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リーダーシップに変化をもたらす他者との対話

リーダーシップに変化をもたらす他者との対話
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コーチングの焦点は「行動変容」にあります。同じことを繰り返しているだけでは、目標の達成は難しい。新しい行動が不可欠です。とはいえ、行動変容は、決して簡単なことではありません。「わかる」と「できる」の間には、大きな溝があります。

やることはわかっているのに、後回しにしてしまう。
人に頼んだほうが早いことを知りながら、自分でやってしまう。

このように、わかっていてもやれていないことは、みなさんの身近にもたくさんあるのではないでしょうか。

「わかる」と「できる」の間にあるもの

わかっていてもできないことの一つに、リーダーシップの変化が挙げられます。360°フィードバック等で、自分のリーダーシップのテーマが明らかになったからといって、何も変わらないという現象は、残念ながらよく起こっていることだと思います。

では、行動を変えるには、何が必要なのでしょうか?

リーダーシップ論の研修者であるロナルド・ハイフェッツは、私たちが直面する課題を「技術的な課題」と「適応を要する課題」に分類しました(※1)。前者は、たとえ高度であっても、何を身につければいいかが明確であり、手順や訓練を経て解決できる課題です。一方で後者は、技術の習得だけでは対応できない課題を指します。

ハーバード大学教育学大学院教授のロナルド・キーガンは、著書『なぜ人と組織は変われないのか』の中で、適応を要する課題について、「新たにやろう、変えようとすることに対し、阻害行動となる裏の目標が存在し、強力な固定観念がそれを支えているため、容易に変化できない」と説明しています(※2)。キーガンは、その本の中で、それを克服し、変わるためのプロセスを詳細に示していますが、ここでは、ある一つの行動に焦点をあてて行動変容へのヒントを探りたいと思います。

わかっていても変えられないジレンマ

ある素材メーカーのクライアントで、役職が上がるというトランジションをコーチさせて頂いた時の経験です。

役職が上がると、自分の専門領域ではなかった領域にまで担当が広がります。新任の事業責任者となったA氏は、そのトランジションに苦労していました。

A氏はそれまで、担当領域のエキスパートとして、起きている問題への対処はもちろん、想定される問題についてもあらかじめ予測し、組織として対処をしていくことで、成果を上げてきました。しかし、事業責任者になり担当領域が広がると、自分の専門領域以外では十分なリーダーシップを発揮することができず、パフォーマンスの低下、メンバーとの関係性が悪化し始めました。A氏自身、専門領域以外の領域により多くの時間を費やす必要を感じていましたが、行動を変えられないまま時が過ぎていきました。

A氏とのコーチングの序盤で行った360°フィードバックアンケートは、予想通りの内容でした。今の職責でリーダーシップを発揮できていないという主旨の厳しい言葉が並び、コーチである私が見ても、A氏が感情的な反応を起こしても不思議ではない内容でした。

* * *

A氏と私は、フィードバックの結果を間において、その内容について評価・分析をするのではなく、どこからこの内容が生まれているのかについて話しました。

フィードバックの際に気をつけたいのは、フィードバックを「正解」として改善に向けた処方箋として扱ってしまうことです。フィードバックは、それぞれの人が見ている現実を知る機会に過ぎません。ですから、相手との関係性から現実が作られているという前提に立ち、クライアントと対話していくことが重要です。

そんな中でA氏が出した一つの仮説は「経験のない領域を担当する直属の部下たちと、本音で話せていない」ということでした。

その後のA氏の行動は早く、翌週には、厳しいフィードバックをした本人たちとの1対1の面談を実施しました。そして、次のセッションでA氏は「成果を上げていくのはこれからだが、自分が何をやればいいか、それに対し周囲はどのようの応えてくれそうか、これまでとは全然違った手応えを感じている」という話をされました。

コーチングでは、A氏のリーダーシップのどこに問題があり、どうしていくかということについては、特に触れていないにも関わらず、A氏は自分自身のリーダーとしての在り方に確かな自信を持ったように見えました。

A氏の変化を嬉しく思いつつ、A氏と部下との面談でどんなやりとりがあったのだろうと興味が湧きました。

原動力は対話による関係構築

私は、あるきっかけから、A氏が対話したうちの一人であるB氏から話を聞く機会があり、
A氏の変化の原動力を知ることができました。

B氏は、A氏から1対1の面談の連絡が来た際に、これまでに感じていた不満や要望などをはっきりと伝え、強い姿勢でA氏に臨もうとしていたそうです。それに対してA氏は、

「この役割を担うようになって、ずっともやもやと抱えてきたことを、フィードバックをもらってはっきり認識することができた。自分でも変えたいと思っているが、正直言ってうまく行動できていない。あなたたちにリーダーとしてどう思われるか、不安をもっていた」と話し、「これからよくしていくために、協力をしてほしい」

と続けたといいます。B氏は

「当初、私が思っていたことは、Aさんのこの切り出しによってどこかに消えてしまいました。その後は、これからどうよくしていけるかを互いに話し合いました」

と話してくれました。

原動力となったのは、当事者との対話による関係構築です。そしてそれは、A氏が自分の状況を正直にB氏に伝え、協力を求めたことによってもたらされました。A氏が単に「詳しいフィードバックを聞かせてほしい」というスタンスで関わったのであれば、B氏は用意していたことを伝えるだけで終わっていたかもしれません。B氏に見えている世界を一方的に聞くのではなく、A氏が意図を持って自分の本音を共有したからこそ、両者間に信頼関係が醸成され、お互いに共有できる現実をつくっていくことが可能になったのだと思います。

相手について情報がない状態は人を不安にし、悪い想定ばかりが頭に浮かびやすいものです。直接対話し、両者の間で共有できる現実をつくることが、行動変容を求められる課題への対処を加速させていくのではないでしょうか。

あなたは行動を変えるために、まず誰と対話しますか?

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【参考資料】

※1 マーティ・リンスキー (著)、 ロナルド・A・ハイフェッツ (著)、竹中 平蔵 (翻訳)『最前線のリーダーシップ』、ファーストプレス 、2007年

※2 ロバート・キーガン (著)、リサ・ラスコウ・レイヒー (著)、 池村千秋 (翻訳)『 なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践』、英治出版、2013年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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