ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
破壊的なリーダーシップがもたらすもの
2020年12月22日
異なるタイプの破壊的なリーダーシップがもたらすものとは。虐待的なリーダーは嘲笑、中傷、いじめを常とし、部下やフォロワーに大きな不安と負の影響をおよぼす。一方、搾取的なリーダーは利己主義で、手柄を独り占めにし、人を操作する特徴があり、フォロワーにネガティブな影響をおよぼすことに加えて、近い将来離職しようというフォロワーの気持ちを大幅に助長する。
はじめに
過去15年以上にわたり、研究者たちは、破壊的リーダーシップの性質とプロセスを探究してきた。それは、上司に導かれて繰り返される活動、経験、または関係が、フォロワーによって敵対的または妨害的として知覚されるまでのプロセスとして定義されている。
破壊的リーダーシップに関心が集まった理由の一つは、その頃に「ネガティブ・バイアス」という考え方が登場してきたことである。ネガティブな情報は、ポジティブな情報よりもモチベーションや感情への影響が大きいことがわかる。さらに、タイプの異なるネガティブな情報は、タイプの異なるポジティブな情報よりも異質なものとして認識される。
このことは、ドイツのシュミット(Schmid)氏、パーチャー・ヴァドーバー(Pircher Verdorfer)氏、ペアス(Peus)氏による、異なる影響をもたらす可能性のある、異なる破壊的なリーダーの行動を探求する研究への関心につながった。ここでは、彼らの2018年の記事、「異なる影は異なる違いを生むのか?異なるタイプの破壊的リーダーシップがもたらすものとは?」(Different shades--different effects? Consequences of different types of destructive leadership)をご紹介する。
(この記事は、ダウンロード可能なシリーズの一部で、タイトルは以下の通りである。
”灰色の50の色合い:リーダーシップとフォロワーシップのダークサイドを探る”(Fifty Shades of Grey: Exploring the Dark Sides of Leadership and Followership.)
著者らは、調査で明らかになったことを以下のように説明している。
「『悪いことは良いことよりも強い』という現象は、リーダーシップの領域にとって重要な意味を持っている。破壊的なリーダーの行動が、建設的なリーダーの行動よりもフォロワーにはるかに強い影響を与える可能性が高いだけでなく、そのような破壊的な行動の悪影響は、同僚や顧客などとの肯定的な関係から得られることを上回る可能性が高い。リーダーとのネガティブな相互作用は、リーダーに関するポジティブな情報よりも、より微妙で、それぞれに異なるケースとなる可能性が高い。」
破壊的なリーダーの行動タイプ
文献に基づいて、著者らは破壊的なリーダーの行動を分類するために次の2つの軸から成る4象限の構造を作成した。
- 対象(たとえば、フォロワーや組織といった破壊的行動が向けられる矛先)
- 敵対心の度合い
もう少し詳しく見てみよう。
フォロワーに向けられた破壊的行動とは?
- 虐待的なマネジメント - 敵対心が強い :
「最も広く研究されている構成要素は虐待的なマネジメントであるといえる。監督者が敵対的な言葉や敵対的な非言語による行動をあえて持続させているというフォロワーの認識を反映している(公の場あるいは私的な場で嘲笑する、叫ぶ、侮辱する、威圧する、いじめる、弱体化させる)。」 - 部下から搾取するリーダーシップ - 敵対心は弱い :
「搾取的なリーダーシップはフォロワーをターゲットとするが、本質的には敵対的だったり、攻撃的なものではない。主な意図は他人を利用することによってリーダーの利己心を満たすことである。 たとえば、フォロワーの仕事を自分の手柄にしたり、リーダー自身に利益をもたらすためにフォロワーの成長を損ねるような行為である。搾取的なリーダーシップはフォロワーに対してあからさまに友好的であるかもしれない。」
組織に向けられた破壊的行動とは?
