米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


健康的な生活と幸福度の関係

【原文】 Healthy Living & Well-Being: Chicken and Egg?
健康的な生活と幸福度の関係
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

ポジティブな感情と人生に対する満足感は、身体的な健康状態を最適に保つために欠かせない。なぜなら、その2つの要素があることで私たちは、運動、健康的な食事、禁煙といった健康的な行動によりコミットするからだ。

幸福度と健康行動の相互作用

いわゆる「ニワトリが先か卵が先か」の議論のように、個人の幸福度、つまりウェルビーイング、そして健康行動、および身体的な健康状態は相互に関連している。

定期的な運動などの健康行動がウェルビーイング(幸福度)を向上させることの利点は、広く知られている。また、ウェルビーイングが身体的な健康を向上させることを示唆するエビデンスもある。幸福な人ほど長生きする傾向があり、そうでない人と比べて心血管の健康状態が良く、強い免疫システムを持っている。健康でいるためには幸福度だけでは十分ではないかもしれないが、自分が健康であると思えていれば身体的にも健康である可能性が高くなる。

研究者の間では、幸福感が健康に与える影響に関する証拠が明らかになってきた。それは、幸福感のある人は、より積極的に身体を動かしたり、リスクを減らすための予防行動をとったり、リスクの高い行動を避けたりするなど、健康を意識した行動をとることが健康につながっているのではないか、というものである。また、いくつかの長期的な研究では、潜在的な幸福感が高い人ほど、生涯の運動量が多いことが示されている。

要するに、ウェルビーイングと健康行動は相互に影響し合うことになる。たとえば、運動をすると幸せな気分になるし、幸福感の高い人は運動をする傾向にある。さらに進んだ研究では、幸福感、つまり主観的幸福感(subjective well-being: SWB)を研究する研究者たちは、幸福感が健康に影響する(直接的な影響と健康的なライフスタイルを通じた間接的な影響)度合いが、健康が幸福感に影響して度合いよりも大きいことを発見したのである。

幸福感と健康行動に関する注目の研究

クシュレブ氏、ドゥラモンド氏、ディエネ氏(Kushlev, Drummond, & Diener)は、『250万人のアメリカ人における主観的なウェルビーイングと健康行動』と題した2020年の論文の中で、約250万人のアメリカ人回答者を対象としたギャラップの調査結果として、主観的なウェルビーイングと健康行動の3つの構成要素(例:運動すること、喫煙しないこと)の関連性について述べている。

主観的幸福感(SWB)は、認知的要素、生活満足度、また、ポジティブな感情とネガティブな感情という2つの感情的要素から構成される。主観的幸福感が高い人は、人生への満足度が高く、ポジティブな感情のレベルが高く、ネガティブな感情のレベルが低い。

幸福感と健康行動はポジティブな関連がある

彼らの研究では、人生の満足度とポジティブな感情の両方が、健康行動のユニークな予測因子であることが明らかになった。それは、人口統計学、慢性疾患、日常的なストレスや痛み、その他の関連因子を含む幅広い変数をコントロールした後でもそれを示すことになった。その結果、ウェルビーイングと健康行動とのポジティブな関係は、米国国民の代表例として、確固たるもので、一般化が可能であることが示された。

主観的な幸福感はどのようにして測定できるのか

人生の満足度で測る

回答者は、キャントリル氏によるセルフ・アンカーリング・ラダー(自分自身を位置づけるはしご)を用いて、自分の人生を評価するように求められた。このツールは国内外の幸福度調査で広く用いられており、十分に検証されている人生満足度を測る際の尺度である。この人生満足度の尺度では、参加者は、下が0から上が10までの番号が付けられたはしごを想像し、はしごの最上段が自分にとって最高の人生を表し、最下段が自分にとって最悪の人生を表している。そして、参加者に次のように尋ねる。現在、自分ははしごのどの段に立っていると個人的に感じているか?私たちは、主観的幸福感の認知的、評価的な要素を運用するために、この生活満足度の尺度を用いた。

