米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


遊び心と遊びをコーチングに取り入れる方法

【原文】 Coaching Play and Playfulness
遊び心と遊びをコーチングに取り入れる方法
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遊び心とは、遊んでいるときでもそれ以外のときでも、幸福感を向上させる。遊び心のある人は、より明るく、自発的である自覚があり、創造的で、楽しい人生を送っている。コーチングで遊び心を養うことは、コーチイー(コーチングを受ける人)がより自己実現しやすく、より多くの意味、深み、創造性、自発性、知力、楽観性を仕事や遊び、人間関係に結びつけることを助ける。

はじめに

遊びと遊び心は、長い間、子どもの幸福を促進すると考えられてきた。しかし、近年になって(1950年代に出現し、2000年代初頭に再浮上)、研究者は大人にとっての遊びと遊び心の価値に着目している。遊びと遊び心は、職場でも家庭でも、大人にとっての幸福の源であることが分かった。

最も説得力があるのは、遊びが最も効果的な結果をもたらすための前提条件として、遊び心があるという考え方だ。大人の幸福感を生み出すのは、単に遊びだけでなく、遊びと遊び心の複合的な影響であり、それが真の違いを生み出す。

遊びと遊び心を理解する

研究者らは、遊びと遊び心を明確に区別している。普遍的な定義は存在しないが、遊びと遊び心がどのように異なるかについて、大まかな理解はできていると我々は見ている。シンプルに言えば、遊びとは、遊びの感情を促進・増進する行動や行為を表している。遊び心とは、私たちが自分の人生や他者との交流にどのようにアプローチするかを示す態度や考え方だ。それは、本質的に自由でやる気がある状態に向けての認知的態度であり、自発的で楽しさを探し求める行動志向である。

この2つは関連しているが、常に一緒に起こるわけではない。人は、遊び心のある態度で仕事、人間関係、そして苦難にさえアプローチすることができるのだ。つまり、遊び心は、私たちが経験することに創造性、自発性、知力、楽観性をもたらしてくれるのだ。また、遊びは遊び心の有無にかかわらずもたらされる可能性がある。例えば、職場で強制的に参加させられる専門知識向上のためのアクティビティや、子どもが親から強制的に参加させられるサッカーの試合を思い浮かべてみて欲しい。どちらの場合も、参加者は遊びに参加しているのだが、嫌々ながらそうしているかもしれない。これは遊び心のない遊びであり、楽しい遊びがもたらす恩恵はあまり期待できない。

両者は別々に存在することができるが、遊びが幸福にもたらす恩恵を享受するためには、遊び心が不可欠であることは、研究者の間で一致している。遊び心がなければ、遊びは恨みなどのネガティブな感情を永続させ、幸福感を阻害し、最終的には逆効果になることもあるのだ。

遊びと遊び心がもたらす効果

遊びと遊び心とが密接に関係しているのは、それらは幸福感と豊かさを向上させられるという点だ。米国心理学会は、幸福感や満足感があり、悩みが少なく、身体的な健康や見通しが全体的に良好な状態、または生活の質が高い状態を幸福と定義している。豊かさとは、「活力に満ち、個人的・社会的にうまく機能していること」であり、幸福の上に成り立つものだ。

ポジティブ心理学の観点から見ると、遊びと遊び心は、幸福と良い人生をおくる能力を増大させる力を持っている。特に、「遊び心」を持つことは、非常に有益な考え方であることが分かっている。遊び心のある人は、より明るく、意識的に自発的であり、創造的で、ユーモアのある生活を送っている。

また遊び心については、セリグマンの提唱する「性格の強み(キャラクター ストレングス)」の「超越性」のカテゴリーに入っている「ユーモア」と結びついている。つまり、遊び心によって、私たちは自分の存在、対人関係、そしてより大きな宇宙の中に、より深い意味とつながりを見出すことができるようになる。「超越性」というレンズを通して、遊び心は私たちの人生に意味と深みを加えてくれる。より実践的なコーチングの観点からみると、遊びと遊び心をもつことで、目標設定と実行、変化の創造、自己実現を向上させることができる。

コーチングを受ける側のメリット

学者たちはこの学びをコーチングの科学と実践に適用して考えており、遊び心をともなう遊びは、コーチングで培われると示唆している。

遊びと遊び心を育むことは、コーチイーが次のようなことを望んでいる場合に有効だ。

  1. 問題解決のスキルを向上させる
  2. 仕事上およびプライベートでより深い関係を培う
  3. より柔軟で創造的であることを学ぶ
  4. 困難な時期にうまく対処する
  5. 予期せぬ問題に対応する
  6. 強いストレスに対応する
  7. 新しい楽しみを見つける

