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中島君、手伝ってほしい仕事があるんだけど......

中島君、手伝ってほしい仕事があるんだけど...... | Hello, Coaching!
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「もっとさ、クライアント視点で考えられないの?」
「コンサルタントとして、いろいろな視点でモノを考えられないと!」

この時期、私は、なんだか胸がぎゅーっと痛む感覚を思い出します。十数年前、前職のシンクタンク時代、新入社員で現場に配属されたときのことです。

コンサルティング部門に配属になり、最初は、コンサルタントである上司や先輩のアシスタント業務をしていました。アシスタント業務とは、主に上司や先輩がソリューションを導くための基礎になるデータ収集で、各種資料やアンケートなどから定量分析、現地調査やヒアリングなどからの定性分析など、基礎の基礎を徹底的に繰り返すというものです。

とはいえ、先輩から手取り足取り教えてもらうという形式ではなく、徒弟制度のような形で、「先輩の背中を見て育つ」「技術は盗め」的な文化が、当時のその職場にはありました。

そして、フィードバックといえば「ダメ出し」ばかり。しかも、具体的にではなく、「やり直しだから」「3時間後までね」「自分で考えて」といったおおざっぱな内容。そのやりとりは、当時の私にとっては結構ストレスフルで、その時のことを思うと、冒頭の「ぎゅーっ」と締め付けられる痛みを思い出します。

こう言ってはなんですが、「ろくに教えてくれもしないのに『ダメ出し』ばかり」。その後の指導も、「具体的な指摘なしに『自分で考えて!』」というのは、今から考えても相当迫力ある職場です(苦笑)。

そして、最後に言われるのは、いつも冒頭の一言です。

「もっとさ、クライアント視点で考えられないの?」
「コンサルタントとして、いろいろな視点でモノを考えられないと!」

「分かってますよ、能力がないのは。クライアント視点って言ったって、何考えりゃいいのよ...」と、口には出しませんでしたが、態度や顔は不満たらたら状態になっていたと思います。

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そんな、ひとりでふてくされていたある日、職場の先輩Nさんが声をかけてくれました。

「中島君さ、ちょっと手伝ってほしい仕事があるんだけど......今いい?」

他の先輩からは「ダメ出し」ばかりだったので、自己効力感を全く失っていた新人中島君は、ちょっと警戒しながら返事をしたように記憶しています。

「どんな仕事ですか?」
「いや、ここに僕がA社に向けて書いたレポートがあるんだけど、中島君に読んでほしいんだ。でね、おかしなところあったら、赤ペンでガンガン書き込んでほしいんだよね。今日の夕方までにお願いしたいんだけど、できる?」

はぁ? 先輩が書いたレポートを、新人が赤ペンでチェックする......? 私にとっては、何がなんだか分からないオーダーでした。当時、その職場では、そんな仕事を任されることは全くありませんでしたから。戸惑いながら私はNさんに、こう言いました。

「僕はこの分野のこと、全くといっていいほど知らないんですが......」

すると、Nさんは、ケラケラ笑って、こう言いました。

「いいんだよ、中島君、それで! 何にも知らなくていいの! だって、クライアントだって、この分野のことを知らない人たちなんだから。クライアントになりきって、素人になりきって、このレポートを眺めてくれればいいんだよ。

ほら、うちらって、つい専門用語とか特殊なロジックを、当たり前のように使っちゃうだろ。それがお客様からすると、全然分かんなかったりするわけよ。それって、丁寧な仕事じゃないだろ? 中島君は、お客様になりきって、『初めてこのレポート読みます!』という感じでビシバシ赤入れを頼むよ!

今回は、A社の経営企画室に所属するBさんに提出するんだ。Bさんはね、堅物で、結構、細かいタイプなんだよ。口うるさくってね。というBさんに、中島君が完全になりきってくれればいいんだよ!」


唖然としました。はじめは、どういう風にチェックしたらいいのかも分かりませんでした。しかし、その後も、Nさんは何回も、何回も、私にこうした赤ペンの仕事を投げてくれました。何回もオーダーをいただくからには、私も徹底的に「なりきること」に努力しました。

経営企画の人って? 口うるさいタイプって? 経営者って? 自動車業界って? スーパー業界の店長って?......。思いを巡らしながら、いろいろな本を読み漁りました。

「その業界にいる人は、どういう生態なのか、業務をしているのか?」
「どういう考え方で、どういう生活をしている人たちなのか?」
「その中で、どういう経営者が多いのか?」
「オーナー社長は何を考えて経営している人が多いのか?」
 
といったことを、本で学ぶのはもちろん、現場に行って頼まれてもいないのに従業員の方にヒアリングをするなどして、業界を知る努力をしました。

また、毎回のレポートで、先方はどういう反応だったのか、どういう質問やコメントをしたのかを、Nさん経由で聞いたり、自分もプロジェクトメンバーに入れるようになってからは、直に先方の言葉を聞いたりしていったことで、自分の視点に修正をかけていきました。


その繰り返しを経て3ヵ月くらい経った頃でしょうか。私自身にいくつか変化が生まれてきました。

ひとつは、Nさんから依頼される資料を見ると、一瞬にして「誤字脱字」が目に飛び込んでくるようになったこと。そして、担当者の視点だけでなく、経営者の視点、エンドユーザーの視点、と様々な視点でレポートを見られるようになったこと。

最後に、これが一番驚いたのですが、先輩方からいただく、自分が書いたレポートへの「ダメ出し」が「極端に減った」こと。

きっと、自分がNさんに赤ペンを入れることによって、複数の視点を手にいれることができたように、自分自身の書いたレポートにも、いつの間にか自分自身で赤入れができるようになったのでしょう。

「クライアント視点で」とか「様々な視点で」というのは、口で言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいものです。その人の視点からフィードバックをすることで初めて、その人になりきることができ、なりきることを通じて視点は増えていくのだと痛感しました。

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この時のことを思うと、Nさんに対する感謝の気持ちと、昔の「ぎゅーっ」とした痛みが、「すーっ」と開いていく感じがします。

また、Nさんと会いたいな。そんな季節です。

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