講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


リクルートからJリーグチェアマンへ!一流ビジネスマンが挑むJリーグ改革
Jリーグ チェアマン 村井満 氏

第4回 新たな投資先

第4回 新たな投資先
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2017年10月23日開催の株式会社コーチ・エィ主催のセミナーで、第5代日本プロサッカーリーグチェアマン(Jリーグ)村井満氏に、ご自身がチェアマン就任以来実践されてきたJリーグの改革について語っていただきました。本シリーズでは、村井氏の講演内容を6回にわたってお届けします。

第1回 Jリーグの試合を面白くする
第2回 トッププロだけがやっていること
第3回 世界のトップリーグとJリーグとの違い
第4回 新たな投資先
第5回 サッカーの本質はミス?
第6回 サッカーをもっと身近に

Jリーグ実行委員会

チェアマンの重要な仕事の一つに、全クラブの社長を集めた会議を取り仕切る役割があります。会議では、相当な実力者である全54チームの社長たちが一堂に会します。そのような場で、チェアマンとしてアジェンダに対する何らかの結論を出さなければいけません。

Jリーグは公益社団法人なので、54クラブそれぞれが一票の権利をもっている集合体です。たとえば株式会社だったら、大きいシェアをもっているシェアホルダーの方を向いていればよいかもしれませんが、Jリーグの場合は一人一票をもっていますから、54人全員の意見を平等に扱う必要があります。有力チームは「テレビに出たり、新聞や雑誌によく載るのはJ1なのだから、J1が輝くことがJリーグ全体の発展につながる。だからお金もJ1に投資して当然だ」と主張します。対して、J3のクラブは「Jリーグの理念は地域密着だ」と主張します。「一部の都市型クラブだけが繁栄することは理念に反する」というのです。どちらの言い分も納得できます。

Jリーグのデジタル推進

しかし、それぞれのクラブが、それぞれの事情で主張をしても、何も決まりません。そこで私は、何か一貫した突破口を見つけようと、全クラブにすべて赴きました。しかし、なかなか共通した点を見つけることはできませんでした。

しかしある時、どのクラブにも卓越したデジタルエンジニアがいないということに気づきました。たとえば、検索順位を上げるSEO対策については、どのクラブも十分に講じているとは言えない状況でした。eコマース(電子商取引)もほとんど動いておらず、倉庫もなければ物流機能もない。つまり、収益を稼ぐようなデジタルの専門家がいないという実情がありました。そこで、私は「各クラブがデジタル投資をするのは大変だと思いますので、Jリーグが一括で工事して、ネットワークの土管を通します。それを各クラブで使ってください。コストは最低限で済みますし、セキュリティも最高のものを用意します」と提案したのです。この提案は、全クラブの全会一致で可決されました。

「原価0円」のホームビデオ動画が1000万再生に

Jリーグのデジタル化が加速したきっかけは従業員発案の動画です。現在のJリーグは、テレビで試合が放映されることもほとんどありませんし、ニュースにも出ません。そんな中でどうやってJリーグを話題にするのかと悩んでいる中、社員が考えたのがこの動画です。

これは、『キャプテン翼』という漫画の「反動蹴速迅砲」という技を、プロが実際にやるという企画で、ハンディカムを使って撮りました。原価もそこまで高くありません。これをYouTubeに投稿したところ、一週間で400万回もの再生数をカウントしました。これに気をよくして、同じような動画を次々と出していくと、結局1カ月で2000万回以上の再生を記録したのです。この結果を見て、「これはいける」とデジタル化の推進に向けて、私の腹は決まったのでした。

企業とのパートナーシップ

問題はエンジニアの採用でした。いろいろ考えはしましたが、まずこの業界は給料が高くないことがネックになりました。古巣のリクルートエージェントにいくらお願いしても、いいエンジニアを採用することができません。そこで、物流も倉庫も金融決済機能も持っている「楽天市場」を、そのまま持ってきてもらおうと考えました。「楽天市場」にとっては、Jリーグをパートナーにしていると宣伝することができる。その代わりにエンジニアの力を貸してくださいという取引条件に合意してもらい、現在、Jリーグに楽天様からエンジニアが来てくれています。

また、NTTグループ様からもスタッフが来てくれていて、スタジアムにWi-Fiを通したり、アプリを作ってくれたりしています。ヤフー様からも、ウェブ上にどうやって露出するかというコンサルティングのサポートを受けています。

このように、パートナー契約でエンジニアを集めるという方法を進めることで、今Jリーグには、エンジニアが増え始めています。彼らによって、裏側にあるようなデータベースからユーザーエンドのアプリまで、既にたくさんのものが実現しました。

サッカースタジアムを街のシンボルに

また、各都府県のサッカースタジアムの新設・改修も進んでいます。私の仕事の3割くらいは、地方の自治体に通って「スタジアムを作りましょう」と伝えて回ることです。

ガンバ大阪は大阪府吹田市にサッカースタジアムを造りました。4面屋根付きで駅に近い街中にスタジアムが欲しいということで、税金を一切使わずに、民間の資金と募金とtotoくじ助成金だけで、140億円ほどをかけてスタジアムを造ったのです。ここは設備が素晴らしく、いうなればえこひいきスタジアムです。というのも、ホームサイド側はサポーターが一体となって応援できるように応援席がつながっていますが、アウェイ側はそうできないように真ん中にボックス席をぐるっと入れてあります。また、ホーム側の選手のロッカールームは天井がドーム型になっていて、監督が中央に立って円陣を組んだ選手たちに話すと、声が大きく反響するよう音響効果まで考えて造ってあります。なぜこんなことが可能かというと、税金を使っていないガンバ大阪のホームスタジアムだからです。今、こういうユニークなスタジアムが建設されつつあります。

サッカースタジアムには、屋根があること、15分のハーフタイムの間に観客がトイレに行って、売店に寄ることができること、という条件が義務づけられています。東日本大震災の時、被災者の方々は体育館に避難し、和式便所に100人以上が並ぶというようなことがあり、被災地のトイレ問題は本当に深刻でした。でも、災害時などに、サッカースタジアムが近くにあれば、屋根もあるし、水もある、Wi-Fiもフルに使えて、ライフラインも整っている。実は、サッカースタジアムは、防災拠点としてすごく良い設備なのです。

地方自治体を回ってこういうお話をしていたところ、山梨県の甲府でもスタジアム建設が決まりましたし、京都でも亀岡にスタジアムができることになりました。いろいろなところで、街のシンボルとなるようなスタジアム機運が高まっているのです。

(次回へ続く)


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