米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


マインドフルネスはモチベーションの質を高める

【原文】 Mindfulness Improves Motivation Quality
マインドフルネスはモチベーションの質を高める
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質の高いモチベーション、つまり自らの意志による自律的なモチベーションは、持続的な変化に向けて行動していくプロセスにおいて、力強い燃料となる。これに対して、コントロールされたモチベーション、つまり他者から与えられたモチベーションは、揺らめくだけで長続きしないロウソクのようなものだ。マインドフルネスは、より自律的で質の高いモチベーションをもたらし、変化にむけて旅を続けるために、より強力な燃料となり火種となり得ることがわかった。

はじめに

2021年のIOC リーダーシップ&ヘルスケア コーチング・バーチャル・カンファレンスにおいて、自己決定理論(SDT)の共同創始者であるリチャード・ライアン(Richard  Ryan)氏が、モチベーションの質に関して、素晴らしい講演を行った。自己決定理論において、質の高いモチベーション(自律的モチベーション)とは、興味、価値、意志を自ら感じて活動に取り組むことを特徴としている。モチベーションが自律的であれば、人は自ら進んで活動を行うのだ。

自己決定理論では、マインドフルネスは自律性を支える重要なリソースと考えられている。ライアン氏は、マインドフルネスとモチベーションに関する新しい研究を紹介してくれたが、今回は、彼のチームが2020年に行った、マインドフルネスと様々なタイプのモチベーションとの関連性に関するシステマティックレビューについて紹介する。そこでは、チームはマインドフルネスが様々な形のモチベーションにどのような影響を与えるかについて精査している。

まず、著者は、自律的なモチベーションが大きくプラスに働く影響と、コントロールされたモチベーションが大きくマイナスに働く影響をわかりやすくとまとめている。「自律的なモチベーションは、環境、文化、年齢層の隔たりを超えて、人々の健康、活力、繁栄に影響してきた。コントロールされたモチベーション、つまり、自分自身の内側のプレッシャーや外的な条件によって動かされるモチベーションは、ストレス、不安、抑うつ、怒り、敵意の増大といった健康や機能の低下をもたらし、エネルギーの枯渇、自制心の低下、認知能力の低下などを引き起こす。」

自己決定理論とマインドフルネス

ライアン氏とエド・デシ(Ed Deci)氏はマインドフルネスについて、次のように述べている。 「マインドフルネスとは、人の内側で、そしてその人を取り巻く環境の中で起きていることを、そのままオープンに受け入れ、気づくことをいう。そして、自律性と自己管理能力を高めるものである。マインドフルネスが高まると、人は、感情、衝動、ニーズといった自身の内的な現象や、誘惑やプレッシャーといった外的な状況を、よりはっきりと意識できるようになる。その結果、思慮深い選択や自己調和がとれた行動をとることができるようになる」。

ここでの重要なポイントとは、マインドフルネスの状態から生まれる内的、外的な気づきや内省によって、人は自律的な価値観や行動する意志を持つようになるということだ。

科学的な証拠が彼らの主張を裏付けている。マインドフルネスは、次のことと関連している。

  • 自己調和がとれた価値の追求
  • タスクに対する内発的動機の増加
  • サンプリング研究に見られる日常的な自律性
  • 自律性を含む自己決定理論の基本的な心理的欲求の充足

マインドフルネスには以下の特徴もあるとされている。

  • 外的な報酬やゴール偏重を抑制する
  • 金銭的報酬の影響を受けにくくなる

ゴール

研究チームは、マインドフルネスと自己決定理論の5つのモチベーションタイプとの関連性を解明する文献を足がかりにしようと考えた。この5つのタイプとは、最も質が高く自律的なもの(内発的モチベーション)から、最も質が低く自律的でないもの(無気力状態)までを指す。 

  1. 内発的モチベーション - 最も自発的なモチベーションであり、純粋な興味や楽しみを持って活動に取り組む原動力となるもの(例:音楽やスポーツをするときのフロー状態、芸術を鑑賞するときのフロー状態、IOCライターの場合は研究コラムを書くときのフロー状態)。
  2. 意識的モチベーション - 自分にとって元来は楽しいことではなくても、自分や自分の大切な人にとって価値があると認めるがゆえ、進んで行動すること(例:禁煙、エクササイズ量を増やすこと、マスクの着用、台所の掃除など)
  3. 強制的モチベーション - 内在化された強制感、外的基準を満たすためのプレッシャー、自尊心から行動すること(例:キャリア目標の達成、減量)
  4. 外発的モチベーション - 価値や興味ではなく、報酬(例:金銭的インセンティブ、社会的認知)や罰(例:金銭的ペナルティー、社会的排除)などの外部からコントロールされる条件によって引き起こされるもの。
  5. 無気力状態 - 行動する意思がない状態、または行動することが効果的ではない、行動する目的がない、行動に対する内側の抵抗があると感じている状態。

