Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「あなたの思った通りのあなた」をつくる
コピーしました コピーに失敗しました2023年も、残すところあと10日ほどとなりました。この機会に2023年を振り返っている方も多いかもしれません。ちなみに、こんな問いでこの1年を振り返ると何が見えてくるでしょうか。
- 今年、一番多くしていた表情はどんな表情でしたか?
笑顔、しかめ面、どちらが多かったですか。ほかにはどんな表情をしていましたか。 - どのような姿勢で過ごすことが多かったですか?
姿勢よく胸を張っていた方もいれば、肩を丸め、うつ向きがちな1年を過ごした方もいたかもしれません。 - あなたの心を多く占めた感情は何でしたか?
喜びでしょうか、いらだちでしょうか。不安や焦り、緊張という方もいるかもしれません。 - これまでの問いで見えてきたことは、年初に描いた「自分の理想のありたい姿」とは、どれくらい一致していましたか?
ここまで振り返ってみて、どのような発見がありましたか?
ボディ・ランゲージや表情と感情の関係
冒頭の問いは、私が自分のコーチから受けたものです。この1年の自分の表情や姿勢を振り返ると、見えてくるものがあります。
10年ほど前、アメリカの社会心理学者であるエイミー・カディ氏による『ボディランゲージが人を作る』というタイトルのTEDトークが、一世を風靡したことがあります。(※1)彼女の『パワーポーズ』という本は、日本でも注目されました。私たちの「姿勢」「表情」「心情」、そして「結果として周囲に与える影響」は、すべてつながっているという内容です。彼女の研究発表の中でとくに興味深いのは「悲しいから泣き顔になる(心情→表情)」という順番ではなく、その逆だということです。つまり、自分の表情やボディ・ランゲージが、周囲のみならず自分自身の心情や状態へも影響を与えるというのです。
たとえば「力強いポーズ」をすると自信にあふれ、断定的で、動じなくなります。「無力なポーズ」はその逆で、ストレスに過敏になり、リスクを避けようとするそうです。実際に「力強いポーズ」「無力なポーズ」のいずれかのポーズを2分間とってからギャンブルに臨む場合と就職面接に臨む場合のそれぞれについて実験を行ったところ、「力強いポーズ」を取った人の方が、ギャンブルでは強気の賭けに出る確率が高くなり、面接では堂々とした応対をし、良い印象を与えるという結果が出たといいます。
また、脳科学者の池谷裕二氏は、著書『脳には妙なクセがある』の中で、近い研究を紹介しています。(※2)それは、笑顔に近い表情を作ることで、快楽に関係のあるドーパミン系の神経活動に変化が出る、というものです。こちらも「楽しいから、笑う」という因果関係ではなく、「笑顔をつくると楽しくなる」という一般に想起するプロセスとは逆の因果が特徴です。池谷氏曰く、笑顔をつくると、脳が楽しいと勘違いするというのです。
周囲にメッセージを発している私たちの「体」
私自身の1年を振り返ると、コーチとしてもマネージャーとしてもチャレンジングな仕事の機会をたくさんいただいた年でした。しかし、振り返ってみると、「何としてもうまくいかせたい!」という強い気持ちが、私の表情や姿勢に影響していたことに思い当たります。
たとえば、肩に力が入っていることも多く、必死に考え事をする中で、息をするのを忘れることもありました。また、部下に接する時に、険しい表情で接していたことが多かったように思います。そして、険しい表情をすればするほど、ますます私の内面では、ゆとりやリラックスした気持ちが薄れ、焦りや緊張が増幅していったような気がします。
実際に、周囲から「怖い」といわれることが増えました。本当は、軽やかさ、朗らかさをチームに与える自分でありたい、一緒に仕事をして、前向きになれる、活力が増す人でありたい、と思っているのに、現実に起こっていることは全く反対です。
であれば、自らがありたい姿に合わせてボディランゲージや表情、姿勢を意識してみよう、そう思いました。
自分の「体」や「表情」の影響に自覚的になる
自分の描くリーダー像に合わせて、次のようなことを試すことにしました。
- 「しっかりしなきゃ」とこわばる顔の筋肉をほぐす
- 笑顔でミーティングに臨む
- 誰かと話すときは、両手をゆったりと広げて相手を歓迎する姿勢で臨む
ところが、やってみようと思っても、実際にはなかなかそうもいきません。理由はいくつかありますが、大きな発見の一つは、体にもルーティンがあるということです。使い慣れた筋肉、ボディ・ランゲージを体が覚えていて、気を抜くと、それが再現されていることにハッとします。
しかし、使い慣れた表情、姿勢を放置していたら、これまでと何も変わりません。誰かに緊張感を与えていたり、誰かが自分に話しかけるのを遠慮させていたり、もしかしたら誰かのモチベーションを下げていたりすることさえあるかもしれない。
であれば、ときどき立ち止まって自分の状態を感じること。周囲にフィードバックしてほしいとリクエストしておくのもいいかもしれません。
実は、これを書いている今も、集中しすぎて呼吸を忘れる時がありました。そういうときに、ふっと呼吸を取り戻すだけでも、少し気持ちが前を向くと感じます。
新しい年を迎えるこのタイミングで、立ち止まって、自分の状態を振り返ってみませんか。
- あなたは今年、どんな自分であろうとしてきましたか?
- 来年は、どうありたいですか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
※1 エイミー・カディ、「ボディランゲージが人を作る(Your body language shapes who you are)」、TED Talks
※2 池谷裕二、『脳には妙なクセがある』、扶桑社、2012年
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。