感情で測る

主観的幸福感の感情的な側面に関しては、参加者は前の日にどんなことを感じたか、何をしたかを報告するように求められた。具体的には、昨日一日の中で笑顔でいたり笑ったりする時間や楽しさやポジティブな感情を感じる時間が長かったかどうかといったことを尋ねられた。同じ要領で、参加者はまた昨日の一日の中で、心配、怒り、悲しみといったネガティブな感情を感じる時間が長かったかどうかについて話した

健康行動で測る

ギャラップ社は、健康行動指数(Health Behaviors Index: HBI)を形作る4つの異なる行動を調査した。まず、参加者には、昨日は1日を通して健康的な食事をとっていたかどうかを尋ねる。同じ日において、ポジティブ、またはネガティブな感情を報告していたかどうかを参考にする。続いて、さらに2つの質問が参加者に投げかけられ、過去1週間の行動が健康的な食事と身体活動に関する現在のガイドライン(果物/野菜の摂取量、30分以上の運動)を満たしているかどうかの評価が行われた。4つ目の項目では、参加者にタバコを吸うかどうかを尋ねた。

制御変数で測る

これらには、一般的な人口統計学的変数だけでなく、参加者の現在の生活状況に関するさまざまな変数も含まれていた。たとえば、昨日一を通じてストレスや身体的痛みを感じる時間が多かったかどうかを測定した。ストレスや痛みは一般的には感情の構成要素として概念化されたり測定されることはないが、ポジティブな感情とネガティブな感情両方の予測因子であると考えられている。また、個人的な資源(たとえば、食べ物を買うのに十分なお金や、やりたいことをするための時間)や、環境的なゆとり(たとえば、運動するための安全な場所や、手頃な価格の果物や野菜を買うことができること)についても測定された。

調査結果

健康的なライフスタイルのガイドラインに従うことについては、「年齢」が最も強く関係しており(高齢者は健康的な行動をとることが多い)、次いで「ポジティブな感情」が関連している。人生における満足度は、自分の生活に比較的満足している人だけが健康的なライフスタイルとの関連性を示した。一方、自分の生活に不満を持っている人は関連性がない。

これらの知見は、不健康による有害な影響とは無関係に、幸福感が健康を促進することを示す研究と一致している。著者らは次のように述べている。「人は、笑顔でいたり、笑ったり、楽しむほど、運動し、よく食べ、禁煙する可能性が高くなる。」

驚くべきことに、様々な変数の中で、これらの関係が人口統計学的特徴、病歴、個人的な資源(食費など)などの要因に依存しているという証拠は見出されなかった。幸福であることが健康行動への参加を増やすことにつながるという研究のエビデンスが増えていることと合わせて、これらの知見は、幸福感の高い人は健康的なライフスタイルを選択する際の障害に対処できる、ポジティブなリソースを持っていることを示唆している。

コーチングへの適応(健康とリーダーシップ)

  • クライアントが仕事のパフォーマンスや満足度だけでなく、健康や健康行動も幸福感と関連していることを探索できるように関わろう。
  • 人生の満足度と感情の尺度をコーチングの取り組みに統合し、そのことについてクライアント自身でベンチマークを設定して進捗を示すことができるようにサポートしよう。
  • 主観的な幸福感を向上させる習慣を意図的に継続できるようになることをクライアントと共に模索しよう。そのことにより、健康が増進し健康行動によりコミットできるようになるという2つの効果が同時に得られるのだ。

「人生の目的は幸せになることです。私たちは、希望の中で生きています。それは、何か良いことを楽しみにしていることを意味します。そして、私たちの身体的、精神的な幸福は、私たちの心の平和からくることについては、科学的に証明されつつあります。」
ー ダライ・ラマ

IOCチームより

参考文献

Kushlev, K., Drummond, D. M., & Diener, E. (2020). Subjective Well-Being and Health Behaviors in 2.5 Million Americans. Applied Psychology: Health and Well-Being, 1, 166-187.

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Healthy Living & Well-Being: Chicken and Egg?(2020年9月20日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

Global Coaching Watch/米国コーチング研究所レポート

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事