コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


第三文化の子どもたち(『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』)

第三文化の子どもたち(『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』)

著者:デビッド・C.ポロック, ルース=ヴァン・リーケン
出版社:スリーエーネットワーク
発売日:2010/9/9

第三文化の子どもたち

私はハーフである。英語名は、アイク。父親が日本人で、母親がフィリピン人。父親の仕事の関係で、学生時代はフィリピンやシンガポールで生活し、大学はアメリカ、社会に出て数年後、日本に戻ってきた。帰国当初は、敬語もままならず、日本のビジネスのしきたりに戸惑い、苦労や失敗も多かった。

子どもの頃から、よく聞かれる質問がある。

「アイクの故郷はどこ?日本それともフィリピン?」

小学校から高校の大半はフィリピンのインターナショナルスクールで、英語で授業を受けていた。クラスメートにとっては、外観や苗字からして、私は「日本人」だった。

しかし小学校2年生の頃、日本に一時帰国し、市立の小学校に通うことになった。先生の話がわからず、クラスメートとも会話がうまく交わせず、いじめられた。彼らからしてみたら、私は「外国人」だったのだ。

フィリピンにいても外国人(日本人)。日本にいても、外国人(フィリピン人)。

一体、私の居場所はどこだ?

ハーフに限らず、こういう悩みを持つ子どもたちが、帰国子女にも多いのではないだろうか。

両親の国から遠く離れた場所や文化の中で育ってきた子どもたち、第三文化の子どもたち、「サードカルチャーキッズ」(以下、TCK)のことだ。

今回は、デビッド・C・ポロックとルース=ヴァン・リーケンの『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』を紹介する。

TCKの定義として、いくつか挙げると、
・長期間海外で生活する
・学齢期の大半を外国で過ごす
・両親の文化圏の外で育つ
・どの文化も完全には自分のものではない
・育った国の文化からさまざまな影響を受ける
・海外生活を経験した人にだけ帰属意識を感じる
のようなことがある。

さっきの質問に戻ると「故郷はどこなの?」や「どこから来たの?」

実は、これがTCKが特に"恐れる"質問だ。TCKにとっては、故郷はいろんなところにあって、どこにもない。そして、いつか、また違う場所へ行くだろうから、落ち着かない。そうした「落ち着かなさ」は、発達や人間関係に影響が出てくることもあるが、その反面、異文化への適応能力、状況への観察力、社会的能力や言語力に長けているのも特徴でもある。

実はバラク・オバマ大統領もTCKだった。

オバマ氏は、ハワイで生まれた。母親がアメリカ人で、父親がケニア人。子どもの頃はインドネシアに住んでいたこともあり、地元の学校に通っていた。後にハワイに戻り、祖父母と一緒に住み、多様な文化の人たちと交流ができた。本人いわく、「様々な文化がある中で、お互いを尊重できる環境をもつハワイが、自分の世界観や価値観のベースとなった」そうだ。彼がさまざまな人種と連帯できたのは、子ども時代のTCK体験が助けになったというのは過言だろうか。

TCKとして育ち、成人となった自分にとって、この本は自分自身をよりよく知るきっかけとなった。

例えば、コミュニケーションの取り方。本では、コミュニケーションの「レベル」を説明している。まずは表面的なレベルで、挨拶程度の会話。レベルが上がっていくと、感情的なレベルに進んでいく。そこではじめて、自分の感情や、内に秘めた考えを打ち明ける会話が含まれている。

TCKは、「いつ引っ越すかわからない」「いち早く深い人間関係を築きたい」という気持ちが働くらしい。私も、子どもの頃から、相手をすぐに知ろうと近づきすぎ、相手を敬遠させてしまうことが多かった。成人になってもそういう傾向があった。この本を読んでからはこれを自覚し、もう少し、時間をかけて関係を築き上げようと心掛けている。

職場では、外国人スタッフが多く、日本語がわからない社員もいる。社内メールを英訳したり、会議では通訳をしたり、日本のビジネスのしきたりについて話すこともある。異なる文化や言語に遭遇する人に、できる限りのサポートしたい。そういう気持ちが人一倍強いのかもしれない。

この本に出会い、自分がTCKと自覚し、相手とのコミュニケーションや接し方に大きな影響を与えられた。いろんな人たちの体験談も紹介されているので、多くの視点が得られる、そんな感傷深い一冊だった。


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