ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
マラソンランナーに学ぶ、今直面する恐怖をコントロールする5つの方法
2020年05月05日
私たちは今、我々を取り囲む目に見えない嵐の中で暮らし、指揮をとっている。私たちの中には、社会的な距離をとったり、隔離されたりして、かなり守られている人もいる一方、そうではない人もいる。そして、多くの人が非常事態のただ中にいる。私たちは全員、自分自身の中で最高のものを引きだす必要がある。今すぐにでも。
ボストン・グローブ紙に掲載された最近の調査では、私たちの約20%が、これまでの人生で経験したことのないほどの恐怖を感じていることが明らかになっている。また、極度の恐怖を感じている人がさらに20%いると報告している。ウイルスの伝染率は約50%、恐怖心はほぼ100%伝染する。一方で、それは私たちが管理できるものでもある。しかしながら、恐怖心をただなくせばよいと思ってはいけない。恐怖心をまず5%減らすことから始めるのだ。そして、さらに5%減らすというように。
恐怖心を克服しようとするとき、思いがけないところからインスピレーションが得られることがある。それは、マラソンランナーである。世界中のマラソンランナーは、私たちに持久力を教えてくれた。
ボストン・ストロングを超えて〜マラソン・ストロングになるには〜
ボストンはボストンマラソンで有名だが、2013年4月15日に起きた恐ろしい爆弾テロの後、「ボストン・ストロング」というスローガンが生まれたことでも知られている。今、私たちはどうすれば持久力が試されるマラソンレースの中で、強くなれる(「マラソン・ストロング」)のだろうか?これは、私たちが一緒に歩んでいく旅である。
マラソンを完走する人は、どういう人なのだろうか?それは、最も体力のある人ではない。研究によると 完走と勝利には 2つの重要な要素がある。 1つ目の要素である「意志の力」はみなさんが知っているだろう。 2つ目はあまり知られておらず、「ウェイパワー(Way Power)」 と呼ばれている。ウェイパワーとは、目標とそれに到達するためのコミットメントを持ち、またその目標への複数の道を考えることができる能力である。プランAが失敗しても、プランB、C、DそしてEを持っていれば、はるかに勝てる可能性が高い。
これは、恐怖をコントロールすることとどのような関係があるだろうか?私たちが恐れを抱いているとき、私たちは最初の5%の恐れを克服するために、複数の方法を必要とする。人それぞれに、より効果的な方法がある。あなたに最も魅力的な方法を見つけて欲しい。その後、あなたにとって2番目に有効な方法を、さらに3番目に有効な方法を見つけていってもらいたい。
私たちは自分が思っているよりも強いものである。ここでは、あなたのために恐怖をコントロールし、乗り越えていくために役立つ5つの方法を紹介する。自分に合った順番で試してみて欲しい。
恐怖をコントロールする5つの方法
私たちは、今、とても大きな挑戦や課題に直面している。マラソン選手はこんな時にはどんなことをやるのだろうか。そして、私たちにもできることは何だろうか?
1. 呼吸と生理的な反応をコントロールする
- ゆっくりと呼吸して、空気を内側により深く引き入れることで、血液中の酸素濃度を高める。
- このことによって、コルチゾールや不安から引き起こされる生理的反応に対抗することができるようになる。
- もしあなたが全速力で走ったなら、素早い休息による回復のサイクルが有効である。10秒の休憩が効果的だ。3回のゆっくりとした呼吸を連続して行うと、落ち着くことができる。
時には、恐怖に耐えられないと感じることがある。それがあまりにも大きいと感じたとき、どのように私たちは自分自身を助けることができるだろうか?
2. 恐怖をコントロールする
- 感情は波に乗って私たちに立ち向かってくる。あなたがそれを止めることができないときは、それを乗り切るために、水中でもがかないようにして欲しい。水は私たちを飲み込んでしまうことができるが、波を通過させるのだ。
- 恐怖は不快だが、あなたを殺すことはできない。他の人に伝染しないようにしよう。
- 恐怖と向き合い、それに名前を付けるといい。恐怖がすぐに後退しない場合は、共存してみて欲しい。車を運転するときのことを想像してみて欲しい。恐怖は助手席に陣取り、そこに存在しているが、あなたの決断や行動に影響を与えたりはしない。
私たちが、恐怖よりも強くなるためにはどうすればいいのだろうか?
3. インナーゲームに勝つ
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あなたの内面の一部は苦悩し、強い恐怖を感じている。しかし、心の中のすべてがそのような状態だろうか? 自分自身の中に、恐れている自分に寄り添えるより深い部分を見つけて欲しい。
- あなたの内側で起こっている対話に気づいて欲しい。友人やあなたの子どもに対して話すのと同じように、自分自身に語りかけて欲しい。自分自身にひどい態度や意地悪な態度をとっているなら、止めて欲しい。それはフェアではない。
- 「マントラ」やあなたが何度も繰り返すことができるフレーズや短い文も役に立つ。たとえば、「私は大丈夫」「私たちは強い」または「きっと乗り越えられる」といったシンプルなフレーズだ。自分の中の強い部分を見つけよう。
私たちは長い道のりの途中にいる。どうやって前進し続けられるだろうか?
4. 完走して勝利をつかむために、自分のペースでレースに臨む
- 全速力で走らないこと。蓄えておくこと。80%のスピードで走るべき時も往々にしてある。
- 必要なエネルギーだけを消費することを学びなさい。 あなたは走っている間も リラックスすることによって回復することができる。
- 前に走っている人のすぐ後ろにつこう。疲れたら他の人にリードしてもらい、ストレスを軽減することも大事だ。
最後は今よりも強くなれる。
5. より深い価値観や目的を見つける
- 私たちは同じレースに参加している中で、より深いつながりを持つことができる。
- 極限まで努力すると、私たちの中の最高な状態も最悪な状態も引き出される。最高の状態になったときには、そのことに感謝しよう。失敗したときにはそれを受け入れ、再度自分自身に挑んでみて欲しい。再び失敗してもそれを繰り返すのだ。
- 何が本当に大切なのか、改めて考えてみよう。そして、それを大切にしよう。もしそれが家族なら、パソコンから離れよう。
私たちは、今まで直面したことのないことに向き合っている。今こそ勇気と強さの種を育てる時である。困難に立ち向かい、次のチャンスを見つけよう。そして復活のときが来たら、私たちはより強くなっているし、愛する人たちや私たちのコミュニティとより深くつながっているだろう。
最近、今の私たちにまさに語りかけてくるようなポスターを見た。それは、一人のランナーが全速力でこちらに向かってくる写真だった。2本のチタン製の義足で。完璧なメッセージである。「できないことを考えるのではなく、 できることを考えよう」
強くあろう。元気でいよう。 気をつけて、過ごそう。私たちは 共に勝利する。私たちはタフなのだ。
筆者について
キャロル・コフマン(Carol Kauffman)氏は、米国コーチング研究所の創設者であり、ハーバード大学医学大学院の助教授を務める。リーダーシップに関するコーチングを行う前は、心理学者として長く活躍していた。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】IOC Resilience Under Fire: 5 Pathways to be Marathon Strong(2020年4月2日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。
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