米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


もし、あなたのクライアントがストレスを感じていたら

【原文】What to do if your client seems stressed
もし、あなたのクライアントがストレスを感じていたら
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コーチがセッションの中でクライアントが抱えているストレスについて扱うことはよくある。クライアントが自らのストレスを評価し、そのストレスを解消できるようにするための科学的根拠に基づいた手順(プロトコル)は、コーチングをする上で非常に重要である。

クライアントがストレスを感じているかどうかを知るには

この記事では、インシアード(INSEAD)およびレディング大学ヘンリービジネススクールのルーク(Rook)氏、ヘルヴィヒ(Hellwig)氏、フローレント・トリーシー(Florent Treacy)氏、ケッツ・ド・ブリース(Kets de Vries)氏による2019年の論文「シニアエグゼクティブが職場で感じているストレス:コーチングが難しい相手をコーチングするには(Workplace stress in senior executives: Coaching the 'uncoachable')」を紹介する。著者らはストレスが生じる5つの領域を紹介したうえで、リーダーのストレスを読み解くための質問の手順を提案し、その試験結果を報告している(米国コーチング研究所(以下 IOC)会員の方は、IOCのソートリーダーであるマンフレッド・ケッツ・ド・ブリース氏のその他の優れた著作や他の多くのリソースにアクセスできる)。

ストレスとは

著者らはストレスの原因を、外的なもの(外部環境からの要求や刺激)と内的なもの(環境からの要求に対する個人の心理的、行動的、身体的な反応)に分けて定義している(注:このオンラインブックでは、リチャード・ラザルス(Richard Lazarus)氏によるストレスの重要な心理学的モデルについて検討している)。ストレスは2つの段階を踏んで認識される。第一段階は環境からの要求に対する反応であり、第二段階はストレッサー(ストレスの要因)に効果的に対処する能力だ。著者らが引用したある研究では、時間の不足や自分自身の能力および外部のネットワークの不足というプレッシャーが、リーダーが抱えるストレスの主な原因であることが示唆されている。

成人発達理論を提唱する心理学者であり、IOCのソートリーダーでもあるハーバード大学のロバート・キーガン(Robert Kegan)教授は、名著『お手上げ状態(In Over Our Heads)』の中で、「ストレスは、その時の要求が自分の能力を超えていると認識したとき、つまりお手上げだと感じたときに生じる」と説明している。

リーダーはストレスを認めることに抵抗がある

文化によっては、リーダーがストレスを感じていると認めることは、弱さや自分の役割を果たせない無力さの表れと受け取られることがある。リーダーは、ストレスは自分には関係のないものだと信じることによって、それが問題であることを過小評価したり否定したりするかもしれない。そして、疲労やストレスを感じている様子を少しでも周囲に見せることで、自分の能力に対する評価が下がったり、キャリアアップに悪影響が生じたりするのではないかと心配している。

ストレスを感じていることを認めるのは難しいかもしれないが、ストレスは個人やチーム、組織の中で見過ごすことのできない問題になりつつある。リーダーが疲労で倒れたり、深刻な健康上の問題を抱えていたり、心臓発作や脳卒中で若くして命を落としたりするという話を耳にすることも珍しくない。

強いストレスを感じていると、それは職場や家庭での反社会的で攻撃的な行動や、睡眠不足、過度の飲酒、病気といったさまざまな形で表れる。リーダーも燃え尽きることがある。それは疲労感、不信感、無力感となって表れ、人とのつながりや生産性の低下につながる。

もうお手上げだと感じたら?

結局のところ、ロバート・キーガンが言うように、ストレスは何かを示すメッセージである。それは何を示しているのだろうか?今この瞬間、あなたは「もうお手上げだ」と感じているとしよう。あなたには2つの選択肢がある。1つは要求を減らしてもらい、自分の限界を受け入れること。もう1つは、自分の中の能力をさらに引き出し、外側からの要求に挑戦することだ。ストレスはまだ成長できることを示すサインである。言い換えれば、ストレスを感じているときこそ、コーチングを行う絶好のチャンスなのである。

コーチのための4つのヒント

  1. ストレスのサインを見逃さない
    クライアントがストレスの強さ、原因、表れを知る手助けをするために、APGARアセスメントツールの質問(ダウンロードはこちら(有料))を確認する。

  2. まずストレスを認識する
    ストレスを認識することは健全な反応であり、自己認識を深め、自分への思いやりを持つことであるとクライアントに理解してもらう。また、それは改善と成長のための出発点であるという認識を共有する。

  3. ストレスを正常化できるように支援する
    人が感じるストレスのレベルは、外的要因や内的要因の変化によって時間の経過とともに変化する。私たちは誰でも「お手上げ状態」に陥ることがある。だがそれは、成長のチャンスがあることを示すサインである。

  4. ストレス解消に重点を置いたコーチングを行う
    コーチングツールを活用し、ストレスの解消に役立つ心と体の習慣や、成長できる分野を明らかにするとよいだろう。

まずはこれらのルールを自分に適用してみよう。当たり前のことだが、コーチもストレスと無縁ではない。セルフコーチングの方法や、大きなストレスを抱えたときの支援の求め方を、自分自身を例に示すことができれば理想的である。

筆者について

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーリーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】What to do if your client seems stressed(2020年2月22日にIOC Resourcesに掲載された記事の抜粋翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。 


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