米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


私たちはバイアスとどう向き合うべきか

【原文】 What to do about our biases
私たちはバイアスとどう向き合うべきか
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今回のレポートは、英国の科学者であるプラギア・アガルワル(Pragya Agarwal)氏が、2020年6月の著書『揺らぐ(Sway)』の中で探求している内容に発展させるかたちで、米国の科学者ジェニファー・エバーハート(Jennifer Eberhardt)氏の研究を展開し、バイアスというトピックに関する私たちの最新研究を掘り下げたものである。

バイアスの特性をより理解するためにも、科学者2名による科学的知見の統合は、奥深いものがある。彼らの科学的な解釈によって、私たちがバイアスを持っていることをより強く自覚することや、バイアスを脇に置いて、あらゆる人々をユニークで貴重な存在として扱うためのインスピレーションを得ることが可能となる。では、まずバイアスの5つの普遍的な特徴の認識と理解から始めよう。

1. 相互作用がなければ、脳は自分以外の人種の顔を区別できない。

エバーハート氏の経験と研究によると、ひとつ(またはそれ以上)の人種の顔を見る機会が多いと、その人種の顔を区別する能力が生まれることがわかった。ある特定の人種、例えばアジア人、黒人、白人などとの接触がないと、その人種の人の顔を一人ひとり見分けたり、個人の違いを認識する能力が欠如する。この現象は、いわゆる「みんな同じに見える」という言葉を生物学的に証明している。馴染みのない人種の顔を前にして不快感や恐怖さえ感じたりするのは当然のことなのである。

さらに、白人は黒人の顔の感情を正しく読み取ることができないことが多く、恐怖と怒りを区別することが難しい。その結果、生死に関わる結果を招くことになる。

2. 脳は進化し、分類できるようになった

意識的にコントロールされることがなければ、脳は複雑な世界を単純化して意味を持たせるために、似ているものを一緒にして、グループ化する。乳児は生後6ヶ月で、性別と人種を分類できるようになる。人の社会的なカテゴリーは、ごく少ない特徴に基づいてステレオタイプ化され、一般化され、均質化されていく。

これらの特性は、ある程度の経験によってリアリティを持つこともあるが、全体像を表してはいない。一人ひとりの違いを反映しておらず、単純化されたラベルとして大雑把に適用される。それゆえに、その特徴は現実よりも誇張されたものになる。ステレオタイプは瞬間的に、自動的に、無意識のうちに、そして疑うことなく反応として連想される。そして、ステレオタイプは、一度植えつけられると固まってしまい、変化しにくくなる。

ステレオタイプは、変化させるよりも維持することのほうが容易である。特に心の状態が変化に抵抗している場合にはその傾向が強くなる。また、家族、社会環境、メディアによる表現によっても、ステレオタイプは強化される。

3. アイデンティティのカテゴリー

本来人の心は、自己肯定感と自己保護(自分には価値があり、安全が確保されている)を維持するためのアイデンティティを創造し、それを持ち続けることに注力している。個々のアイデンティティ、つまり自分をどうとらえているかという意識は、自分の特徴だけでなく、自分の特徴は他者の特徴と比較するとどう違うのかという順位づけにも基づいている。

また、自己の意識を形成するものとしては、社会的アイデンティティや社会的なグループへの帰属意識がある。このことは、アイデンティティ・バイアスにつながる。つまり、自己肯定感を維持し高めるために、私たちはポジティブな特徴を取り入れ、自分たちと異なる人々のグループ(アウトグループ)よりも似ている人々のグループ(イングループ)を好むという傾向がある。私たちは、イングループの人々に対しては、アウトグループの人々に対するのとは異なる感じ方や行動をとる。これは「他人化(othering)」と呼ばれる。

  • 私たち
    私たちは、自分のイングループを好む(親和性バイアス)。私たちは、自分のグループ内の人々には安全と快適さを感じ、イングループの人々に共感を持っている。私たちは自分のグループ内の人の個々の相違を探求することには興味がある。
  • 彼ら
    私たちは、自分たちとは異なり、よく知らないアウトグループの人々に対しては、不安と不快を感じる。その不快感によって、アウトグループの人々に対しては共感を感じる機能をブロックしてしまう。アウトグループの人々はイングループの人々よりも均質に見えてしまう。つまり、私たちは、アウトグループの人々の個々の相違には興味を持たない。イングループの人々に対しては良い面に注目するのに対して、アウトグループの人々に対しては悪い面に注意を注ぐ傾向がある。

また、「確証バイアス」という別のバイアスの存在見逃せない。つまり、私たちのアイデンティティや社会的なグループを肯定することにだけに興味関心の幅を狭めてしまい、新しい情報や客観性が損なわれてしまう。確証バイアスは中毒性のある麻薬のようなものである。私たちのアイデンティティは、好奇心や探究心よりも安心感を好むのである。

さらに、私たちのアイデンティティは、他のグループより自分たちのグループが優れていることの証拠を求める。この優越感は偏見を生み、やがて、微妙かつあからさまなマクロ攻撃(macro-aggressions:いじめやそれ以上のもの)やミクロ攻撃(micro-aggressions:他のグループに向けた微妙で敵意に満ちた軽蔑や侮辱)を引き起こす。

偏見が強くなるのは、私たちが忙しかったり、取り乱していたり、ストレスを感じていたり、ソーシャルメディアの反響から影響を受けすぎていたりするときである。また、自己肯定感が損なわれていたり、自分や自分を取り巻く社会のアイデンティティが疑問視されているときである。このような状況では、ステレオタイプやアイデンティティ・バイアスが急激に活発化し、防御心やより偏った反応を刺激したりする。これらは反射的な反応であり、思慮深い対応ではない。

