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つながらない執行役員
コピーしました コピーに失敗しました現在10人のCEOにエグゼグティブ・コーチングをさせていただいています。会社規模は、売上ベースで1000億から1兆円まで、多岐にわたります。
テーマは会社ごとに様々ですが、共通している課題もあります。それは、執行役員の横のつながりが希薄であることです。
「執行役員同士がお互いの事業に対して無関心である」
「執行役員会議が単なる報告の場となっていて、意見を言い合うことがない」
「執行役員の間に壁がある」
表現の違いはあれ、CEOは執行役員の課題を色々と語ってくださいます。
それにしても、なぜ、こんなにも執行役員の横のつながりは薄いのでしょう。
執行役員30人に行ったサーベイ結果から見えたものとは?
取締役全員が執行役員を兼務しているある会社のCEOは、この課題に向き合うために、執行役員30人に対してサーベイを実施することを決めました。執行役員の間には、実際、どのくらいの対話があるのか。
結果、執行役員間の対話はとても希薄であることが明らかになりました。特に、会社の理念や顧客に提供している価値についての対話がほとんど成されていないことがはっきりしました。
この結果を、CEOが経営会議で共有する場に同席させていただきました。
会社が古い殻を破って新しく生まれ変わるには、執行役員間の対話が必要である、と話すCEOに対して、ひとりの役員が意見を言いました。
「執行役員とは、事業の責任者です。事業を任され、その責任を果たそうとしている。であれば、お互いを信頼して任せるべきで、横から口を出すべきではないのではないでしょうか。それに、その立場にもなれば、当然、理念や提供している価値を理解しているはずです。多忙を極める中、そうしたことについて話す時間はとれないのが実状です」
執行役員間の対話を毀損させているものがどのようなマインドセットなのか、その一端を垣間見ました。
執行役員間の対話の実態に潜むもの
日本では、1997年6月にソニーで初めて執行役員制度が導入されます。
例えば米国では、COO(Chief Operating Officer)、CTO(Chief Technical Officer)、CIO(Chief Informaiton Officer)など、事業別ではなく機能別に分かれていることが多く、その軸で「全社」を見ることを責務としています。
CIOの場合、単に情報システム部門の責任者としての意識にとどまらず、情報を経営戦略上どのように利用するかを考える役割ということになります。また、各事業のトップはVice Presidentと呼ばれることが多く、President(社長)を補佐する役割になります。
米国企業に縦割り意識がないわけではありませんが、「Officer」や「Vice President」といった呼称に、「縦割り意識」を助長するものはありません。
日本の執行役員制度は、「誰が何の責任を負っているか」を明確にする主旨の基で生まれたものです。しかし、各事業のトップを「執行役員」という呼称にするのは、どうも、会社の経営を分断し、全社視点を断ち切ることを促しているようにも思えます。
「あなたは、"その事業"の役員です。責任をもって、"その事業"を執行してください」
こうして、元々一緒にやっていたのに、全社視点が薄れ、どことなくばらばらになってしまったということはないでしょうか。
前述の「執行役員はお互いに口を出すべきではありません」と啖呵を切った役員に、その後個別に会う機会があり、伝えました。
「隣の執行役員が困っていたら、助けませんか?
お互いに視点を提供しませんか?
うまくいっていることを共有しませんか?」
こちらの言い方がきつかったのかもしれません。むすっとした顔をこちらに向けて、「それはそうですよ」と不承不承に同意されていました。
「つながる執行役員」は何をしているのか?
一方、先日、ある会社で執行役員も兼任している取締役お二人を訪問する機会がありました。
聞くと、この会社の執行役員たちは普段からお互いに歯に衣着せず、言いたいことを言い合っている。お互いに遠慮してものを言わないということは無縁だ、と。
何よりも、私の目の前にいる二人は明らかに、「つながっている」。久しぶりに見る執行役員の横連携。心の底から強い興味がわき起こりました。
「なぜ!?」
その質問をストレートにぶつけました。
「実は、2年かけて、
『この会社は、一体何の価値を顧客に提供しているのか?』
『我々は何のために存在しているのか?』
を、執行役員たちで侃侃諤諤話し合い、セリフにまとめました。だから、執行役員の間には、自分たちはひとつのまとまりとして顧客に価値を提供している、という意識があります」
2年!!!
1日、2日のワークショップなんかではなく、2年!
執行役員なのだから「会社の提供価値など熟知している」とあぐらをかくのではなく、「この会社の提供価値は何なのか?」という、ひとつのシンプルな、しかしおそらく最も会社にとって大切な問いを執行役員で共有し続ける。
一度答えに行き着いても、それで終わりとするのではなく、もう一度お互いの間で問い直す。「提供価値はなんだ?」「どこに向かっているんだ?」と。
実際に試してみると実感いただけると思います。お互いの間にエネルギーが生み出される感覚を。
執行役員をつなげるための大きなヒントがそこにはあります。
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