- 組織に害を及ぼす行為 - 敵対心が強い :
「これに該当する行動とは、組織に対する攻撃的な行動を指す。たとえば、妨害行為、設備の破壊、または器物破損といったものである。組織に対するそのような明示的に敵対的な行動は秘密裏に実行される可能性が高く、従って他の人によって見られないままである。そのようなものとして、それらはフォロワーに影響を与える可能性は低い」 - 組織に害を及ぼす行為 - 敵対心は弱い:
「組織に指示された破壊的なリーダーシップには、組織内で確立されたルールや社会的規範に違反する行動が含まれる。これには、窃盗(ペンなどの小さな材料だけでなく、お金や時間を盗むことなどが含まれる)や、組織について否定的な話をしたり、会社の財産を個人的な利益のために利用したり、詐欺や汚職など、さまざまな行動が含まれている。」
著者らは、怒鳴り散らしたり、侮辱したりするような虐待的なリーダーは、フォロワーを搾取するリーダーや組織のルールに違反するリーダーとはフォロワーに与える影響が異なることは理にかなっていると指摘している。彼らの研究は、この仮説を検証することを目的としている。
2つの研究の設定
最初の研究では、297名の参加者(女性46%、平均年齢26歳、営利企業95%)を対象に調査を行い、虐待的リーダーシップ、搾取的リーダーシップ、組織攻撃型リーダーシップの3つの実験グループに分けた。各グループには仮説的なシナリオが提示され、割り当てられたカテゴリーに対して6~7項目の項目で評価した。
2つ目の研究は、さまざまな職業や組織のフォロワー167人(営利企業72%、女性37%、大学卒67%、平均年齢36歳)を対象に、直属の上司を先の3つのカテゴリーに分けて評価した実地調査である。参加者の虐待的な監督と搾取的なリーダーシップに対する認識は15項目の尺度で評価され、組織攻撃型リーダーシップは最初の研究で使用したのと同じ評価で評価された。
2つの研究において、著者らはこれらの破壊的なリーダー行動が以下の2つの結果に与える影響を調べた。
- フォロワーの感情的な反応への影響 - 負の感情と不安
- フォロワーの離職への意向
研究成果:
- 虐待的なマネジメントと搾取的なリーダーシップの両方がフォロワーに対して、圧倒的なマイナスの影響を与える。
- 虐待的なマネジメントは、フォロワーに対して最もネガティブな影響を与える。それは、おそらく直接的な個人への敵対的攻撃に起因していると考えられる
- 虐待的なマネジメントは、フォロワーに対して最高レベルの不安感と動揺を生み出すが、離職への意が高くなるわけではない。それはおそらく組織に対する帰属意識があったのか、または他の仕事に対する選択肢が欠如していたことが考えられる。
- 搾取的なリーダーシップは、従業員の離職意向に最も強い影響を与える(今か後日かという適切な時期に退職する意思)。
コーチングへの応用:
この調査によると、異なった種類の破壊的なリーダーシップがフォロワーに異なる影響を与えている。コーチには以下のコーチングの機会がある。
- 虐待的または搾取的なリーダー(自分自身、上司、同僚)の行動による影響があるかもしれないことを、クライアントが理解できるようにしよう。その影響とは、不安といった否定的な感情が増大したり、離職の意思が増大したりすることである。
- 自分や上司、同僚が、虐待的または搾取的と認識されるような行動をとっているかどうかを検討し、もしそうであれば、建設的なリーダーシップにつながる行動目標に焦点を当てることをクライアントにうながそう。
良いリーダーシップとして最も大事なことは、心から相手を思うことである。
- ディーン・スミス
IOCチームより
参考文献
Schmid, E. A., Pircher Verdorfer, A., & Peus, C. V. (2018). Different shades--different effects? Consequences of different types of destructive leadership. Frontiers in Psychology, 9. 27-42.
この記事は、ダウンロード可能なFrontiers in Psychologyによるシリーズの一部である。Fifty Shades of Grey: Exploring the Dark Sides of Leadership and Followership.
筆者について
マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Different Shades of Destructive Leadership(2020年11月28日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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