コーチングで遊び心を養うということは、創造性、自発性、知力、楽観性を仕事、遊び、人との体験に統合する姿勢と考え方をコーチイーが取り入れるのを支援することだ。これには、遊びの経験だけでなく、コーチイーが遊び心を持つための、意識的な実践と活動の組み合わせが必要だ。この記事では、コーチは以下のようなエクササイズを通じて、コーチイーが遊び心を養うことを支援できると提唱する。

  • カップルで一緒に踊ったり、歌ったりする
  • 組織の中で遊び心のある環境をつくる
  • 過去に遊び心を感じたときを思い出すようコーチイーに促す "遊び心日記"をつける
  • コーチイーが遊び心を持っていると思う人たちと交流する
  • コーチング・セッションの中に、遊び心を誘発するような創造的な活動やアプローチを取り入れる

目的は単に遊びを増やすのではなく、遊びと遊び心の相互作用を導入することで、内面的、統合的、そして対人的な変化をもたらすようなインパクトを与えることだ。コーチイー自身が遊びの姿勢、考え方、世界観を自分自身の中で統合し始めると、遊びは彼らにとって、自然で隔てのない生活の一部となる。遊びと遊び心の区別(および遊びの恩恵を得るための遊び心の重要性)をより明確に理解することで、コーチイーは遊び心を利用して世界観と生活の質を変えていくことができるのだ。

遊びと遊び心への賛同を得る

懐疑的なコーチイーや組織と協働する場合、コーチが遊びや遊び心の実証されている利点と、それらがどのように機能するか、つまり、その考え方や行動がいかに成長、開発、満足感、生産性を刺激するかを示すことが役立つかもしれない。コーチイーや組織のリーダーは、自分自身や組織にとって遊びが何を意味するかについて、異なる考えを持っているかもしれないので(たとえば、それらを真剣な取り組みとは考えない)、遊びや遊び心を説明する方法については、適応性と柔軟性を持って臨んで欲しい。個人と組織のための遊び心の育成は、新しく革新的なアイディアを生み出しながら、遊びと遊び心の理解を統合していくことが理想的だ。

結論

  1. 遊びと遊び心には違いがある。遊びは行為であり、遊び心は態度である。
  2. 遊びの恩恵は、ストレス解消、心身の機敏さ、人と人とのつながりを深くすることである。
  3. 「ユーモア」という「性格の強み」の表現でもある「遊び心」の恩恵は、対処能力の向上、戦略的思考の実践練習、対人関係能力の開発、そしてより豊かで超越的な瞬間などである。
  4. 遊び心という考え方を取り入れると、内側から変容する可能性が広がる。

コーチのための学び

  1. 自分自身の生活の中で、より遊び心を育もう。
  2. コーチイーの人生にとって新しい考え方やアプローチを紹介する一連の実践や精神的なエクササイズを通して、コーチングでコーチイーの遊びや遊び心を育もう。
  3. 次のような、遊び心を育むための質問をしてみよう。
    • あなたにとって、遊びとはどのようなものですか?
    • これまでの人生の中で、あなたが思い出す遊びの瞬間はどんなときですか?
    • あなたの遊び心を阻害する制約にはどのようなものがあると感じますか?
    • 毎日、毎週、毎月の習慣に、どのように遊びを組み込んでいますか?
    • もっと定期的に遊びに参加するには、どうしたらよいでしょうか?"定期的"とはあなたにとってどのようなものでしょうか?

人生を軽やかに、遊び心を持って捉え始める瞬間、あなたの心の重荷はすべて消え去ります。死、生、愛に対する恐れーそのすべてが消えるのです。

ーラジニーシュ

概要図

参考文献

Lockwood, R. & O'Connor, S. (2017). Playfulness in adults: an examination of play and playfulness and their implications for coaching. Coaching: An International Journal of Theory, Research and Practice, 10:1, 54-65, DOI: 10.1080/17521882.2016.1268636

【筆者について】
パメラ・ラルデ
教授であり、コーチであり、受賞歴のある作家であり、ビジネス オーナーでもある パメラ・ラルデ博士は、世界中の心を大切にするリーダーをサポートし、育成するために、コーチングの専門職としての知見を発展させる仕事に従事することにコミットしている。ラルデ 博士は、帰属意識、人間の尊厳、正義、および人類全体のケアの価値を、彼女の仕事のあらゆる部分に統合するよう取り組んでいる。グローバル コミュニティの献身的なメンバーとして、ラルデ博士は、2013 年に彼女が設立した Academy of Creative Coaching を通じて、切迫した社会問題への取り組みを主導している。このアカデミーは、黒人女性が統括する ICF ACTP 認定コーチングの最初の コーチングスクールである。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Coaching Play and Playfulness(2022年6月24日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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