Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「主観」の可能性
コピーしました コピーに失敗しましたコーチ・エィに入社する前、私はコンサルティングファームでコンサルタントとして、約20年間にわたり企業の変革を支援していました。
コンサルタントからコーチに転身した私が感じるコーチングの大きな特徴は、「客観」ではなく「主観」を扱うことにあるのではないかと思っています。
コーチングに感じた可能性
コンサルタント時代に大事にしていたのは「客観的」であること。
論理的に課題を構造化し、ファクト(客観的事実)を重視し、客観的分析に基づいて戦略を立案。そこから新しい業務プロセスをつくり、システム、制度をつくる。クライアント企業の変革に向けて、そんな支援を行っていました。クライアントからも外部の視点で見てほしいと言われましたし、それこそが価値でした。
しかし、うまくいかない状況にもたびたび遭遇しました。
新しい業務・システムを導入しようとすると、現場から抵抗に遭うことがあります。そんなとき、いくら「これが正しい」と言ったところで納得が得られるものではありません。なぜなら現場にとっての「正解」は、彼らが現在やっていることだからです。
また、部署間の利害の対立も変革の阻害要因となります。対立の解決に「正解」はなく、適切な解決策を提示することができませんでした。
そんな私はコーチングに出会い、今までと違ったアプローチで企業の変革を支援できるのではないか、今まで欠けていた部分を埋められるのではないか、とコーチングの世界に飛び込みました。
主観を大事にするとは
コーチ・エィに入社して驚いたことが2つあります。
一つは、シェア(共有)の概念です。私は「シェア」といえば、他社事例や最新技術など相手にとって有益な知識・情報をシェアすることが大事だと思っていました。しかし、コーチ・エィでは自分が感じたこと、主観のシェアを大事にしていました。最初は「自分の主観を伝えて、いったい何の価値があるのだろう」と疑問に思いました。
二つ目は、コーチングでは「コト」ではなく「ヒト」を扱えとよく指摘されたことです。「コト」とは「課題」です。コーチングでも、クライアントにとっての課題を解決したくなるのですが、課題ではなく、「あなたはどうしたいのか」とクライアント自身について問いかけることが大切だというのです。
こうして「主観」を大事にすることには、どんな意味があるのでしょうか?
主観を大事にすることで、人は何を手に入れるか
コーチになりたての頃、昔からの友人にコーチングをしました。彼は起業したばかりで、自分の会社のビジョンを創ることがゴールでした。彼はさまざまな仕事の経験がありましたが、その分一貫性がなく、自分がやるべきことを明確に定めたいと考えていました。
私は、コーチングで彼が何をしたいのかを何度も問いかけました。するとあるセッションの冒頭で、彼はとても嬉しそうにこう言ったのです。
「いままでバラバラだと思っていたことが、実は自分のゴールに向かって積みあがっていたことに気が付いた! X軸でみたらバラバラだったけど、新しくY軸ができたイメージ。今まで通りやっていけばいいんだよ」
何をしたいのか、彼にとってどんな意味があるのか、彼の「主観」を問い続けることで、いままでバラバラに見えていたものに、新しい意味づけが起こったのです。それによって彼の見る世界が変わりました。もし私が、彼のやってきた仕事を客観的に分析し「ここに共通点があるよ」と言っても、同じことは起こらなかったでしょう。これは私にとって衝撃的な出来事でした。
「主観」を大事にすることは、組織に何をもたらすか
では、「主観」を大事にすることは、組織にとってはどんな意味があるでしょうか。
私のクライアントであるAさんは、部下といつも衝突していました。私にはAさんが、常に自分の「正しさ」を証明しようとしているように見えました。私はAさんに問いかけました。
「Aさんは、XとYという意見があると、どちらが正しいかをいつも考えているように見えます。XとYからZという新しい選択肢は生まれないのでしょうか?」
その後、Aさんの部下は、Aさんの支援のもとで新しいプロジェクトを社内で立ち上げました。Aさんは部下との間で、お互いの「主観」のどちらが正しいかを「議論」するのではなく、お互いの「主観」を認め合ったうえで、一緒に新しいアイディアをうみだす「対話」を体験したと言っていました。
人の集まりである組織には、こうした例がたくさんあるのではないでしょうか。コンサルタント時代に遭遇した課題も、主観を大事にすることで出口が見えるような気がします。
たとえば、「やり方を変えたくない」という現場の抵抗にあった際、「正解」を示すのではなく、彼ら自身がモノの見方を変えて、新しいやり方に「意味付け」をできるとしたら。
たとえば、部門間の対立が生じたたきに、どちらが正しいかの「議論」ではなく、お互いの「主観」を認め合い、「対話」により第三の選択肢を共創することができたとしたら。
主観を大事にすることで、組織の変革は大きく前進するのではないかと思います。
VUCAの時代に大切なもの
「客観」と「主観」のどちらかが正しいわけでも重要なわけでもありません。組織にとっては、客観的な事実・論理に基づいて正解を導き出し、決断をすることも必要です。
ただ、変化の激しいVUCAの時代において、「正解」は「見つける」ものではなく「創っていく」ものだと考えると、組織にとって「主観」を扱う能力の重要性が増しているといえるかもしれません。
一人ひとりが自らの「解釈」を振り返り、新しい意味を見つける。解釈が変わることで、世界の見え方が変わる。新しい可能性がひらける。周囲の仲間と主観をぶつけ合い、お互いの「違い」を認め合いつつ、ともに新しい未来を創っていく。
こう考えると、私自身はワクワクします。
コーチングを通じて組織が変化すると同時に、一人でも多くの人がやりたいことを自分で選び、未来を創っていく。そのことに貢献したい。それが、私がコーチというキャリアを「選んでいる」理由です。
あなたは何をしたいですか? どんな未来をつくりたいですか?
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