コーチングの歴史、具体的なコーチングスキルなど、コーチングとは何かを知るための基礎知識をご紹介します。
エグゼクティブがコーチをつけるということ
DBJ投資アドバイザリー株式会社 代表取締役 村上寛氏
第2章 コーチングの体験
2019年02月19日
海外ではCEOがコーチをつけているケースが珍しくありませんが、日本においてもエグゼクティブコーチをつけている経営トップが増えつつあります。そのお一人であるDBJ投資アドバイザリー株式会社の代表取締役である村上寛氏に、エグゼクティブがコーチをつける意味やその価値についてお話を伺いました。
第1章 | コーチングとの出会い |
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第2章 | コーチングの体験 |
第3章 | コーチングはどんな人に機能するか? |
第2章 コーチングの体験
2014年にコーチングに出会って以来、村上さんは継続してエグゼクティブコーチをつけていらっしゃいます。コーチングの意味合いも、コーチングの中で扱うテーマも、4年間の中で少しずつ変化してきているとのこと。第2回では、実際にコーチングにおいてどのような体験があったかについてお話しいただきました。
「自分はそういう人間だったのか!」という驚き
村上さんは継続してコーチをつけていらっしゃいますが、コーチがついているとついていないではご自身にどんな違いがあったと思われますか。
村上 この4年間、最初にアメリカで出会ったコーチをつけています(インタビュー実施は2018年12月)。コーチをつけて丸4年なのですが、前半と後半でその意味や価値が変わりましたし、これからも変わっていくだろうと思っています。最初の2年は、言ってみれば自分自身について知るための時間でした。「自分はそういう人間だったのか!」という驚きがたくさんありました。
── 「自分自身について知るための時間」とは、具体的にどういうことですか。
村上 コーチがまず最初にやったのは、360度フィードバックでした。私の周りの人たちに、コーチが直接私についてのフィードバックを聞き、情報を集めるのです。
当社では、以前から「360度評価」を導入していますが、その目的はあくまでも評価です。回答するときも、評価を意識して書きますよね。「ここまで書いたら、ちょっとかわいそうかな」とか(笑)、いろんなバイアスがかかります。「360度評価」はあくまでも「評価」なので、全員の平均意見、コンセンサスを探すことだと言えると思います。本人のディベロップメントのためのフィードバックになっているかというと、実は難しいところがある。
「360度評価」で自分がどう見られているかはよくわかっているつもりでしたが、コーチを介した360度フィードバックの結果は、それと随分違って聞こえました。似たような内容なのに、聞こえてくることが違う。コーチという第三者が正確に周囲の人たちの声を集めてフィードバックしてくれるというのは衝撃的な体験でした。
具体的にどんな発見がありましたか。
村上 いろいろありますが、感情のコントロールという点で、コーチからのフィードバックは機能しました。自分でもある程度認識していたし、「360度評価」にも書いてあったけれど、「それが自分だからいいだろう」「そういうところが自分らしいのではないか」と思っていたんです。でも、そのことについてコーチとやり取りする中で「修正したほうがいいことだ」と自分なりに納得感をもつことができました。
やりとりの中に気づきがあったということですか。
村上 そうですね。コーチとやりとりする中で「この振る舞いは、『自分らしさ』というよりも修正したほうがよい振る舞いである」ということに気づいて直す努力をしました。
すべてのフィードバックを取り入れたわけではありませんが、それでも最初の2年間は劇的に変化しました。実際に周囲からも「コーチングを受けて、ずいぶん変わった」と言われます。正確に言うと、コーチングを受ける体験からだけではなく、「コーチングとは何か」について学ぶ中で修正していったところもあります。
メールの書き方もまったく変わりましたよ。4、5年前と今では、メールのトーンや中身が全然違います。5年前の私のメールは、お見せするのが恥ずかしいほどです。今でいう「ハラスメント」に該当するでしょうね(笑)。
マネジメントで求められるのは、一段高いレベルの振る舞い
感情のコントロールや振る舞いは、経営者としての実行力や決断力とは異なります。それでも経営者としての村上さんにとって価値があったというのは、どういう観点からですか。
