コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


歴史をつくるもの(『蒼穹の昴』)

歴史をつくるもの(『蒼穹の昴』)

著者:浅田次郎
出版社:講談社
発売日:2004/10/15

歴史をつくるもの

舞台は清朝末期の中国。四千年続いた巨大王朝の末期に近代化を成し遂げ、国を改革しようとした人々の壮大な「志」の物語である。

中国辺境の極貧の村に生まれた、糞拾いを生業とする子どもが、社会の底辺から知恵と勇気でもって西太后の側近まで上り詰めるサクセスストーリーというのが本筋だが、その過程が凄まじい。時代のうねりに翻弄され、もがきながらも自ら道を切り開いていく登場人物の躍動感に心が震えるシーンが数ページごとに登場し、通勤電車で読むのは危険な作品だ。

そのままでは一生糞を拾って暮らしていくより生きていく術がない主人公、春児(チュンル)は、宝くじに当たるような出世の可能性に賭けて、王宮の奴隷である「宦官」になることを決意する。幼い子どもにとって、なんと残酷な選択だったろう。春児はなんと、自らの手で斧をふるい、去勢するという行動に出る。そこから、鮮やかな出世劇が始まるのである。

また、春児のストーリーと同時平行で、その義兄弟である若者、文秀(ウェンシュウ)の人生も描かれている。文秀は、科挙という熾烈な受験制度に挑み、官僚としての道を上り詰めていく。中華四億の中から選びに選ばれた秀才中の秀才たちが、いよいよ最後の試験という舞台でプレッシャーに押しつぶされて発狂する哀しい姿がリアルに迫ってくる。

春児は西太后の側近として仕え、文秀は対立する皇帝を支える官僚の中心となり、二人は義兄弟でありながら対立する立場となっていく。

権力や富への生々しい渇望、親のエゴや愛憎、仲間の信頼と裏切りなど、次から次へのテーマが展開し、それぞれの伏線が互いに重なり、影響を与え合う流れに、ページをめくる手を止められない。

そして、臨場感のある人物描写により気づかされるのは、激しく対立する立場であっても、それぞれに強い想いをもち、自分をごまかさず、自らの正義をまっすぐに貫き、一生懸命に生きぬく姿の潔さ、美しさだ。

そこには、単純に善悪を決められるものなどなく、それぞれの強い想いによって、歴史が創られている、ということを感じさせられる。

「やりたいことがあるやつには、誰もかなわない。だって、やることを決めているから」

現在勤務している会社の創業者の言葉で、私の印象に強く残っている言葉である。

転職を迷っていたとき、何気なく読み返した本書の、強い意志をもって自らの道を切り開き進んでいく登場人物たちに背中を押された。そして、新しい一歩を踏み出すきっかけとなった。

まったく未経験だったコーチの仕事を前に、本当に自分にやれるのかと尻込みしていたとき、コーチングの可能性と、何より自分の可能性を信じてみようと思ったのだった。

そして今、人と組織の可能性を開くコーチの仕事をしながら、日々お客さまの強い想いに触れる得難い体験をしている。

この本は、ひとたびページをめくれば四巻にわたる長編を一気に読破したくなる。更にはその続編である『珍妃の井戸』、『中原の虹』もすぐさま貪るように読みたくなり、睡眠時間に影響が出てしまう可能性が高いことは一言添えておきたい。

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