講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


元ラグビー日本代表キャプテン 株式会社HiRAKU代表取締役 廣瀬俊朗氏

元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬俊朗氏 講演録『何のために勝つのか』

元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬俊朗氏 講演録『何のために勝つのか』
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幼少期からラグビーを始められ、高校、大学、社会人、日本代表と所属するチーム全てでキャプテンを経験された廣瀬俊朗氏。ラグビー元日本代表のヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ氏から「ナンバーワンのキャプテン」と絶賛され、2013年の対ウェールズ代表戦では、日本代表チームに歴史的な勝利をもたらすなど、日本のラグビーの発展に大きく貢献されてきました。今回は廣瀬氏をコーチ・エィの勉強会にお招きして、チームをどのようにまとめあげ、リーダーとして何を大事にしてきたのか、についてお話しいただきました。

「仲間との絆」が最強の武器

ラグビーは見てのとおり、しんどいスポーツです。タックルにいくのは痛いし、ケガもするかもしれない。それでも体を張って向かえるのはなぜかというと、仲間のためなんです。「あいつが抜かれた!助けに行かな」「あいつが試合に出れてへんのやから、自分はもっと頑張らな」。チームの強さには、もちろんフィジカルや技術的な面も重要ですが、仲間との人間的なつながりの濃さは、どんなに対戦相手が分析してきても崩せない武器になります。

だから僕が日本代表のキャプテンを任されたときも、キャプテンだから仲間より偉いとか、上と下の関係になるんだという気持ちは全くありませんでした。当時、24年間勝ったことのない日本代表チームには、負けて当たり前という雰囲気も残っていて、集まってきたメンバーにもそれぞれ多様な考え方があり何が正しいのかわからない状況でした。

そんな中で自分がキャプテンを任されたのは、もしかすると、誰とでも分け隔てなく接することができる僕の人間関係を見て、チームとして一つの空気感を作り上げることを期待されたのかな、と考えました。

意見の相違は、見てきた世界の相違

僕は人との関係性を構築するときに、基本的にはまず対話をし、人が人を好きになっていくそんな姿勢を大切にしています。自分以外の人はみな、自分が知らないことを知っている人たち。だから対話の中では、自分の考えも伝えるけれど、相手の考えもバイアスをかけずにフラットな気持ちで素直に自分の中に入れていく。

自分と考えが違う人は、自分には見えていない世界が見えているということだから、相手の考えや態度などを否定することはまずありません。意見を出したり主張してくれること自体がそもそもとてもありがたく、その感謝の気持ちを伝えながら対話を深めていきます。

チームにおいても、周りが意見を出すことを怖いと思ってしまうような空気にしないこと。そして意見を出し合って、一度これでいこうと決めた結論には、まずそれを信じて精一杯やりきること。それが大事だと思います。「やる前から、それがあかんかどうかなんてわからない」「やってみてあかんかったら、また違うやり方を考えよう」。そう仲間に伝えてきました。中途半端な気持ちでやるのが一番のロスですからね。

リーダーに求められる、ぶれない軸

廣瀬俊朗 氏 / 元ラグビー日本代表キャプテン 株式会社HiRAKU 代表取締役
1981年10月生まれ、大阪府吹田市出身。5歳でラグビーを始め、北野高校、慶応義塾大学、東芝でプレー。2007年には日本代表選手に選出され、2012年から2013年までキャプテンを務めた。ワールドカップ2015イングランド大会では、メンバーとして南アフリカ戦の勝利に貢献。 現役引退後はBBT大学院で経営を学び、MBA取得。2019年3月、株式会社HiRAKUを設立。スポーツ普及と教育に重点的に取り組んでいる。 一般社団法人「スポーツを止めるな」共同代表理事、ラグビーワールドカップ2019公式アンバサダー。 著書に『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)『なんのために勝つのか。』(東洋館出版社)
株式会社HiRAKU / 公式YouTubeチャンネル / 公式Twitter / 公式Instagram
写真提供:株式会社HiRAKU

