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あなたの「準拠枠」に気づくことで開かれる可能性
2021年08月25日
コーチング研究所が行った、新型コロナウイルス流行前後での上司・部下の関係性の変化に関する調査の中に、部下の「組織へのコミットメント」に関する項目があります。(部下本人回答)
約半数の部下が自身の組織へのコミットメントは「変わっていない」とし、約2割が「低下した」としている一方で、「増した」という部下が4割以上を占めました。
コロナ禍が組織へのエンゲージメントやコミットメントに及ぼした影響については、様々な議論が展開されています。ポジティブなのか、ネガティブなのか、または特に影響していないのか、まだ統一的な見解に至っていないのが現状だと思われます。
ただ、この状況のなかでも、部下の組織に対するコミットメントを増加させることができる可変要素があるとしたら、それはぜひ考えてみたいポイントではないでしょうか。そうした視点から、今回の調査の記述回答を見ていくと、興味深い声がいくつか聞かれました。
【部下回答】
以前より裁量が増し、仕事・組織への責任感が増した。
【上司回答】
これまでのマネジメントができなくなり、思い切って部下に任せた。
任せたことで、部下の主体性が増した。
コロナ禍で働く環境が変化し、上司が従来のマネジメントを続けることが難しくなった。上司はその状況を受けて、部下に「任せる」という選択をしたことで、部下の裁量が増した。その結果、部下の仕事の中身・範囲が変わり、見えてくるものが変わり、仕事や組織に対する意識に変化が生じた。
こんなプロセスが、冒頭のグラフの後ろに見えてきます。
ここに登場した上司たちには、異なる環境下でも「これまでのマネジメント」を継続するという選択肢があったはずです。しかしそうではなく、環境の変化に応じてマネジメントスタイルを変化させた。
これは、ひとつ大切なことを考えるきっかけを与えてくれるものかもしれません。
「準拠枠」から考える
コロナ禍における生涯学習・変容的学習の可能性について述べているある論文では、「コロナ禍/ニューノーマル」という未知の世界において、私たちのコロナ禍以前のマインドセットは機能しなくなっていることが指摘されています(※1)。
働き方や日常の過ごし方を変えざるを得なくなっただけでなく、その背景にあった考え方、捉え方が問われている、ということなのでしょう。その上で、同論文では「準拠枠」(または意味パースペクティブ)という概念を用いながら、未知の世界を生き、状況を打開するための可能性を議論しています。
「準拠枠」(※2)とは、シンプルに言えば、その人や集団が「どういうフィルターを通して世界を見ているか」ということを意味します。アメリカ心理学会の定義では、「考えや行動、経験を判断するための一連の前提や基準」(執筆者訳)(※3)とされ、この準拠枠によって、コミュニケーションにおけるその人の表現の仕方や、日々の行動、物事の受け取り方などが決まっていきます。先の上司・部下の例では、上司の「これまでのマネジメント」を作ってきた、マネジメントや仕事、部下などに対する前提や見方にあたります。
「準拠枠」は、ポジティブもネガティブもなく、ただその人の世界の見方です。しかしながら、先に触れた心理学会の定義の続きには、こうも書かれています。
「準拠枠は、偏見やステレオタイプのように、認識を制限し、歪めたりすることがある」(※3)
自身の「準拠枠」によって、知らず知らずのうちに周囲・世界を見る視野が狭まったり、偏ったりしてしまうというのです。つまり、準拠枠が自分自身や周囲の可能性、行動の結果を限定してしまうこともあり得るのです。
冒頭の調査結果を少し斜めから見れば、もし上司が、従来のマネジメントを支える自身の準拠枠を維持し続けていたら、部下の主体性や責任感という可能性は開かれなかったかもしれません。
自分の準拠枠に気づくことで開かれる可能性
先の論文は、コロナ禍で機能不全に陥っているのはこれまでの準拠枠でものを考えているからであり、それを変容させることで、この先の未来を生きる可能性が開かれること、また、その変容が必要であると論じます。
しかしながら、変容の前提には、まず自分の準拠枠が何か、どこにあるのか、理解することが必要です。少し厄介なのは、準拠枠はその人自身の特性や経験から構築され、あまりにも当たり前となっているがゆえ、従来の準拠枠が機能しないような場面に遭わなければ、なかなか気づくことができない、ということです。
では、どうしたら自分の準拠枠に気づくことができるのか。
一番の手がかりは、不安感や違和感、不快感を覚えたときです。自分が何に不安を感じ、何に違和感を感じているのか。それはあなたにとっての「当たり前」が機能していないことを意味します(※4)。
例えば、いつも話が通じない相手との会話。
相手の態度や言動に対して感じた違和感や不快感。
なぜ自分はそう捉えるのか、そう感じるのか、と掘り下げていくと、自分自身の準拠枠が見えてきます。準拠枠を認識することは、得たい結果に対して有効な行動がとれているのか、そう考えるための起点となるはずです。
普段から、自分がどのような準拠枠を持ち、それによって自分や周囲をどう認識し、周囲の人とどのようなコミュニケーションを交わしているのかに意識を向けることで、見える世界は変わるかもしれません。
あなたには、どんな準拠枠がありますか。
(記事執筆:コーチング研究所 リサーチャー 福林直)
【コーチング研究所調査】
- 調査対象:メールマガジン"WEEKLY GLOBAL COACH"の読者およびコーチングポータルサイト"Hello, Coaching!"ユーザーで、企業/組織で働く方々
- 調査期間:2020年12月23日(水)~2021年1月15日(金)
- 調査内容:「オンラインでの上司・部下の 1on1コミュニケーションについて」
- 調査方法:WEBアンケートでの回答
- 有効回答数:576名
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【参考資料】
※1 Eschenbacher, S., & Fleming, T. (2020). Transformative dimensions of lifelong learning: Mezirow, Rorty and COVID-19. International Review of Education, 66(5), 657-672.
※2 Sherif, M. (1936). The psychology of social norms. Harper.
※3 アメリカ心理学会(American Psychological Association)
※4 Mälkki, K. (2010). Building on Mezirow’s theory of transformative learning: Theorizing the challenges to reflection. Journal of transformative education, 8(1), 42-62.
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