIによるデジタル・コーチングなど、コーチングにテクノロジーを駆使することを研究課題としている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Can Technology Help Shrink the Intention-Action Gap?(2019年8月5日にIOC BLOG に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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