研究内容

研究者らはシステマティックレビューを実施し、7,108件の論文をスクリーニングして89件の関連論文(N = 25,176)を特定し、104件の独立した研究(介入研究21件、相関研究83件、RCT14件)を行った。マインドフルネスには2つの形があり、1つ目は、意識的に自分自身の経験に照らし合わせていくものであり、2つ目は、心を開き、判断をせず、反応をしないというものであるとした。

著者達は、質の高い研究に重点を置き、メタ分析に3段階のモデリングアプローチを用いた。そのことにより、研究者バイアス(研究の設計と方法)と出版バイアス(肯定的な結果が出版される可能性が高い)のリスクが低減された。

マインドフルネスとその成果の定義の仕方や、マインドフルネス介入の設計と実施の仕方にはかなり多岐にわたるとしながらも、研究者たちは、以下のような結論を出した。

  1. マインドフルネスは、自律的なモチベーションとポジティブな相関関係があり、コントロールされているモチベーションとはネガティブな相関関係があった。
  2. マインドフルネスとモチベーションタイプとの間には、内発的なモチベーションに最もポジティブな影響を与え、外発的なモチベーションと無気力状態に最もネガティブな影響を与えるという段階的な関連性が見られた。
  3. 注意的(attentional)マインドフルネスと態度的(attitudinal)マインドフルネスの両方が、自律的なモチベーションにプラスの影響を与えた。
  4. マインドフルネスの介入は、自律的モチベーションを促進させた(中程度の効果)。
  5. 社会的圧力や外発的な報酬・制裁を含む、コントロールされたモチベーションに対するマインドフルネス介入の効果を検討した研究はなく、今後の追加研究が待たれる。

コーチのためのヒント

この研究は、コーチやクライアントにとって重要である。まず、クライアントに、マインドフルネスの活動が、クライアント自身やクライアントが接する人々の自律性を高め、ありのままの自分でいることを促進し、モチベーションの質を向上させることを躊躇なく伝えよう。

パンデミックの際には、意識的なモチベーションが特に重要である。それがあることで私たちは、家族、コミュニティや、より大きな社会の健康や幸せに何らかの形で貢献するなど、行動を自分自身の価値に照らし合わせ結びつけることで、外的なモチベーションやコントロールされたモチベーションを内在化させることができる。

この研究では、自己決定理論の3つの中核的ニーズの1つである「関連性」に対するマインドフルネスの影響は考慮されていない。それとは別に、マインドフルネスは、共感性や他者への思いやりを向上させることが示されており、これもマインドフルネスの重要な成果である。

さらに、コーチは他に何ができるだろうか?

  • コーチとして、マインドフルな状態や活動を経験してみよう。それが自分の興味や価値観とのつながりに影響を与えているか、また、コントロールされたモチベーションのきっかけ(例:他人が自分の考えや要求を押し付けてくるとき)に対して無反応・無判断でいられるかどうかを自ら観察してみてほしい。
  • クライアントが内的・外的な経験と共に在ることや、そのことに向けて注意を払うことができるように支援してみて欲しい。特に、どのような活動が興味深く有意義なのか、また、その経験がモチベーションの質や自律性にどのような影響を与えているのかに気づき、振り返ることができるように支援して欲しい。
  • 自分の自律性やモチベーションをコントロールしようとする他者からの働きかけに反応したり、判断したりせず、マインドフルな状態でいられるように促して欲しい。さらに、コントロールされたモチベーションから自律的なモチベーションにシフトするために、自分の意思や価値観を確認し、それを自分の中で統合できるように支援しよう。
  • マインドフルネスは、自己への思いやりや他者への共感・博愛にも繋がることを体験してもらおう。

「マインドフルネスにより、私たちは自分が考えていることを観察することができる。また、ひとつの考えが次の考えをどのように導くのかを見ることができる。不健康な道を進んでいるかどうかを判断し、もしそうであれば、手放して方向を変えることができるのだ。」

- シャロン・サルツバーグ

参考文献

Donald, J. N., Bradshaw, E. L., Ryan, R. M., Basarkod, G., Ciarrochi, J., Duineveld, J. J., Guo, J., & Sahdra, B. K. (2020). Mindfulness and its association with varied types of motivation: A systematic review and meta-analysis using self-determination theory. Personality and Social Psychology Bulletin, 46(7), 1121-1138.

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Mindfulness Improves Motivation Quality(2021年10月29日に IOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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