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新しいリーダーに求められる「トランジション・マネジメント」

[原題]トランジション・マネジメント
新しいリーダーに求められる「トランジション・マネジメント」

多くのリーダーは、これまでのリーダーシップ論に基づいて現実に対応しようとするために、移り変わりの激しい状況に適応できなくなっている傾向が見られます。

グローバルでマネジメントする人が直面している課題のキーワードのひとつに、「トランジション(transition)」が挙げられます。

トランジション(transition)は、「推移、変遷、移行、過渡期、変わり目」などの意があり、一年に数回起こる変化への対応と違い、常に変わり続ける、現代のビジネス環境の特徴的な「プロセス」と言えます。それゆえに、リーダーには、高い「不測事態対応能力」が、求められるようになりました。

「チェンジ」と「トランジション」の違いとは?

このことを、コーチであるBeth Densmore氏は次のように表現しています。

「『チェンジ』と『トランジション』という言葉は、同じ意味として交互に使われることが多い。しかし、実は、この2つの言葉は、かなり離れた、違う意味を持つ。『チェンジ』は、『1回の出来事 (one-time occurrence)』である。

一方で、『トランジション』とは、『チェンジ』に取り組む『進行中のプロセス』のことである」(※1)

と。

新しいリーダーには、「トランジション・マネジメント」の「テクノロジー」が求められています。しかし、2015年に、PwCが、6,000名の上級経営幹部 (senior executives)を対象に実施した調査によれば、

「『戦略的リーダー (strategic leaders)』あるいは、『変革を効果的に率いていけるリーダー』といえるリーダーは、8%だけだった」という結果が出ています。(※2)

これほどにも低いパーセンテージである理由について、調査を実施したPwCのLeitchらは、次のように説明しています。

「ほとんどの企業には、『現状を維持する』ために必要な高いオペレーション能力を持ったリーダーはいる。ところが、今は、『ビジネスのやり方そのものの変化』を要求してくるような『厄介な問題(wicked problems)』が起こっている」(※2)と。

「トランジション・マネジメント」の「テクノロジー」とは、「変化」を今まさに進行中のプロセスとして、組織の隅から隅まで、水平にも、垂直にも継続的に、「関わりという相互作用(interactions)」を起こすことによって会社の目的を実現していく能力と言えます。

そこには、2つの具体的な能力が求められます。1つは、もちろん「仕事の能力(専門性)」。しかし、「仕事の能力」だけでは、組織の経営は回りません。他の能力も必要なのです。それが、2つ目の「関係構築」能力です。

現場にいる人たちとコミュニケーションを交わして、未来を予測し、お互いに状況を把握、認識し、協力して対応できる体制を創り続けていなければなりません。

変化が起こってからではなく、起こる前から、また起こった後も、今何が起こっているかを共有し、対応する方法を共に創る、すなわち「共創」しなければなりません。

これまで企業組織は、コミュニケーションを「上から下に流れるもの」として捉えてきました。

しかし、現状に挑戦し、現状に対応するためには、上で考え、下が実行するといった一方通行ではもはや対応仕切れなくなっています。今起こっている事や、それに対応する方法を、組織全体が考えている状態にしなければなりません。

では、組織が考えるということは具体的にどういうことなのでしょうか?

トランジション・マネジメントのポイントとは何か?

ドイツの哲学者 ハンナ・アーレントは「thinking 考えること」を「自分との対話」と定義しました。それを基に、Margaret Heffernan氏は、「組織が考える」ということは、「社員間で対話が交わされること」と定義しています。(※3)

つまり、「対話」は、情報交換しているだけではなく、それを交わす人たちに「考える」機会を与えているのです。

重要なポイントは、

問題解決のための答えや、イノベーションに繋がるアイディアも、たった一人の頭の中にあるのではなく、いかに他の脳と繋がっていられるのかにかかっているのです。

「他の脳(他の人たち)と繋がっていく」ことで、新しいイノベーションや発明等を起こしていく。リーダーがたった1人の頭の中で、ではなく、組織の中で、あるいは、組織を超えて、人と「対話」を交わすこと。

現代のグローバル企業が直面している課題を考えれば、「一人で考える(thinking alone)」は、もはや適切でないことは明らかです。あらゆるところで、人間は、「一緒に考える(thinking together)」の能力を開発することを求められています。

しかし、ここに、難しさがあります。「対話」する、ということは、カオス(の世界)に入っていくことであり、必然的に、人のストレスは高くなるのです。ストレスが高くなると、人は、また「個人」(の殻)に戻ろうと、閉鎖的な考え方をするようになりがちです。それは、人間の生理的な反応として起こりうることです。

今回のPwCの調査によれば、「戦略的リーダー」の人格的特徴 (personal traits)として、以下のようないくつかの共通点が見られたそうです。(※3)

・攻撃や皮肉的な態度を引き起こすことなく、既存の有力な視点(view)に挑戦することができる
・「大局(big picture)」と「局所(small picture)」の両方に、同時に行動することができる
・選んだ道が間違っていることが分かったら、コースを変えることができる
・「主張(advocacy)」だけではなく、「問い(inquiry)」によっても(人を)導くことができる
・その間、ずっと、他者に対する深い謙虚さと敬意をもって、経営していくことができる


組織開発の変革の流れは、社員のための(for)「伝統型組織開発(Traditional OD)」から社員と共による(with)「現代型組織開発(Contemporary OD)」、そして最近では、社員による(by)「発現型組織開発(Emergent OD)」という動きも見られるようになっているそうです。

会社を経営していく上で、つねづね非常に重要だと思ってきたことは、既存の「枠」から、いかに自由になれるか、という可能性を考えることです。

「型」にはめるわけではない、「今ここ」で、相互作用が起こりうる「場」を創り出せるかどうかは、「戦略的リーダー」のテクノロジーではないかと思います。

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【参考文献】
※1 Densmore, B., Change vs Transition, awakening-institution
※2 Leitch, J., et al., 2016, 10 Principles of Strategic Leadership, PwC, May 18, 2016 
※3 Heffernan, M., 2015, Beyond Measure, Margaret Heffernan

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