4. アイデンティティ・バイアスの最も極端なタイプ

一般的なステレオタイプとアイデンティティ・バイアスを表す非常に長いリストがある。そこにあげられるのはたとえば、年齢、社会的・経済的または仕事上の地位、魅力、身長、体重、アクセント、民族性、知性、障害、精神衛生、宗教、政治的所属などである。アイデンティティ・バイアスの最も極端な2つのタイプは、性別と人種である。性別について言えば、女性は身体の個々のパーツからなる物のように認識されるのに対し、男性は部分の総和よりも大きい、人間全体として認識されるという研究結果がある。

最も極端なアイデンティティ・バイアスは、人種に関するものである。白人は黒人に対して偏見を持っており、それは多くの国における白人の社会的支配と特権によって強化されている。これは、人種に関する潜在的関連付けテストに示されている、非人間的バイアスである(例:黒人は類人猿と関連している)。このテストは、人が白人や黒人に対して動物(人間ではないもの)を連想するか人間を連想するかという、潜在的な関連付けを測定するものである。

5. ステレオタイプやアイデンティティ・バイアスがもたらす恐るべき弊害

長い人類の歴史の中で、アウトグループによってこうむった負の結果については、これまで数多くの作家が文書化している。彼らはトラウマ的な出来事を直接目撃したり経験していたり、または調査・研究によってそのような出来事にリアリティをもらたしている。悲劇やトラウマの歴史は、癒し、回復と成長、または愛、尊敬、サポートが必要なプロセスには程遠い。バイアス、偏見、マクロおよびミクロの攻撃による弊害は衰えることなく続いている。

アウトグループに属するメンバーは、以下のようなとてつもない不公平(たとえば、機会、仕事、地理的分離、ヘルスケアを含むリソースへのアクセス)に直面し、多大な身体的および精神的な重荷を背負っているのである。

  • ないがしろにされている - 他人に自分が見えていない感じ、人間として敬意をもって扱われていない、すぐに判断され、分類されている。
  • 帰属意識やインクルージョンが欠如しているため、自己肯定感や人とのつながりが損なわれている。
  • 差別への恐れからくるストレス、不安、自意識過剰。
  • ストレスによって引き起こされる認知処理やパフォーマンスの低下、それに伴う能力や自信の低下。
  • 慢性的なストレスによって引き起こされる炎症や身体的・精神的慢性疾患、それに伴う身体的苦痛や寿命の短縮。
  • バイアスを内在化させ、自己実現するようになる。

まとめ

バイアスは脳によって反射的に形成され、現実を装っていることを認識することが重要である。バイアスは、歪みとなって私たちが現実へアクセスすることをブロックしている。私たちのバイアスが働いているとき、私たちは自動的に操られ、今この瞬間と他者のユニークさに気づいていないのである。その中でも希望は何だろうか?バイアスは生まれながらにして持っているものではなく、社会経験や社会構造によって発達し維持される社会的な構成要素であることである。

そして、バイアスは、新しい社会的経験を通して、時間をかけて壊していくことができる。社会的経験とは、ポジティブなエピソードやロールモデル、また、アウトグループのメンバーとのポジティブな経験や関係性などだ。さらには、グループ間で深い協力関係を構築し、修復し、バイアスの少ない新しい未来を創造し、より人間性、公平性、実現への可能性を高めることに繋げていくことはできる。

私たちはバイアスについて何をすべきだろうか?コーチは、以下のように、まず自分自身のバイアスに対処することを求められている。

  1. アウトグループにいる他者を分類したり、一般化したり、好んだり、所属したり、判断したり、批判したり、恐れたりする脳の反射的で偏った活動に気づき、一旦止まってみる。
  2. 私たちのアイデンティティに現れる自己バイアスを振り返る。自己バイアスは、私たちが好むもの、望むもの、識別するものに現れ、私たちの可能性を制限している。
  3. 先入観を捨てて、クライアントを含む他者の前にありのままの自分の姿を現す。
  4. コーチとしてのアプローチを以下のように深める。
    • オープンで、好奇心旺盛で、一人ひとりを、今この瞬間にユニークな個人として見る。
    • 自分とは違う人への認知的・感情的な共感を養う。
  5. バイアスを指摘されても、歓迎し、受け入れ、防衛的ではない態度をとる。
  6. 自分のステレオタイプや暗黙のバイアスによって引き起こされた害に対し、それが意図しないものであっても責任を持つ。

コーチのためのヒント

コーチはクライアントを以下のようにサポートしていくことができる。

  1. コーチングのコミュニケーションの中で、バイアスを積極的に減らすロールモデルとなる。
  2. クライアントに、自己と他者を反射的に一般化したりとカテゴライズする意識の存在と影響を探る機会を提供する。
  3. 今回紹介した2冊の本を含む、バイアスに関する科学的根拠に基づいたリソースを共有する。

先入観は英知へのドアに鍵をかける
ー メアリー・ブラウン

IOCチームより

参考文献

Eberhardt, J. L. (2020). Biased: Uncovering the hidden prejudice that shapes what we see, think, and do. Penguin Books.
Agarwal, P (2020). Sway: Unraveling Unconscious Bias. Bloomsbury Sigma.

PowerPoint Outlines of Books
Biased
Sway

筆者について

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】What to do About our Biases(2020年10月27日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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