ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
コーチングにおける最高の瞬間とは
2020年12月01日
パンデミックの時代には、誰もがストレスを感じる瞬間や気持ちが沈むことが多々あるが、コーチはコーチングにおいて、最高の瞬間を体験することがある。コーチングにおける最高の瞬間とはどのような時だろうか。チェコの研究者であるホンソヴァ(Honsová)氏とジャロソヴァ(Jarošová)氏は、2018年にコーチングにおける至高体験に関する素晴らしい論文を発表した。ここでは、研究の概要と、コーチのためのヒントをご紹介する。
至高体験(ピーク・エクスペリエンス)とは何か
著者らは、至高体験(ピーク・エクスペリエンス)の考え方は、アブラハム・マズローによって紹介されたものであることに言及している。マズローは自己実現できた人だけに至高体験があるという仮説を立てたが、その後研究を重ねて、ほとんどの人に至高体験があることを結論づけた。
至高体験に関して著者らはさらに以下のように記している。
「マズローは、人の生涯における至高体験のことを、『 神秘的な体験、大いなる畏敬の念が生まれた瞬間、最も強烈な幸福、あるいは歓喜、恍惚感や至福の瞬間 』または 『すべての疑問、すべての恐怖、すべての抑制、すべての緊張、すべての弱さが取り払われた、純粋で肯定的な幸福』、または、もっとシンプルに言えば、最高の幸福と充実感の瞬間と描写している。」
至高体験と似ている、肯定的で主観的な体験として以下のような現象があげられる。
- 至高体験 - 強い肯定的な感情や気づきを生み出す非日常的な体験。
自然、音楽、または新しい言語を学ぶことによって誘発されることがある。 - ピーク・パフォーマンス - 期待、非効率、生産性、または創造性を超越した人間の潜在能力を有効活用すること。
- フロー - 楽しい活動に没頭すること。
- ピーク学習体験 - 鮮烈で記憶に残る学習体験。
- プラトー(高原・平地)体験 - 穏やかで落ち着いた状態。
至高体験には様々な引き金があって予期せずに起こることがあり、自分の意思では起こらないことが多い。それは、家族、子ども、友人、その他の人間関係や仕事など、いくつかの領域で起こる。それらは短期間であったり、とらえどころのないものであっても、私たちの記憶にしっかりととどまる傾向がある。それは、私たちの未来に影響を与え、私たちが自分自身と世界をどのように見るかを変化させることができる。また、それらは、自己効力感、人間関係、楽観的なとらえ方といったものがプラスの方向に変化するような、永続的な効果をもたらすこともある。
コーチングにおける4つの至高体験とは
研究者は、大規模な組織変更を予定しているチェコのメガバンクの上級管理職である18人のコーチングのクライアントに、コーチングのために調整したライフ・ストーリー・インタビュー方法で聞き取り調査を実施した。
クライアントへの質問は次のようなものだった。「あなたが受けたコーチングの体験の中で、至高体験とも言える特別にポジティブな体験として覚えている場面、エピソード、または瞬間を教えてください。」
研究者たちは、テーマ分析を行い、データをまとめ、ラベル化されたテーマに分解して組み立て直し、次のようにまとめた。
- 洞察の瞬間
あるクライアントは、洞察が起こった瞬間が至高体験であったと回答した。
「啓示を受けたような瞬間や、自分で見つけたり変えることができなかった根本的な原因を垣間見ることができた瞬間。」 - 安堵や解放の瞬間
あるクライアントは、安堵した瞬間、緊張からの解放、および落ち着きを取り戻した瞬間のことを回答した。
「私はまさにこのためにここにいるのであり、何か他のものを探しているわけではないことを確信した。」 - マインドフルネスの瞬間
あるクライアントは、コーチがマインドフルネスや黙想のスキルを使った結果として、マインドフルネスや気づきを感じた瞬間を回答した。
「私達が黙想をしていると、突然、私はこのことをもっと簡単に克服できるかのように感じた。私はこのようなことが起こり得ることに驚いた。」 - 外的方法から得られる新しい視点
あるクライアントは自分を取り囲む外的状況を視覚化するために、絵や図形を用いたり、コインや積木などを使用する方法について回答した。
「興奮と喜びの感覚。コーチが視覚化することによって、状況を理解した瞬間だった。」
結論
著者はこの研究について以下のように締めくくっている。
「私達の研究で分かったことは、コーチングによる成果は、リーダーシップ・スタイルの変化、ストレスの軽減または自己効力感の高まりとった、コーチング後に得られるものだけではなく、コーチング・プロセスの中での体験にあるのかもしれないということである。それぞれの参加者はコーチングの体験をユニークでポジティブな体験に関連付けており、その体験の多くは学習と成長に結びつけていた。」
コーチのための3つのヒント
- あなたのクライアントに、最高のコーチング体験を共有してもらおう。
- あなたとクライアントのために、最高のコーチング体験を記録しよう。
- 洞察、解放、マインドフルネス、新しい視点を生み出すために、新しいコーチングスキルを試してみよう。
「人生の至高体験に起こる感情には、驚き、畏敬の念、人間らしさ、またそして何か偉大なものの前に身を委ねるというという特別な味わいがある。」
-アブラハム・マズロー
IOCチームより
参考文献
Honsová, P., & Jarošová, E.(2019). Peak coaching experiences. Coaching: An International Journal of Theory, Research and Practice, 12(1), 3-14.
筆者について
マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Peak Coaching Moments(2020年11月12日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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