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自分に見えるものだけで判断していないか

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Language: English

新型コロナウイルスが昨年末に中国武漢市で発生して以来、これまでに196の国・地域で約2400万人の感染が確認され、未だ感染拡大は止まっていません。

そんな中、私が駐在する上海では、累計感染者数342人、現在の感染者数はゼロです(2020年8月27日現在:海外からの輸入症例を除く)。この情報に疑問を呈す声も少なくありませんが、コロナ発生時から現地で生活してきた私には嘘だとは思えず、封じ込めに成功したことは間違いないと思います。

駐在員の間では、封じ込め成功の理由がよく話題に上ります。政府による対策の成果が大きいことは間違いないものの、何より「国民一人ひとりが徹底した自主隔離で身を守ったこと」が大きな要因だったのではないかというのが大半の意見です。

しかし、この「国民一人ひとりが自主隔離で身を守った」理由についての意見はさまざまです。

さまざまな解釈があれど、信じるものは一つ

「政府に対して協力的だった」
「自分の身は自分で守るという意識が強かった」

というポジティブに聞こえる意見もあれば、

「罰せられるのを恐れていた」
「目に見えないウイルスに対し、異常なほど臆病だった」

といったややネガティブに聞こえる意見もあります。

どれが正解かはわかりませんし、むしろ、全てが正解かもしれません。興味深いのは、さまざまな解釈が存在するにもかかわらず、複数の解釈(視点)をもっている人が少なかったことです。

「おおむね正しい。しかしときには決定的にまちがっている」

心理学に「ヒューリスティクス」という「経験則から直感で素早く答えを出す」思考法があります。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマン氏は著書の中で、経験則から直感で導き出した答えは「おおむね正しいが、ときには決定的に間違う」ものだと述べています(※1)。一人の人間が経験できることに限りがあるにもかかわらず、それがすべてだと思い込んでしまうために、ときには「決定的に間違う」可能性があるわけです。

前述の「国民が自主隔離で身を守った」という行動に関する解釈についても、自分が目にしたもののみから判断しているからこそ、さまざまな意見の違いが出てきたのでしょう。

何を不安に感じているかは人それぞれ異なる

私自身はといえば、新型コロナ感染拡大当初、顔にはゴーグルとマスク、雨合羽を着て、ビニール手袋をして出社してくる中国人部下たちの様子を見て「細心の注意を払う必要はあるが、少し恐れすぎではないか」と感じていました。

ところが、定期的な面談での対話を通し、背景が一人ひとり違うことに驚きました。表面上、同じような行動を取っているにもかかわらず、その理由がまったく違ったのです。

家の中で多くのネット情報にアクセスしている独身社員は、とにかく怯えている。
幼い子どもをもつ社員は、経済的な先行きに不安感をもっている。
三世代で一緒に暮らしている社員は、家の中で仕事をすることにストレスを感じている。

必ずしもウイルスそのものを恐れているわけではないこと、また、恐れにも各々違いがあることが理解できました。

このことがわかり、その後の勤務体制等を柔軟に考えることができました。一人ひとりと定期的に対話をしていなければ判断を誤ったかもしれませんし、特定の人の話だけ聞いていたら、偏った施策になったかもしれません。

バイアスに気づくのは難しい

ハーバード・ビジネス・レビュー2016年1月号の記事『直感に惑わされるな』では、

「人は誰でも、バイアスという思い込みなどの影響を受けるものだ。バイアスはなぜ生じるのか。それは直感に頼りすぎている、または論理的思考が不完全である、あるいはその両方が同時に起きているからである」(※2)

「いかに優秀なひとでも、判断や選択の際にはバイアスがかかる。純粋に意志の力によってバイアスを克服できると考えるのは無謀だ」(※2)

と、ヒューリスティクス(=直感)によりバイアス(=思い込み)が生じること、そして、そのことを理解しないと、「決定的に間違う」可能性を警告しています。

バイアスは無意識にもつことが多いため、自分がどんな思い込みをもっているかに気づくのは難しいものです。

経営の上層部になればなるほど、厄介で困難な問題に対し、重要な意思決定をしなければならない場面は増えます。スピードを求められるケースも少なくなく、直感、または経験値に頼ることもあるのではないでしょうか。

しかし、「いつも」「絶対」「必ず」はありません。無意識に固定化した視点に気づくことができれば、その他の視点を手に入れることができ、選択の幅も広がるでしょう。それを促すのが、「コーチとの対話」なのかもしれません。

あなたはどのように意志決定していますか? そこにはどんなバイアスが潜んでいる可能性があるでしょうか。

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【参考資料】
※1 ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)、「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」下巻、早川書房、2014年
※2 「『動機付けのあるバイアス』を克服する方法 直観に惑わされるな」(ハーバード・ビジネス・レビュー 2016年1月号)ジャック B・ソル、キャサリン L・ミルクマン、ジョン W・ペイン(著)、高橋由香里(翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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