村上 誰にでも実務を通じて培われた振る舞いやコミュニケーションのパターンがあるものです。たとえば、我々のような仕事だと、交渉の中では怒ったフリをすることがあるし、本当に怒っているときに怒っていることを見せた方がいい場合もある。それは、限定的な関わりだから有効な振る舞いです。マネジメントでは、多様な人たちと継続的に関わりますから、もっと安定感や一貫性が必要です。対社外よりも振る舞いのレベルが一段高くないとマネジメントは成り立ちません。現場よりマネジメントにおいてのほうが、感情のコントロールも求められるでしょう。
自分のコミュニケーションについて知る機会はなかなかありませんね。多くの人にとってコミュニケーションとは、なんとなく「できているものだ」と思ってしまうものなのかもしれません。
村上 それはあると思います。一定のビジネスパーソンは、お客様に対してしょっちゅうプレゼンをしています。そこでは毎回フィードバックがある。要するに、案件がうまくいくかうまくいかないかです。このように、対外的なコミュニケーション能力を培う場面はたくさんあるけれど、社内の人をうまく動かす、つまり部下をモチベートするとか、会社をマネージするということについては、経験の浅い人も多いのです。私もそうでした。お客様と関わることと、会社をマネージしていくということは、次元がやや違います。前者の経験のもとに後者をやると、結構間違えます。
外資の会社も日本の会社も変わらないと言えば変わりませんが、とくに日本の会社はマネジメント研修やリーダーシップ研修をやっているようでやっていないと思います。研修自体はありますが、マネジメントに関して言えば座学は役に立たない。マネージしながらフィードバックを受けるというのが一番効果的だと思いますね。
オン・ゴーイングでフィードバックをもらい続けるということですね。
村上 「360度評価」があってもいいのですが、コーチのように外部の人が入ってフィードバックをしてもらうほうが、より正確だと思います。ビジネスで人とコミュニケーションすることをすごく訓練されている人であったとしても、マネジメントとしてコミュニケーションするには別の訓練が必要だと思うし、そのためにコーチングは役に立つと思います。
コーチは最高の壁打ち相手
自分自身について知る期間を経て、次の段階ではコーチの存在はどのように変わったのですか。
村上 私のような立場だと、本当に難しい問題について相談できる相手はなかなかいません。その観点でコーチの存在はとても大きいです。壁打ちの相手のようなイメージでしょうか。自分が打つと球が返ってきて、「あ、なるほどこうか」とまた球を返しているうちに、新しい角度でものが考えられたり、気がついてないことに気がついたりするんです。コーチというのは、話をするには最高の相手です。
彼が私の会社の状況をよく知ってるわけではないけれど、知らないからこそ「こんなことを考えてみたら?」とか「こういう見方もあるんじゃない?」という純粋な問いが出てくる。コーチに問われると「うん、確かにそういうこともあるのかな」と思えたりするんです。
フィードバックのセッションは、ある程度の期間を過ぎると効果が薄れるかもしれませんが、この壁打ちの相手としてのコーチは、半永久的に続けることができると思います。
繰り返し聞かれる「本当は何をやりたいのか」
ほかにコーチとの関わりの中で印象に残っていることがあれば教えてください。
村上 質問でいえば、繰り返し聞かれる「お前は本当は何がやりたいんだ」という質問でしょうか。このような自分についてより深く考えさせられるような質問は繰り返し何度も聞かれます。「夢を言ってみろ」ともよく言われますね。
「本当は何をやりたいのか」というのは深遠な質問です。「自分は本当は何をやりたいんだろう」なんて、あえて考えたりしないじゃないですか。人から聞かれないと考えないようなことなんです。聞かれることによって考えて「そういえば、そうだった」と思い出すこともあります。
コーチングが経営者としての意志決定に影響するような部分もあるのでしょうか。
村上 もちろんです。コーチングを受けて気づいたことは、実行や行動につながります。気づいて何もしないということはない。意思決定に影響があるような受け方でないとコーチングを受ける意味はないと思います。
インタビュー実施日 2018年12月14日
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