Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
スーパー アクノレッジメント
コピーしました コピーに失敗しましたコーチ・エィは、常に先の未来を見据え、その未来を変化させるリーダーをコーチします。組織の中にリーダーを増やすことで、組織変革を実現していきます。
「組織変革プロジェクトにおけるコーチングで、もっとも大事なことは何か」と10人のコーチに尋ねたら、10通りの回答が返ってくるかもしれません。
私自身は、人と人との関係性に焦点を当てた組織変革を実現していく際に、コーチとしてもっとも大事なあり方の一つは「アクノレッジメント」だと考えています。
なぜならば、コーチ・エィが前提とする「人はすべて関わりの中に生きている」という考え方においては、「自分の存在が認められている」という自覚をもてない限り、自分が所属する集団や組織に貢献しよう、という主体化は起きないのではないかと考えるからです。
アクノレッジメントとは何か
アクノレッジメントとは、
「相手の存在を認め、さらに相手に現れている変化や違いにいち早く気づき、それを言葉にして相手に伝えること」
です。
これは「よいところを見つけてほめる」こととはまったく違います。むしろ、「よいところ」を見つけようなんて探し始めると、アクノレッジメントはできません。「よい/悪い」は、伝える側の判断軸が反映され、「評価」につながるからです。
「よい/悪い」もなく、ただ自分が相手から受け取っている影響を、そっくりそのまま伝えるのが「アクノレッジメント(存在承認)」です。
また、挨拶も、短いメールの返信も、「あなたがそこにいることを知っている」、つまり「存在を認めている」というメッセージになります。ほんの小さなことですが、自分が挨拶されなかったり、メールの返信が来なかったりしたときを想像すると、ほんの小さなことが、関係性においてどんなに大きな意味をもつか、イメージできるのではないかと思います。
関係性をスタートさせるためにも、深めるためにも、変化させるためにも自分からアクノレッジメントする、という選択ができるかが、コーチにもリーダーにも問われます。
私の知っているスーパー アクノレッジメンター
私には、アクノレッジメントに関する最高のモデルがいます。自宅の近所のスーパーマーケットの店員、Kさんです。Kさんは、私を8年以上アクノレッジし続けてくれています。
自宅から徒歩圏内にはスーパーマーケットが複数軒ありますが、Kさんの存在が私の足をそのお店に向けさせます。商品そのものにさほどこだわりのない私は、言葉通り、Kさんに会いにそのお店に通っているのです。
Kさんは、メガバンクを定年退職した後、息子さん夫婦が住む東京に移り住み、パート社員として、一度やってみたかったという「店員さん」を始め、それが楽しくて、10年以上続けているという方です。
Kさんのアクノレッジメントは挨拶から始まります。しかも、店内の遠いところからでも、大きめの声で、
「いやー、どうもどうも、片桐さん」
と、自分が取り掛かっていた仕事は脇に置いたまま私に近寄ってきて、そこで立ち話が始まります。
「今日は、どちらからですか?」
から、「店員とお客の関係でそこまで聞く!?」と思うようなことまで、Kさんは私にたくさんのことを問いかけてくれます。また、
「髪切りましたね、なんだか若く見える」
「今日は荷物が多いね、大変だな。お母さんちょっと顔が疲れてる」
「(子どもに)また会えて嬉しいなぁ」
と、Kさんに見えたまま、感じたままのことを教えてくれます。
8年間もそんな話をし続けてきたので、私や夫が今どんな仕事をしているのか、これまでどんな仕事をしてきたのか、ご近所づきあい、生い立ち、出身地、出身大学、趣味、これからのこと、など、Kさんは、我が家のことをたくさん知っています。
私たち家族も、Kさんのことをたくさん知っています。子どもと一緒にいれば、毎回、
「また大きくなったなー、ちょっと待ってて」
景品のあまりや、試供品を取っておいてくれたのでしょう。趣味に合う喜びそうなものを見つけて、プレゼントしてくれます。
Kさんのアクノレッジメントの対象は、私たちの家族だけではありません。もちろん、他のお客さんにも同じことをしていて、それでは仕事が進まないだろうにと、こちらが心配してしまうほどですが、そこは時間を上手に工面しているのでしょう。
「Kさんがいてよかったな、また来てよかったな」
毎回そう思いながら帰宅できるスーパーはこのお店だけです。
相手の存在を認めるアクノレッジメントとは
Kさんを見ていて思うのは、アクノレッジメントにおいて、特に大切なことは、世界中で自分にしか伝えられない体験を「正直に」「具体的に」伝えることだということです。
相手との関わりの中で、自分に見えていること、聞こえていることを伝えるのは、
「あなたは確かに私に影響を与えた存在である」
という、相手の存在そのものを認めるメッセージに他なりません。
先述のKさんの、
「お母さん、顔がちょっと疲れてる」
「また会えて嬉しい」
というメッセージは、非常にシンプルですが、その瞬間にKさんが私を観察し、キャッチした、見えていること、聞こえていることそのものです。
私とKさんの間には、これらのメッセージが「体験」として8年分蓄積されているように思います。
コーチは相手をアクノレッジメントをするために存在しているといっても過言ではありません。もしも今、あなたが誰かをコーチしている、開発しているとしたら、改めて相手から受け取る影響を正直に具体的に言葉にしてみませんか? それはきっと、あなたと相手の関係性を変化させる、価値ある取り組みになるに違いありません。
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