キャプテンやリーダーというのは、チームという人間関係の上に乗っかっている役割でしかありません。だからリーダー自身が完璧であろうと頑張る必要はないし、むしろ頑張るべきなのは、得意も不得意もすべて、素のままの自分をさらけ出すことだと思っています。足りない部分を見せれば、仲間が補ってくれますから。

ただ一つ、リーダー自身に欠けてはいけないことは、リーダー自身がどうありたいのかというぶれない軸を持っていること。これが何よりも大切な一丁目一番地です。自分自身はどのように生きていたいのか。どんなチームを作りたいのか。確固たる信念、自分の軸を持った上で、皆を巻き込んでいくためのアクションをしていく。軸がないと、場の雰囲気や目先のことに流され、強い意思決定や判断ができなくなりますからね。

僕も、エディーさん(エディー・ジョーンズ元日本代表ヘッドコーチ)から伝えられる戦術を、そのまま右から左にチームに流して伝えることはしませんでした。自分がなんとなくでしかわかっていないことは、チームにもなんとなくでしか伝わりません。必ず一度、エディーさんの言うことはどういうことなのか、その本質は何か、自分の価値観で腹落ちするまで落とし込み、それを言語化して、相手にわかりやすく伝えることを心がけました。もちろん戦術が現場の感覚とずれていると思えば、エディーさんと対話をして修正を加えていくこともありました。

自分の軸を持つには、自分のことを深く掘り下げる必要があるのですが、僕の場合は人との対話の中で、人と自分の違いや、自分が大切にしたいことが何なのかといった気づきを得ながら軸ができていったように思います。

チームでパーパスを共有する

いくらリーダーが「こんなチームを作りたい」という強い思いをもっても、一人で実現することはできません。仲間と、どのようにチームを作っていけるか確認することも必要です。日本代表チームでは、自分たちが何のために存在しているのか、大義について考えるミーティングを実際に持ちました。

勝つことを目的にすると、そこには相手という「外」の要素が絡んでくるし、負けたときに何も残らない。そこで、何のために勝つのか、「自分たちはこうなりたい」という、自分たち次第でチャレンジのできる「内」向きのパーパスを考えました。一人ひとりに発言してもらったことで、より自分事として考えてもらえるようになりました。

その中で「もっとちやほやされたいな」という声が出て(笑)、勝ち負けではない価値観として決まったのが、皆にとって「憧れの存在」になることでした。ひとたび決まれば、その後は、「今日の練習や態度は、『憧れの存在』に近づいているか?」とか、試合に負けても負け方というのがありますから、「負けが決まった中でも必死にやり続ける姿勢が、『憧れの存在』に近づくのではないか?」とか、ことあるごとに、そのパーパスと紐づけた会話をしていきました。そうすることで、パーパスが浸透していき、チームの中で醸成されていったように思います。

本人が腹に落ちるまでサポートする

今、僕は次世代のリーダーを育てることにも注力しています。先に述べた通り、リーダーには、自分がどうありたいのかという軸をしっかり持てていることが大事なポイントだと思います。

リーダーの役割を与えたら、基本的には口出しせずに見守るようにしています。リーダーの言っていることと外側に見えていることが異なっているなと思っても「あかんやろ」とは言いません。ただ、外からどう見えたのかをフィードバックすることはします。円陣がバラバラならその場面の写真を撮って見せ、「こう見えたけど、One Teamになってるかな? これが目指している姿かな?」とだけ伝える。それを相手がどう捉えるかが肝心だけれども、僕はやはり、本人が腹に落ちる形で気づくことが大事だと思います。人から一時的に答えを教えてもらっても、腹に落ちていなければ結局は続かないですから。

僕自身もこれから、自分の作りたい世界観をぶれない軸として大事にしながら、自身らしい生き方を切り拓いていきたいと思います。「あいつ、おもろいこと、いろいろチャレンジしてたなぁ」「あいつがいてスポーツが身近になったなぁ」と自分のお葬式で周りにそう言ってもらえるような、そんな生き方を全うしていきたいと思います。

講演日: 2020年10月14日
表紙写真: 株式会社HiRAKU提供


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