講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


リクルートからJリーグチェアマンへ!一流ビジネスマンが挑むJリーグ改革
Jリーグ チェアマン 村井満 氏

第6回 サッカーをもっと身近に

第6回 サッカーをもっと身近に
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2017年10月23日開催の株式会社コーチ・エィ主催のセミナーで、第5代日本プロサッカーリーグチェアマン(Jリーグ)村井満氏に、ご自身がチェアマン就任以来実践されてきたJリーグの改革について語っていただきました。本シリーズでは、村井氏の講演内容を6回にわたってお届けします。

第1回 Jリーグの試合を面白くする
第2回 トッププロだけがやっていること
第3回 世界のトップリーグとJリーグとの違い
第4回 新たな投資先
第5回 サッカーの本質はミス?
第6回 サッカーをもっと身近に

世界初、動画コンテンツを持つサッカーリーグ

様々な施策を実施して3年が経ち、Jリーグの入場者数は、低迷期から反転して上り調子に変わり、過去最高数を記録しています。ツイッターのインプレッション数も、この3年間で25倍になりました。

この変化に注目してくれていた企業が、海外にもありました。

2016年7月、「イギリスに本社をおくパフォームグループが、Jリーグに対して10年間で2100億円の巨額の出資をする」という記事が日経新聞の一面を飾りました。この契約に至るまでの交渉は非常に難易度の高いものでした。

私は、パフォーム社に対して、たとえ2100億円を投資していただいたとしても、提供できるのはJリーグの動画を配信する権利だけであって、動画そのものの権利は渡さないことを主張しました。それは、「反動蹴速迅砲」の成功で、コンテンツを持つことの強さを確信したことに起因します。動画の制作・著作権まで売ってしまうと、ニュースに出す場合にも、ショートダイジェスト動画をライツホルダーから買う必要がありました。

コンテンツの権利は手放さない

Jリーグのコンテンツを、自分たちで自由に使うためにも、コンテンツの権利だけは手放すことができませんでした。先方は当然ながら「それで2100億を出せるわけがない」と主張し、何度も交渉を重ねました。最終的には、パフォーム社の親会社である巨大コングロマリットの社長に、飛び込みに近いかたちで話をしに行き、その結果、私たちの主張を通した交渉が成立しました。

これによって始まったのが、Jリーグが自主制作をした中継映像の、DAZN(ダ・ゾーン)によるインターネット配信です。DAZNを通じて、いつでもどこでも試合を生で見ることができるようになりました。スポーツの試合というのは、結果を知ってから見ても、面白くありません。「今見たい」ライブエンターテイメントです。スポーツはライブで観ることがとても大事なので、その観点からもインターネットとの相性がとても良いコンテンツです。Jリーグは始まってからほとんど成長ができずにいた産業でしたが、パフォーム社との契約によって、10年先に向けて大きな成長カーブが描けるようになりました。

今回の契約の意味で大きいのは、日本で初めてスポーツ産業に2100億円という巨額の資金が循環するいうことです。また、Jリーグは、世界の主要リーグに先駆けてインターネット配信を始め、また、世界で初めてコンテンツの権利を持ったリーグともなりました。もし先ほどご紹介した「反動蹴速迅砲」のような経験がなければ、動画の制作・著作権は、慣例に従い簡単に手放してしまっていたかもしれません。

客観も主観も大事にする

リクルートにいる時も、Jリーグに来てからも、私は、いろいろな経営判断をするときに、必ず主観、客観の両面から情報を見るようにしています。客観的なものの典型はサイエンス。数字の「1」は誰が見ても「1」で、解釈の誤差がうまれません。一方、文学やアートの領域は、主観で解釈の範囲が分かれます。

サッカーを商材としてみた場合、ミサイルの追尾技術を投入して、客観的なファクトやデータを集める。一方で、スタジアムでの感動体験をどうやって演出するかという主観の領域を掘っていく。

私の印象では、客観的なものの方が伝播力が強いと感じます。客観というのは誰が見ても同じように見えるので、コミュニケーションの誤差が生まれにくい。ですので、何か伝える時にはロジックや数字、あるいはナレッジ化したものの方が、伝播力が強い。

スタジアムは個を解放できる空間

一方で主観的な世界は、時に情緒的ととられがちです。現代の日本社会では、情緒的であることが悪いことのような風潮があります。もともと日本社会は、主観的なこと、情緒的なことをうまく育て、共有する優れた知恵をもっていました。赤ちょうちん、運動会、社員旅行、納会といったものはその象徴です。しかし、現在の日本社会は、放っておくと、どうしても客観的な世界が強くなっていく傾向があるように思います。

スタジアムというのは、大きい声を出して喜怒哀楽を解放できる空間です。日本社会では、こうした空間が、家庭の中でも、職場においても本当に少なくなりました。サッカーの興業を上げていくというのももちろん大事な仕事ですが、本当の意味で個の解放ができる空間を作るということについても、大きなテーマをもってやっているつもりです。

(了)


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