米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


リーダーシップを一言であらわすと?

【原文】 What is leadership in one word?
リーダーシップを一言であらわすと?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

「リーダーシップとは、個人の能力でもなければ、リーダーとフォロワーの関わり合いでもない。リーダーシップの根幹は、『パーパス(目的)』だ。崇高な価値に根ざした「パーパス」こそが、すべての人を導く星となるのだ」

はじめに

従来のリーダーシップの3つの柱である方向性、連携、コミットメントをアリストテレス倫理学のフィルターにかけ、15年間じっくりと考察し、さらにパーパスを加えて、功利主義的帰結主義的(行為の良し悪しの判断の際に結果を重視し、結果には全体の幸福に価値を置く考え方)なレンズで突き詰めていくと、何が得られるだろうか?

それはリーダーシップだ。

『チェンジマネジメント』誌に掲載された2021年の論文、「リーダーシップ:パーパスの追求Leadership: In Pursuit of Purpose)」(ルーン・トドネム・バイ著)では、豊富な歴史的データから、パーパスを「導きの星」、美徳倫理をその核として、新しいリーダーシップの枠組みを提唱している。

著者は、ウィリアム・デイモン氏らによるパーパスの定義を、「自己にとって意味があり、かつ自己を超えた世界にも重大なものを達成しようとする、普遍的かつ安定した意図」と定義している。(パーパスの定義と利点については、最後に詳しく説明する。)

結論として、バイ氏は、ドラス氏らの「方向性(Direction)、連携(Alignment)、コミットメント(Commitment)(DAC)」の概念をさらに洗練させることを提案した。それによって「方向性」「パーパス」に置き換えるというシンプルかつ奥深い意味をもつ変更により、新しいリーダーシップのあり方:「パーパス(Purpose)、連携(Alignment)、コミットメント(Commitment)(PAC)」の3つの柱が誕生したのである。

リーダーシップの歴史

「リーダーシップの概念は、カーライル氏(1841年)が広めた偉人理論以降、大きく発展したきたわけではなく、例えば特性理論や、変革型・カリスマ型リーダーシップなどの用語で総括されてきた(ムートン、2019年)」

バイ氏は、既存のモデルは特に以下の点で、これまでの議論をより豊かなものに進化させてきたと記している。

ウォレン・ベニス氏の3つの柱「リーダー、フォロワー、共通のゴール」では、リーダーシップをより容易に説明できるシンプルなモデルにし、誰もがリーダーになれるという可能性を提示した。(これについては、ロバート・A・キャンベル氏が素晴らしい解説をしている)。

ウィルフレッド・ドラス氏らの3つの柱「方向性、連携、コミットメント(DAC)」では、 リーダーシップとは、集約されたひとつの方向性へ結び付けていく連携とコミットメントだと示している。DACについては、リサーチ記事のLet's Disrupt Leadershipを読んで欲しい)

バイ氏は、DACは目立った変化をもたらしていないと指摘している。
問題点はというと、リーダー/フォロワーの関わりの概念は非常に強力なので(私たちは幼少の頃からリーダーに従うように訓練されてきた)、私たちはそれを何かより強固な別のものに置き換える必要があることにある。

なぜ変化が必要なのか?そして、なぜ今それが必要なのか?

