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対話の質、主観の質
コピーしました コピーに失敗しました昨今、「対話」という言葉を耳にしたり、目にしたりすることが増えました。そんな中、いったい「対話」とは何なのか、やり方はどういうものなのか、ということに焦点があたります。
コーチ・エィでは、対話を「互いの主観を持ち込み、その違いを顕在化させ、ともに捉え方、考え方を再構築していくプロセス」と定義しており、対話とは何か、何をすることなのかを説明しています。
この定義を踏まえたうえでさらに一歩踏み込み、今度は対話の「質」に目を向けると、実はそこに持ち込まれる主観が、対話の質に大きく影響するのではないかと思います。というのも、私自身、心の持ちようが変わったことで物事に対する見方が変わり、同じテーマでの対話する中でも生まれることが変化した、という体験があるからです。
今回は、このことについて考えてみたいと思います。
主観と「対話の質」の関係性
一つの正解に向けて交わされるコミュニケーションとは異なり、対話とはそのプロセスを進める中で方向性を見出し、選択肢を明らかにし、実践につなげていきます。対話においては、その目的地が対話のプロセスの中で変化します。コーチ・エィの定義から考えると、対話にどのような「主観」が持ち込まれるかによって、その対話の方向性や選択肢、実践することが変化するということです。
辞書によると、主観とは「自分ひとりの考えや感じ方」であり(※1)、主観は自分が考えることや感じることであるため、それ自体に良し悪しはありません。しかし、上に述べた通り、主観によって対話の方向性や創造されるものが変化すると考えると、主観が対話に与える影響は実は大きいことがわかります。
このように、もし主観が対話の質を左右するのであれば、主観を磨くことには意味がありそうです。では、主観を磨くとはいったいどういうことなのでしょうか。
視点が変わる、主観が変わる
私たちのコーチングで基盤となる考え方に、「自分自身が問題の一部である」と自覚する立場(システミック思考)があります。これは、変革を実現していくために欠かせないポイントです。
会社の問題であれ、社会の問題であれ、私たちはともすると、問題について批判的、批評的な視点で論評します。「ここがよくない」「これが問題だ」というように。これは問題を外側から見るスタンスです。これを「自分自身が問題の一部である」という視点で、自分の責任に引き寄せて見てみると、見え方が変化することが実感できるのではないでしょうか。自分がその問題に影響しているという立場で問題を眺めてみると、「自分には何ができるか」という視点が浮かび上がります。だからこそ、変革のためには、問題を外側から見るのではなく、自分が問題の一部であるという視点が必要なのです。
こうして、外側の視点から内側の視点へと視点を変えると、物事の見え方が変わります。すると当然、自分の考え方や感じ方である自分の主観も変化します。
冒頭で、自分の主観が変化し、対話が変化したという経験があると書きました。それは、非生産的な対話から、未来に向けた行動につながりやすい対話に変化した以下のような体験です。
私は、仕事をする中で生じるいくつかの「問題」に対して、批評的なスタンスで捉え、上司や同僚、後輩たちとコミュニケーションを交わしていたことがあります。自分の主観を持ち込み、相手と対話を交わしているつもりでしたが、いくら話し合っても、そのための時間が過ぎるだけで、何の変化も起きないということが続きました。
あるとき、その悶々とした状態を振り返っているうちに、自分が批評的な立場からものを言っていたことに気づいた瞬間がありました。そして、自分がその問題の当事者であるという視点からの主観を持ち込んだら、その日の対話がまるで違うものになったのです。
自分がどんな主観をもつかで対話の質が変わる。そんな体験がありました。
「心の状態」が主観に影響する
外側の視点、内側の視点という表現を使いましたが、自分自身の体験を振り返り、もっと平易な言葉を使うと「どんな心の状態で」物事を捉えるのかということかもしれません。鬱々とした被害者的な心の状態で問題を眺めるのか、自分にもできることがあるというポジティブな心の状態で眺めるかの違いです。「問題に対して自分の心がどう感じるか」という視点で考えると、対話の質を高める主観についてのヒントが見えてきます。
「心がどう感じるか」について、『最前線のリーダーシップ』という本で、ロナルド・A・ハイフェッツとマーティ・リンスキーは次の図のようにまとめています(※2)。この図は、自己防衛が働くと、心の本質が変化することを表しています。たとえば、本来の心の本質である好奇心は、傷つくことを恐れると傲慢という鎧を身につけ、それは「権威ある知識人」として、「なんでも知っている、そんなことに意味はない」という態度につながるという意味です。
自分の会社、自分の組織である問題が起きているとします。それに対して、自分は何を感じるか。心の本質の状態で感じているのか、それとも、自己防衛によって心を失い、着飾った心の状態で感じているのか。
問題を目の前にしたとき、自分がどのような心の状態にあるかが、そこから生まれる主観に影響することは想像に難くありません。
立ち止まって今一度自分自身が何を感じているのかに目を向けることで、私たちは自分自身が持つ主観を磨くことができ、そこから生まれる対話は、より意味のあるものになっていくのではないでしょうか。
みなさんの主観はどれくらい磨かれていますか?
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【参考資料】
※1 新村出編『広辞苑 第七版』岩波書店、2018年
※2 マーティ・リンスキー、ロナルド・A・ハイフェッツ(著)、竹中平蔵(訳)『最前線のリーダーシップ』英治出版、2007年
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