米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


「ソクラテス式問答法」をコーチングで使うには

【原文】 How to use Socratic Questioning in Coaching
「ソクラテス式問答法」をコーチングで使うには
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はじめに

コーチは、好奇心にあふれ、クライアントの心を開き、刺激的な質問をするエキスパートである。それらの質問とは、クライアントの視野を広げ、認識を深め、洞察力を生み出す質問である。コーチはすべての質問を重要視しているので、「前回お会いしてから、状況はどうですか?」というような曖昧で一般的な質問は避けるようにしている。その代わり、「前回あなたが決めた行動は、どんな風に進捗していますか?」と尋ねるのである。

今回は、マイケル・ニーソン(Michael Neeson)氏が2008年に発表した『コーチングにソクラテス式問答法を取り入れる(Using Socratic Questioning in Coaching』という古典的な論文を紹介する。この論文で最も表現したいことは何だろうか? ソクラテスは、「最もインパクトのある質問を選ぶべきである」と私たちに示唆している。彼は、短時間で最大のインパクトを相手に与えるような質問をコーチができるように、後押しをしているともいえるだろう。

ソクラテス式問答法とは?

ニーソン氏は 「ソクラテス式問答法は、認知行動療法(及び、認知行動療法コーチング)の基礎となっている 」と論じている。しかし、心理療法に関連した『ソクラテス式問答法とは何か』と題した総説論文では、その理論は混沌としていると結論づけている (Carey et al, 2004)。この論文では様々な用語が使われているが、最も一般的なのは「ソクラテス式問答法」と「ソクラテス式メソッド」である。両者は、それぞれの定義、目的、構成要素、プロセスにおいて、必ずしも一致はしていない。

すべての質問がソクラテス式問答法に関連しているという見方もあれば、オープン・クエスチョンだけが関連しているという見解もある。また、ソクラテス式問答法は気づきのプロセスであると表現されることもある。専門家の中には、ソクラテスは自身の手法を使って生徒たちの考えを変え、自分の考えに同意するようにしていたのだと説く人もいる。また、別の専門家は、ソクラテス式問答法の真の目的は気づきを導くことであると主張しているほか、両方のアプローチを併用していると考えている専門家もいる。

自分が聞きたい答え、あらかじめ定めた結論、アジェンダに向けてクライアントを誘導する質問をすることでクライアントの考えを変えさせようとする試みがある。しかし、それはクライアントの探究心を制限することに繋がる。

そのような目的を持った質問は、たとえば次のようなものである。「その意見を言ったら、馬鹿にされるという確証があるんですか?」 クライアントは「いいえ」と答えるだろう。そしてコーチは、「まずは発言してみたらどうなんですか?」と質問する。

ソクラテス式問答法の「気づきに導く」アプローチは、コーチングにより近く、その質問が何につながるのか、何が明らかになるのか、また、新しい気づきを得たクライアントはどんな行動をとるのか、という純粋な好奇心に基づいている。このことにより、クライアントの意図を明らかにすることができる。良い質問によって、たくさんの、そして様々な答えと可能性が導き出される。

コーチはこんな風に聞くかもしれない。「あなたが先日その発言をした体験ついて、もっと話してくれませんか」あるいは、「あなたはどうしてこの結論いたったのですか?」と。

ソクラテス式問答法がオープン・クエスチョンであると定義するならば、ソクラテス式ではない質問も時には有効である。

たとえば、

  • クローズド・クエスチョンは、クライアントの回答に焦点を当てる
    例:「どの問題に最初に取り組むか決めましたか?」
  • 直接的な質問は、情報を収集するのに役立つ
    例:「あなたは今月、ミーティングに何回遅れましたか?」
  • 相手を誘導する質問は、コーチの観察力を試すことができる。
    例:「あなたは今回の昇進について、わくわくしているというよりも不安なのですか?

ソクラテス式の良い質問

著者は、ソクラテス式の良い質問の基本原則として以下のことを紹介している。

  • 簡潔である - クライアントに焦点を当て続ける
  • 明確である - 専門用語を避け、シンプルにすることで混乱を減らす
  • オープンである - 好奇心をかきたて、アイディアを探る
  • 目的がある - 質問した理由を説明する
  • 建設的である - 洞察と行動を促す
  • 焦点が定まっている - クライアントの現在の関心事に焦点を当てる
  • 決めつけがない - クライアントが質問に答えられることを前提としない
  • 中立的である - コーチの視点を反映するような答えを、クライアントに示さない

「悪い質問」の例はどのようなものがあるだろうか?

著者は、一つの例として、役員会でのプレゼンテーションについて心配を抱えているクライアントに対する、あるコーチの質問を以下のように紹介している。

「何か心配な事があることはわかっている。プレゼンをするということは、恐らくほとんどの人にとってチャレンジングで不安になるようなことだろう。不安や心配自体は、自分自身に関する一つの重要な情報と言えるね。聞きたいのですが、その心配というのは何か良くない結果が起こるかもしれないというところからきているのですか?たとえば、あまりインパクトのないプレゼンをしてしまうとか、難しい質問に答えられなかったりとか、それとも何か他にありますか?」

「コーチングは曖昧さを排除した領域であるため、回りくどい言い回しは避けた方がいい」と著者はアドバイスしている。

質問に答えがないとき

クライアントが「わからない」と答えたとき、以下のような視点から何が足りないのかを探索してみよう。

  • 知識不足:知るためにあなたには何が必要なのか?
  • 精神的な深さの欠如:あなたがより深いところにアプローチすると何が起こるだろうか?
  • 防御反応:知ることを妨げているものは何か?
  • 実験的思考:知ることを可能にするために、どのような仮説を立てられるか?
  • 時間不足:沈黙の場をそのままキープし、クライアントが探求を深め、アイディアや考えをまとめるのに十分な時間を与えよう。

コーチのためのヒント

  • 自分がコーチングするときにどういうアプローチで質問しているかを振り返ってみよう。たとえば、質問には効果があるのかどうか考えてみよう。
  • クライアントの気づきを促し、広げ、掘り下げるために、あなたの質問の選び方をどのように改善すればいいか考えてみよう。
  • あなたの質問の質と質問の効果を継続的にチェックしてみよう。

参考文献

CITATION: Neenan, M. (2009). Using Socratic questioning in coaching. Journal of Rational-Emotive & Cognitive-Behavior Therapy, 27(4), 249-264.

Carey, T. A., & Mullan, R. J. (2004). What is Socratic questioning?. Psychotherapy: theory, research, practice, training, 41(3), 217.

筆者について

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。


【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How to use Socratic Questioning in Coaching(2021年4月20日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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