バイ氏は、リーダーシップをめぐる議論が現在も以下のように続いていると説明している。

  • リーダーシップとは「何か(what)」ではなく、リーダーは「どのように(how)」するべきかという議論がほとんど
    リーダーとしての特性、特徴、目標、モデルなどに関する記事は多く、また、リーダーが知っておくべきことに関する記事は多いが、リーダーシップそのものを明確に理解しているものとはいえない。
  • 「行為」としてのリーダーシップ
    リーダーシップに関する議論は、通常、目標達成のために他者に影響を与えたり、他者をうまく操ったりする行為であると説明される。言い換えれば、リーダーシップとは、リーダーとしての行為として表されている。
  • リーダー中心
    DACのフレームワークでも、リーダー/フォロワー、命令/支配の力学が非常に深く根付いているため、DACは、リーダーを中心とした重力に耐えられるほど強くはないのです。
  • 時代遅れで排他的
    リーダーをエリートだとか、特別な人としてフォーカスすることは、多くの人々がリーダーになれる可能性を排除するだけでなく、以下のようなより協調的な環境や、現在や未来のリーダーシップ開発についての議論をも排除するものである。
    • シェアード・リーダーシップ(共有型)、分散型リーダーシップ
    • 複雑系科学の適用関係性へのアプローチ
  • 短期的、外的な目標に従う
    これらの目標は、矛盾したあるいは秘められた動機からなる組織に必要なものに基づいていることが多く、その必要性は多くの従業員にとって害になるようなものである。また、これらの目標は富、権力、地位に過度に焦点を当てがちだ。

国連が定めた17の持続可能な開発目標(SDGs)の採択を真に前進させていくためには、バイ氏はリーダーや学者たちに「21世紀の要求と課題に応えうる有意義な方法でリーダーシップをさらに発展させること」を呼びかけている。

TLLとは?

TLLとは、Telos Leadership Lens(テロス・リーダーシップ・レンズ)の略である。「人類の善に貢献するという包括的かつ究極の目標であるアリストテレスのテロスの定義」に基づいている。

TTLはすでに多すぎるほど存在する新しいリーダーシップモデルというよりは、「包括的・理論的枠組み」である。TLLは、個人または組織の利益を超えて、社会の大多数の人々にとって何が最善であるかを追求するリーダーシップに焦点を当てる(功利主義的帰結主義)。

TLLは、パーパスの概念を組み込んでいる。リーダーシップを持続可能なものとし、また、その定義や使われ方は常に変化するものと理解している。以下は、TTLが定めるリーダーシップの3つの主要原則である。

  1. 少数派の特権ではなく、多くの人が持つ責任
    特定のリーダーやフォロワーから、多くの人が持つことができる責任へと焦点を移す。参加する者全員がリーダーになる責任持ち、リーダーとしての責任を負う。水泳の例えは、この点をよく表わしている。つまり、泳ぐ人すべてが泳ぎ手であるように、導く人すべてがリーダーなのだ。
  2. パーパスを達成するために全体で共有する追求
    組織を導く中心的な要素は、ミッションステートメントなどの他の実践というよりもパーパスであり、リーダーシップは本質的にリーダーやフォロワーを必要としない全体で共有する実践であると認識する。
  3. 内的な価値に導かれた目的に焦点を当てている(国連の持続可能な目標のように)
    少数に利益をもたらす外的な価値(富、地位、権力)ではなく、多数に利益をもたらす長期的内的な価値(平和、健康、平等)を考えを大事にする。

私のTLLに、特別なパーパスを持たせる

パーパスは、基礎となるものだ。それは命令/支配から協調的な責任へと移行するための強力な基盤となる。そして、パーパスがあることで、多くの人にとって有益な長期的な内部目標に焦点を当て続けることができる。パーパスを定めて仕事をする際には以下の項目を覚えておこう。

  1. パーパスはもとからあるものではない
    リーダーシップモデルを語るとき、パーパスがあることが当然なことだと考えがちだ。しかしそれには、実践とトレーニングが必要だ。コアバリューを見出すためには内省が必要であり、これらの目標が社会全体に利益をもたらす長期的な行動につながるよう調整/修正する能力を磨くために、実践とトレーニングが必要である。
  2. 意味づけとパーパスは違う
    パーパスが意味を生み、それがさらにパーパスを生むという、終わりのないスパイラルがある。このように、人は常に成長し、変化し、向上していく。
  3. パーパスを追求することで得られるメリットがある
    モチベーションの向上、リバウンド能力、回復力の向上、回避行動・病気・ストレスなどの軽減などがパーパスのメリットであると示唆されている。

