米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


パンデミック禍で求められるレジリエンスとは

【原文】 Resilience- It takes a village
パンデミック禍で求められるレジリエンスとは
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大きな逆境にさらされている状況下では、十分なリソースを持っている人の方が、タフな人よりもレジリエンス(困難からの回復力)が高い。様々な体系だった要素(システム)の相互作用は、個人の資質と同じくらいレジリエンスの構築に影響がある。

レジリエンスとは

今の時代に、誰もが同意できる事実とは何だろうか?パンデミック禍では、世界中の多くの人々が未曾有の逆境にさらされている。そんな状況だからこそ紹介したいのが、マイケル・ウンガー(Michael Unger)氏(カナダ)とリンダ・セロン(Linda Theron)氏(南アフリカ)による2019年のランセット精神医学論文『レジリエンスとメンタルヘルス:どのようにシステミックなプロセスがポジティブな結果をもたらすのか(Resilience and mental health: how multisystemic processes contribute to positive outcomes)』である。

著者らは、レジリエンスの科学を再検討した。彼らによると、レジリエンスとは、私たちが心の健康や幸福感(wellbeing)を育むことができるように、生物学的、心理学的、社会的、生態学的なシステムが相互に作用するプロセスであると説明している。遺伝学、心理学、政治学、建築学、人間生態学などの多様な分野におけるレジリエンスの研究から、レジリエンスは、人がストレスを受けた際にその環境下でどのようなリソースが得られるのかによってレジリエンスの度合いは左右されると同様に、個人の思考、感情、行動がレジリエンスに及ぼす影響もあることが示されている。

レジリエンス研究の初期の歩み

レジリエンスに関する研究は、第二次世界大戦下で心身の健康が脅かされる状況を直接経験した精神衛生学者が、困難なな生活環境に適応する人間の能力に関心を持ったことから始まった。初期の文献では、人間のレジリエンスについて比較的狭義の説明がなされており、「傷つきにくいタフな性質」と表現されることもあった。

レジリエンスに関する最初の研究では、愛情深い家族といった社会生態学的なリソースが個人のレジリエンスに深く関わっていることが認識されていた。研究者らは遺伝的・生物学的な傷つきにくい性質といった内的なレジリエンスの要因に注目しがちだった。現在では、精神衛生学の研究者たちは、ポジティブな結果を得るためには、体系的で複合的な影響が個人的な要因と同じくらい重要であることを明確に示している。

レジリエンスを定義する

レジリエンスの専門家は、以下のように逆境を定義している。

  • 身体的・心理的発達に影響する重大な攻撃があること
  • 個人をとりまく複合的な環境、生存能力、または発達を脅かすような不安定な状態であること
  • ストレスまたはトラウマを引き起こす重大な原因となるもの

以下は、システム内の個人のレジリエンスを説明している。

  • 動的システム(微生物、人、組織、経済、森林、気候など)への適応能力
  • ストレスを管理し、ポジティブな適応を実現するための動的なプロセス
  • 幸福で健康な状態を維持するための心理的、社会的、文化的、物理的なリソースを見つけたり利用したりする方法を模索する能力

レジリエンス研究における課題

著者らは、レジリエンスを構築するための施策(レジリエンス・トレーニング、マインドフルネスに基づくストレス軽減、認知行動療法など)の有効性に関するの研究では、レジリエンスは大幅には改善していないことを指摘している。これらの研究では、社会的状況の評価を省略したり、結果変数としてレジリエンスを誤って測定したりするなど、研究設計に課題がある。ウンガー氏とセロン氏によれば、重要な結果変数はレジリエンスそのものではなく、精神的な幸福、つまりレジリエンスが生み出されるプロセスなのである。

専門家がレジリエンスを獲得するために提供する支援は、逆境に負けないたくましい個人を育成すること(個人的な回復と適応)から、個人が適切なリソースと外部の支援を利用できるよう介入することへシフトしていく必要がある。

有力な研究

有力な研究では、性別や文化的背景、住居、教育、雇用、地域の安全、地域活動への参加、家族の経済的安全性など、様々な要素の組み合わせによって、人々が逆境にどう対処するかを予測することができるとしている。著者らは、外部システムを社会的、経済的、政治的、構築されたもの、自然環境としてまとめている。

レジリエンスは個人の資質によるものだけではなく、メンタルヘルスと心身の健康を維持するために必要なリソースへのアクセスがあることとそのリソースを利用することで発達する。リソースには、物理的・社会的環境の変化も含まれる。個人が逆境によりよく対応できるようにするための要因とプロセスは、文化と個人を取り巻く状況の影響を受ける。

コーチングがレジリエンスを高めるといく研究がある。米国コーチング研究所(IOC)が資金提供した、モリーン氏およびデハーン氏(Molyn and DeHaan)によるコーチングの研究は、心の健康や目的の達成においてコーチングがプラスの影響を与えたことを示している。また、レジリエンスが高まったことにより、ストレスが改善したという結果も示された。言い換えれば、この研究では、コーチングがレジリエンスを向上させ、その結果、幸福度、目標達成度、およびストレスが改善されたことを示している。

今後の研究の方向性

著者らは以下のようなレジリエンス研究を提案している。

  • 個人の特性ではなく、複合的なシステムのプロセスとしてのレジリエンスを研究する。
  • 複合的なシステム(内部および外部のリソース)を研究し、相互作用するプロセスがポジティブな発達にどのように影響するかを調査する。
  • 個人の心理的変数の改善を目的とした介入ではなく、レジリエンスを高める外部のリソースや文化的に関連した広範なリソースへのアクセスに焦点を当てる。

コーチのためのヒント

  • 目標達成、幸福度、およびストレスへの潜在的な影響を考慮して、クライアントがレジリエンスを身につけることを支援しよう。
  • あなた自身とクライアントが、レジリエンスの望ましい結果を特定し、定義するのを支援しよう。望ましい結果とは例えば、幸福、達成すること、または成長することを取り戻したり、維持したり、改善、または変容させるといったことである。自分自身とクライアントが、心の健康を増進させるために、レジリエンスのダイナミックなプロセスを支援することができる外部のリソースを特定し、利用することを支援しよう。
  • リーダーがシステムによるレジリエンス向上の成果を明確にする支援をしよう。また、リーダーが外部リソースへのアプローチを求めることを支援しよう。外部リソースとは、心身の健康と心理的成長を生み出す過程でレジリエンスを向上するプロセスを経験する人を支援するものである。

「成功するためには、自己効力感が必要である。避けられない障害や不公平な世の中を受け止め進んでいくために、レジリエンスを携えて共に挑戦していく必要がある。」
- アルバート・バンデューラ

IOCチームより

参考文献

Ungar, M., & Theron, L. (2019). Resilience and mental health: How multisystemic processes contribute to positive outcomes. The Lancet Psychiatry.
Molyn, J., De Haan, E., Gray, D. (2019) The Contribution of Common Factors to Coaching Effectiveness.

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

ケリー・ラッセル・デュヴァネイ(Kelley Russell-DuVarney)氏:
https://www.linkedin.com/in/kelleyrussellduvarney

その他の参考資料

IOC MasterClass on Resilience
April 2020 Coaching Report

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Resilience-It takes a Village(2020年9月9日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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