つまり、パーパスは行動を指示するのではなく、コンパスのように機能するものだ。使う必要はないが、使えば便利で、使わなければ危険でもある。

2005年に行われた民間企業18社の調査では、最も成功している企業に共通する一つの特徴があることがわかった。それは、お金を稼ぐこと以上に、パーパスを中心とした考え方、つまり理念を大切にしていることである。

「興味深いことに、お金にこだわらないことで、企業はより多くの利益を上げることができるのだ」

パーパスは、組織のアイデンティティの中核を成し、理想と目標に沿った生き方を容易にし、常に成長と進化を保証し、より大きな満足をもたらすのだ。

真新しい世界

パーパスは、個人と組織の両方に効果があることが証明されているが、共有された内部スタッフによる評価を可能にし、ほとんどの人が常に成果を上げられるような効果を拡大させる。パーパス、連携、コミットメント(PAC)のフレームワークは、私たちの時代の重要なニーズに応えている。

コーチのためのヒント

  • 自分自身のパーパスを振り返ってみよう。
  • リーダーシップとフォロワーの関係について、自分がどう考えているかを振り返ってみよう。
  • クライアントとその組織がリーダーシップについてどのように考えているかに注目し、共通のパーパスを開発してみよう。
  • クライアントがPACのフレームワークを取り入れ、持続可能な開発目標を取りまとめられる方法を探索してみよう。

人生の意味は、あなたの才能を見つけること。
人生の目的は、それを解き放つこと。

ーパブロ・ピカソ

Citation:
By, R.T., 2021. Leadership: In pursuit of purpose. Journal of Change Management, 21(1), pp.30-44.

IOC resources:
Let’s disrupt leadership

【付録】人生におけるパーパスに関するマックナイト(McKnight)氏とキャッシュダン(Kashdan)氏による論文より

パーパスの定義

  1. 「パーパスとは、自己の中核を成し、自己を編成する人生の目的である。その目的は、目標を整理し影響し、行動をコントロールし、人生に意味を見出している」
  2. 「パーパスは、限りある個人のリソースをどのように活用するかを導きながら、人生のゴールや日々の決断を方向付ける」
  3. 「パーパスは、行動の決定づけをするのではなく、羅針盤が航海士に方向を示すように、人生の方向を示すものである。その羅針盤(すなわちパーパス)に従うかどうかは自由である」
  4. 「しかし、パーパスに沿って生きることで、人はそれによって目標の追求や達成が可能になり、人生の意味を継続的に持ち続けることができる」
  5. 「パーパスは、分析において最も高いレベルにあり、その人のアイデンティティにおいてある程度核となるものを示す」
  6. 「パーパスの存在は、他の重要な人生の目標よりも重要な持続性につながると予想される。なぜなら、自己の中核を成し、自己を編成する人生の目的は、時や文脈を越えて共感を呼ぶからである」

パーパスの利点

  1. 「パーパスを追求する人は、単なる目的志向の人に比べて、先延ばしなどの回避行動に陥りにくいはずだ」
  2. 「目的を持つことで、人は困難に直面してもあきらめずにやりぬくことができる」
  3. 「パーパスがあることで、より効率的なリソース配分ができそれにより立ち直る能力が高まる」
  4. 「ストレスのかかる出来事の後の復帰に必要な期間は、パーパスを持っている人ほど短くなるし、パーパスを持って生活している人は、病気になりにくく、病気になっても症状を訴えることが少ない」
  5. 「ストレスと満足度の関係は、パーパスとそのパーパスを果たす機会がどれだけマッチングしているかによって決まる」
  6. 「そして最後に、パーパスを持った生活は、そうでない生活と比較して、より長期的で持続的な利益をもたらす」

【筆者について】
ミシェル・シャボー(Michelle Chabot)氏は、幼少期より小説の執筆を始め、戯曲の執筆では受賞の経験を持つ。また、哲学と歴史への興味と情熱を持ち、それはコーチング、リサーチ研究、執筆活動という3つの情熱すべてを生かせるコーチング研究所(IOC)での仕事に結び付いている。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】What is leadership in one word?(2022年7月17日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事